ライカ、ハッセル、ヴィンテージカメラなど

WELTBLICK 135mmf1.8 , 35mmf3.5

WELTBLICK
WELTBLICK 135mmf1.8
WELTBLICK 35mmf3.5

 前回に引き続きの作例チャレンジです。
 「ウェルトブリック」と読むと思うのですが、まったくもって詳細不明のレンズで、胴部に白文字で「MADE IN JAPAN」とあるからには日本製なのでしょうが、明らかなのはこのことだけです。
 M42世間……というか、いっそのことこう呼びますが、「M42宇宙」には、こういった正体不明のエイリアンレンズがごろごろ存在しており、多くの場合、その生い立ちから実際の写りまで、一切が深い謎のガス雲に包まれています。
 このWELTBLICKに関しては、どうやら日本のなにがしかのメーカーが製造し、海外に輸出していたOEM(ある販売メーカーに対して、別の生産メーカーが製品を供給し、販売メーカー側のブランドで売ること、Original Equipment Manufacturer)ものであるように思います。
 Vivitar、Porst、Revueonなどがご同類と思われ、ヨーロッパ諸国やアメリカに向けて展開していたようです。今回取り上げたWELTBLICKとしても、これらの中の数種と、特徴的でありながら、完全にかぶるラインナップがあったりするので、実際は供給元が一社だけだったりするのかもしれません。
 ドイツをはじめとする先進国のトレースから始まった日本の光学工業技術が、やがてそれを追い抜き、海外でも確実な価値を持ち始めた時代、戦略的に「日本製」をほのめかすことで売り上げを勝ち取ろうとした、その痕跡と言えるのではないでしょうか。
 今日では、すっかり日本という国は技術と経済の大国(……などという自称を恥ずかしがるというのも、典型的な日本人気質というものですが)となりましたが、長野のコシナ社がカール・ツァイスとフォクトレンダーを製造しているというのが、最も鮮烈に思い浮かびます。海外では「日本製だから確かだ」と手に取られ、日本では「あのカール・ツァイスか!」と手に取られるというわけです。

 しかし、ことWELTBLICKなんてブランド名は、今ではすっかり誰も知らず、海外に輸出されたとおぼしきレンズそのものの存在も、まるではじめから無かったような扱いです。
 遠い異国の地で眠りについているものも多いかと思いますが、しかし中には、生まれ故郷を偲ぶかのように、ぼろぼろになりながらも、こうして戻ってくる個体があるのです。あるいは、本懐を遂げられぬまま本国(=日本)で終戦を迎えたものか……。
 実際のところ、このレンズたちが本当はどういう半生を歩んでここにあるものなのか筆者にもわかりはしませんが、ならば、と、可能性ある限りのロマンチックな想像をすることと決めています。このコラムは、迷惑にもそのような勢いでお届けしております。
 何より、M42というジャンルには、それを許容するだけのフトコロというものがあるのです。

 長くなりましたが、一般的なご趣味の方からすれば、「聞いたこともないし、すげえ怪しげ」……という、そんなところだと思います。
 いや、怪しげなモノの中には、実際使ってみても怪しいなコレ、というのもたくさんあるのですが……中には、伝説の富岡光学製品の例のように、後年になって評価が跳ね上がるようなものも、時々隠れていることがあります。
 知名度が低いからといって無視せず、まずは試してみるべし、です。むしろ、怪しげでも「メイド・イン・ジャパン」、日本のメーカーが作ったものなのですから、それなりの実力を持っていることの方が多いのです。
 実際、筆者が所持しているVivitarも、一説にはどうやらトキナーかどこかが作ったのじゃないかということらしく、まあそれなり、それなりの写りはしてくれています。

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 そういうところですが、なんと極端なシロモノが出てきたものでしょうか。
 135ミリf1.8……もちろん、筆者がこれまでの人生で見てきた135ミリの中で最も明るいレンズのひとつです。
 同スペックで思い浮かぶのはどれも一流メーカーの自信作ばかりなので、このダークホースと言いますか、要するに正体不明のレンズに対しては、チャンピオンに平気で蹴りを見舞う誰も知らない覆面レスラー、みたいな印象を抱かずにはいられません。こんなとんでもないヤツ、今日初めて知った! なんてことしてくれるんだ!
 しかも、この覆面、かなりの巨漢です。フィルター径82ミリ、重量820グラム……。前にタイイルというロシアレンズをデカいデカいと書きましたが(「ТАИР−11А 135mmF2.8」の回をご参照下さい)、こちらの方が格が上です。
 写真を見ていただければわかる通り、その巨大な図体にガラスがずっしりみっしりと詰まっています。未来すら写しそうな水晶玉……というか、恐るべき金属と硝子の巨塊です。ネジのマウントがヘシ折れないか心配ですし、実際、これをつけられたLXのグリップは、時折ミシリと嫌な感触を伝えてきました。
 しかし、おかげさまでものすごく明るいです。夜でも、あるまじき速度のシャッターがサクサク切れ、これは断然気持ちいいです。

 タクマーと同じオーソドックスなオート絞り式なので、マニュアルに切り替えれば何の支障もなくデジタル一眼でも使用できます。
 最新のデジカメの超高感度とこの明るさが手を組めば、夜の街でも見えぬものはない、と言ったところでしょう。描写も、古いものであることを考えれば、悪くはないと思います。
 こいつはすごいぜ、M42史に残る傑物かも知らん、と良い気分にひたっていた筆者でしたが、一般の方のくださる率直な感想というものは冷酷なもので……例えば、こうです。

「なんか、グロい」
「深海魚みたいなレンズ」
「そういうのをあまりこっちに向けないで」

 ……いや、その通りだと思います。深海魚。言い得て妙だとすら思います。
 間違って網にかかると近い未来に不吉なことが起きる……とは言いませんが、それくらい滅多にお目にかかれず、極端なシロモノであることには間違いありません。
 ホコリが多めに混入していましたが、特に悪影響は感じませんでした。


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 さて、一方では……最初にお断りしておきますが、こちらは難あり品、巨漢の片割れと比べるとすごく小さく見える35ミリf3.5です。
 外見は、よく見るとなかなか個性的な形をしています。あくまで輸出ものであっただろうという推測の元での話ですが、欧米受けを狙ったものか、はたまた向こう様からデザイン協力があったのか、どことなく和製らしからぬこしらえに見えます。
 プリセット式のレンズですが、絞りとプリセットのリングが本体中央に位置しているのも個性的です。
 個性的というコトバは大変便利ですね。グルメリポーターが好んで使う、「好きな人にはたまらない」みたいなもんです。リングが細く、微妙に引っ込んでいて……ごめんなさい……使いづらいです。爪を立てるような感じで操作するため、ファインダーを覗きながら絞り値を変更するというような操作には向いていません。
 最短撮影距離は70センチと、寄れません。しかも、後玉が大きくせり出すため、カメラによってはミラーに衝突する危険性があります。実際、何度か当てたのであろう……後玉に傷が見られます。
 ツァイス・イェナのフレクトゴンなどの古いもの、ヤシカのヤシノン、ロシアものの一部にもこういう性質のモノがあったと記憶していますが、入手をお考えの際は、実際にご使用のボディをお店に持って行くなどして、よく検討してからご購入になられることをおすすめします。
 今流行りのマイクロフォーサーズなら、そもそもミラーレスで心配レスなので、気軽に楽しめます。

 使用感としても、なんだか、レンジファインダーのレンズを無理に一眼レフで使おうとしているかのような気分になりますが、実際、この寄れなさ加減、異様に枚数の多い絞り羽根などを見ていると、OEMのどさくさにまぎれて、レンジファインダー用レンズ(か、黎明の一眼レフレンズ)をコピーしたのでは?? などと想像したくもなります。
 写りの方は、キズものの割には、日本製の期待を裏切らず、そこそこしっかりしていました。発色もまず忠実。70センチという最短距離とf値の凡庸さのせいで多少の工夫は必要ですが、円形絞りもおいしいところです。

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 興味深い二本でした。
 最近知ったことですが、WELTBLICKには35ミリにもf1.8という大変魅力的な性能のレンズがあるらしく、この原型を作ったメーカーがどこであるのか、ますます興味が湧きました。
 相変わらず詳細はわかりませんが、大変探究心旺盛で、挑戦的なメーカーのような印象を受けます。彼らにとって、名前を隠して挑んだOEMという市場は、またとない実験場だったのかもしれません。

 知名度が低く、所持して撮影したからといってステータスになるようなものではないかもしれませんが、それで撮影の面白さが減るわけではありません。
 中古カメラ店としては、もちろんより良い道具をご提案し続けてゆくのがお仕事ではありますが……こういうようなシロモノの魅力もご紹介し、アーカイブ的に記録を残していくことも大切な使命ではないかと筆者は考えます。

 いや、それより何より、ここへ来てますますM42はなんて面白いカテゴリーなんだ! と、声高に叫びたいような気分でいっぱいです。


written by イノウエ
この記事のカテゴリーは『M42星雲』です | この記事は2010年04月17日現在の情報です。


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