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写真機の回廊 ~WIDELUX F8~

WIDELUX F8

今回取り上げるワイドラックスは、フイルムを円弧状に装填し、レンズが旋回することによって露光するやや特殊なパノラマカメラだ。この方式は、1900年発売のパノラムコダックが採用したものが原型で歴史は古い。そのパノラムコダックの大ヒットで 、「パノラマ写真」自体も一般広くに認知されるようになった。
それ以前にも、最古の写真集「自然の鉛筆」でも知られるカロタイプの発明者タルボットが、 写真をつなぎ合わせる方法でパノラマ写真を作成しており、表現形式としてのパノラマ写真にも長い歴史がある。

WIDELUX F8最近では、1990年代の35mm版の上下にマスクをし、プリント時に拡大仕上げをするパノラマブームが記憶に新しい。AFコンパクトはもちろん、中級一眼レフにまでこぞって搭載された機構だ。
その後、1998年に富士フイルムから発売されたTX-1と後継機TX-2はいまだに愛好者も多く、近年のパノラマカメラの大ヒットと言ってよいだろう。
無論、「パノラマカメラ」と一口に言っても様々な撮影方式・フォーマットがあり、フジのTXシリーズとワイドラックスでは、機構も異なれば仕上がる写真も違ってくる。

写真作品に目を移せば、ヨゼフ・スデックのプラハの写真群や植田正治の砂丘シリーズなどが有名だろうか。
個人的な好みで言えば、M.HASUI氏の「PEACE LAND」も印象に残る作品だ。ワイドラックスかどうかは不明だが、レンズスイング式パノラマカメラで撮影されたモノクロ作品で、同タイトル「1990-1994」と「1995-2001」は写真集として出版されている。
素人論評は差し控えるが、作品の内容や質はもちろん、印刷のクオリティも高く素晴らしい写真集だと思う。

さてさて、「写真機の回廊」の前置きが長いのはいつものこと。ようやく「ワイドラックス」である。
ワイドラックスの発売元パノンカメラ商工は、1948年創業(諸般の事情で1952年創業とされることもある)。
35mmフイルムを使用し24mm×59mmの画像を得るモデルは、1959年にFV型が発売されたのが最初(価格74,500円)。この初期型には様々な仕様があったようで、シャッター速度だけでも 「1/5・1/50・1/200」「1/10・1/100・1/300」「1/15・1/125・1/250」のバリエーションを確認している。
水準器の装備やメカニズムの変更、軍幹部がクロームからブラックになるなどしながら販売は継続され、1988年に発売されたF8型(価格171,000円)が最終モデルとなった。

各モデルの詳細は資料が非常に少ないうえ、97%が輸出に向けられていたとのことで不明な点が多い。型番もF VIやF6、F6Bなどが混在し、「MADE IN JAPAN」ではなく「MADE IN NIPPON」刻印のものもある。
レンズの仕様は、一貫して26mmF2.8で4枚構成。ピントは5mに固定されているため、基本は中・遠景をパンフォーカスで使うカメラだ。F6Bから(?)ブラックモデルが生産され、F7・F8はブラックのみとなったようだ。
ブラックモデルは全て、軍幹部の刻印・前面の「WIDELUX」のロゴが金色の仕上げ。

FVからF VIへの変更で、シャッター速度を1/15・1/125・1/250に変更し内部ギア・駆動部分の改善、 軍艦部のアクセサリーシューを水準器に変更。巻き上げノブ上のフイルム感度メモも廃止された。ただし、段階的な変更だったようで、FVでもF VIのシャッター速度のモデルやF6(VIではない)の感度メモ付きのものなども確認している。F6からF7への変更は、内部構造が主かと思われるが詳細は不明。
最終モデルF8への改良で、レンズが新設計・高解像度のものへ変更され、絞り羽根の枚数も増え、コーティングがブルー系からアンバー系になっている。裏蓋にフイルムメモホルダーも追加された。
上記は私が個人的に調べた部分が多く、 修理の際に部品が新しいものに変更されるなどはよくあることかと思うので、あくまで参考程度としていただければ幸いである。

新品での生産は完了しているカメラなので、入手は中古市場でとなるが、周辺部分での光線漏れの他、 レンズのスイングがスムーズでないため露光ムラ(縦じまが入る)が発生する場合もあるようだ。
リーフレットには、「ジェミニ5号の宇宙開発に、南極探検に、ヒマラヤ登頂に、威力を発揮したカメラ」とのコピーがある。そこまでではないにしろ使い込まれた固体も多く見かけるので、初期不良対応や保証付きのものを選んで購入した方が賢明だろう。

WIDELUX F8

ワイドラックスの基本設計はお世辞にも新しいとは言えず、巻き上げ・巻き戻しはノブ式だ。
フイルム装填は、2本のローラーの下を通す特殊な方式(右画像参照)。巻き戻しノブの径の小ささもあるので、撮影前・撮影後の操作は余裕を持って行った方が良いと思う。
また、シャッター最高速度が1/250で絞りがF11までしかないので、状況を見ずにISO400のフイルムを装填すると、露出を制御しきれないこともあり得る。NDを含むワイドラックス専用フィルター(下画像参照)も用意されていたが、今となっては単体での入手は困難。ゼラチンフィルターを適当なサイズに切って、レンズ前面のスリットに差し込む方法もあるが、フィルターを取り出すための手掛かりを付けておかないと面倒なことになりそうだ。

36枚撮りのフイルムで、データ上の撮影枚数は21枚。条件反射的に最初の巻きを少なくして、撮影枚数を少しでも増やそうとするマニュアルカメラ愛好者も多いだろう。私も初めてワイドラックスを入手した際そうだったのだが、22枚撮影できたと喜んでもネガ袋に収まるのは3枚×7段で21枚なのだ。もう一枚の行き場に困るだけなので、素直に21枚で巻き戻すように提言しておく。

WIDELUX F8

それよりも何よりも、最大の注意点は「写り込み」である。140°というパノラマ撮影では、カメラを握っている手や垂れ下がったストラップが簡単に写角内に入り込む。当機を入手して、一度もコレを経験していないという人は極めて稀だろう。
数々の苦い経験から、私は以前コシナフォクトレンダーが発売していたボトムグリップを装着して撮影している。これで左手の写り込みは完全に回避。

余談だが、ワイドラックスと同じレンズスイング方式を採用し、現在も新品で入手できるロシア(旧ソ連)製パノラマカメラ「ホライゾン(ホリゾント)」は、1966年発売の初代モデルから現行機までボトムグリップをセットで販売している。

ファインダー視野率は、公称90%だが実際はもっと低いのでは?と思える。当然パララックスもあるので、これが指先などの写り込みの原因にもなってくる。レンズの発色は良く言えば「落ち着いている」だが、地味目でややマゼンタに転ぶ印象だ。コントラストは高すぎず、シャープネスも十分なものだった。
掲載した実写画像は、やや色味・コントラストを補正しすぎた感もある。が、しかし、見る人の環境で色身も明るさも全く違って見えるのがWEBの哀しさ。文章と画像、合わせて補完していただきたい。

実は、私がワイドラックを入手するのは3度目になる。特殊カメラであるが故、使わない期間がやや長くなると悩んだ末に売ってしまうのだ。そして、「ああ、売らなければよかった・・・」の繰り返し。
パノラマカメラ一辺倒という撮影は被写体探しの面で厳しいところがあるが、 私の最近のお気に入りはパノラマのワイドラックスと、6×6スクエアフォーマットの二眼レフを一台づつ。この二つのフォーマットの相性は、ナカナカ良いなと思っている。重過ぎもせず、私のあてど無く歩く撮影スタイルにも合っている。

三度目の正直、このワイドラックスF8は手放さないだろう。


※実写画像はクリックすると拡大表示します


written by 純s
この記事のカテゴリーは『メイド イン ジャパンの源流』です | この記事は2008年12月05日現在の情報です。

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