マップカメラ店長がカメラについてアレコレ語る『極私的カメラうんちく』

第4回:レンズシャッターの遺伝子

かつて1960年代から70年代にかけて35mmLS(レンズシャッター)機という安価な小型カメラのジャンルが一世を風靡したことがある。フィルムは35mm、距離計は二重像合致式の連動型で40mm前後のレンズシャッター内蔵レンズが固定されていた。そして比較的安価な設定ながら後期の機種には「EE(エレクトリック・アイ)」と呼ばれるシャッター優先自動露出機能が搭載されており、AFが一般化する直前まで今で言うコンパクトカメラのポジションに君臨していた。

EEが搭載される以前、35mmLS機にはF3.5~2.8程度の設計に無理の無いシンプルな構造のレンズが装着されていた。そのため距離計もシンプルでボディサイズは比較的小型である。しかしEEの搭載前後からは各社が競ってF1.9、F1.8その次はF1.7といった具合に超大口径レンズを搭載していった。当時のLS機は実用性以前の問題としてちょうど今のデジタルカメラの画素数競争と同様、レンズの開放F値がカメラのステータスを大きく左右したためである。当然レンズの大口径化は測距精度確保のためにボディの大型化を促し、小型軽量が特長だった35mmLS機は最終的にとてつもなく巨大化してしまったのである。

焦点距離40mm前後で開放F値がF1.8やF1.7というレンズスペックは、当時の一眼レフや高級フォーカルプレン機用としても本格的なものである。しかし大衆機に搭載する訳だから開発コストをかけるにも限度があり、実際そのレンズ性能は満足のゆく画質を得るためには2~3段も絞らなければならず、極論すればF2.8以上の絞り値はほとんど飾りに近いものだった。

一度廃れてしまった流行ものを振り返るときに、ある種の滑稽さを覚えるのはカメラに限ったことでは無い。しかし連綿と続いてゆく正統進化と、先行きの無い一過性のブームをその時代に居ながら見分けることは難しい。もちろんブームを作る側のメーカーは商業原理に則って売れる製品を製造しているだけなのだが、ある日どこかで大きな方向転換があると巡り巡ってそれまでの常識論は簡単にひっくり返されてしまう。激化した開放F値競争の結果生まれた「超大口径LS機」はその後カメラボディにフラッシュを内蔵することが可能になったことや、高感度カラーフィルムの登場、AFの実用化による測距精度の問題から野放図な大口径を維持出来なくなったため急激に姿を消してしまった。

その後1990年代になって「高級コンパクトカメラ」という新しいジャンルが急に脚光を浴び始めた。「超大口径LS機」の絶滅以降、大衆機としてAF、フラッシュやモータードライブの内蔵、ズーム化などの正常進化を続けてきたコンパクトカメラの分野に、突如プロユースに耐える単焦点レンズと高価なチタン製外装という組み合わせで登場したコンパクトカメラ、コンタックスT2が、中級AF一眼レフがレンズ付きで買える程の価格にも関わらず爆発的なヒットとなったのである。ニコンやライカ、ミノルタ等もF2.8~3.5の単焦点高性能レンズを搭載したチタン製外装のコンパクト機で追随し、チタン製高級コンパクトはあっという間にひとつのジャンルを築いてしまった。

 そしてそんな折に発売されながら唯一大口径35mmF2レンズを搭載しあえてフラッシュを内蔵しないスタイルで異彩を放ったのがコニカHEXARである。

フラッシュを内蔵せずに大口径レンズを採用するという設計思想は、かつての超大口径LS機に一脈通じるものがある。しかしHEXARの場合レンズ性能は絞り開放から極めて高く、絞りにレンズ性能の向上を期待する理由は無い。また大口径レンズを開放から使用するために十分な性能を持つ新開発の高精度AFモジュールを備え、ボディの大きさもグリップ感の維持のため最低限を確保したと言える範囲に収まっている。気が付いてみると、かつての超大口径LS機が持ち合わせた難点はことごとく改良されていた。当然のことだが、HEXARの仕様は20年前の「超大口径LS機」のことなどいざ知らず、他メーカーの競合機との差別化だけを多分に意識して作られた結果であることは確かだが、その風貌は超大口径LS機の直系の子孫とも思えるほどよく似ている。

既に地球上から絶滅した生物が、もし絶滅することなくsそのまま進化を続けていた場合の生物学的シミュレーションが流行ったことがある。しかしHEXARの例は、超大口径LS機からの中間の進化形態が全く存在しないところがとても奇異である。完成されたものがいきなりそこにあるという意味であたかも絶滅したはずの生物が水面下で人知れず進化を継続し、あるとき水面に急浮上したかのように見える。それは単なる復刻やリバイバルと異なり、幾多の偶然が成しえた非常に興味深く貴重な存在と言えるだろう。現在フィルムからデジタルへ消費者の需要が大きく変貌する中で、たくさんの優れたものやシステムが日々淘汰され消え去ってゆく。時代の流れと言えばそこまでだが、その中にいつの日か水面下から急浮上して我々を驚かせてくれるHEXARのように逞しい遺伝子がある事を望んで止まない。

written by ストロベリー小野
この記事のカテゴリーは『極私的カメラうんちく』です | 2005年04月20日

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