マップカメラ店長がカメラについてアレコレ語る『極私的カメラうんちく』

第7回:単三電池の生命力

カメラに始めて電源という概念が持ち込まれたのは、恐らく露出計とフィルムの自動給送が最初である。そして露出計はカメラに内蔵するために小型な水銀電池から普及し、その後さらに小さな銀電池やアルカリ電池に代わったが、モータードライブ用内蔵電源としては単三電池が標準となるのにそれほど時間は掛かっていない。1960年代から70年代にかけて作られたモータードライブは外付けの構造で、露出計とフィルム給送のために別々の電源を用いていた。その後単純な露出計がAE(自動露出)に進化したあとも電池は別々のままだったが、80年代になるとそれまで外付けだったモータードライブの内蔵化が進み、AEとフィルム給装の電源が共用一元化される。そしてここまでが単三電池全盛の時代だが、90年代に入るとカメラのオートフォーカス(AF)化と同時に高性能リチウム電池を使用するカメラが続々と台頭してくる。

 実は現代のカメラ設計者にとってアルカリやマンガンの単三電池はちょっとした困り者である。AF以降のカメラはたった一つの電源によってカメラの機械動作と同時にCPU(中央演算素子)による測距や測光といった情報の高度な演算処理を行っている。そのため電源には初期電圧やその持続性といった基本的な性能以外に、瞬間的な大電流を安定供給する特性も要求されている。この特性が不十分な場合、CPUは瞬間的にせよ十分な電流を得られず、いわば貧血の状態に陥ってしまう。マンガンやアルカリの単三電池はこの瞬間的な放電に対応する性能が低く、フィルムカメラに比べてさらに多くの電流を必要とするデジタルカメラには不向きとすら言われる所以である。カメラのAF化と同時にリチウム電池が一般化した理由は、CPUの作動環境を高次元で確保するために他ならない。

 その一方で一部のプロ用機や、あるいは一眼レフであれば別売の電源パックの使用によって単3電池が使える環境は確実に受け継がれてきた。当然そのためには予め性能の劣る単三電池にあわせた設計がなされていなければならず、カメラの設計に多分な影響を及ぼしたであろう事は容易に想像がつく。そしてそれだけの代償を払いながらも単三電池が使えるメリットとしては外出先で緊急時に購入できるといったふれ込みが一般的であり、確かにリチウム電池の入手が今ほど容易ではなかった時代にはユーザーにとってそれは重要な意味を持っていた。

 しかし現在カメラ用のリチウム電池の入手に困ることは殆どないはずである。値段はどうあれコンビニの電池売り場ですら大概の電池が入手できる。逆に言えばリチウム電池が入手できなければ単三電池もまた然りなのである。

 ところが単三電池を使用できるカメラは、ここ数年デジタルカメラの時代となってからむしろ増える傾向にある。緊急時専用と銘打ったものを含めるとその数はさらに増える。入手が容易で性能の優れた電池が他にありながら、作り手側にとって歓迎されない単三電池に何故そこまでこだわるのか。またあえて事細かな使用制限を設けてまで単三電池を使えるとアナウンスする必要性とはいったいどのようなものだろう。

 強いてその理由を挙げるとすれば他の電気製品でも使用できるグローバルスタンダードとしての知名度ではないだろうか。単三電池ならば誰でも一度は使った経験があり、カメラ以外に使われることの殆ど無いリチウム電池とはそこに決定的な差がある。どうやら設計者の意図に反してその絶大な知名度がゆえ単三電池は依然「緊急時」に最も入手しやすい電池として利用者側にプログラムされているのである。そしてそれが事実かどうかはこの際あまり問題ではない。

 では実際に単三電池はどのように使用されているのだろうか。現在デジタルカメラの推奨電池としては、もともとフィルムカメラの時代に超低温条件での使用を目的に開発された単三型リチウムがあり、また昨年はデジタルカメラなどの電子機器での使用を前提として、乾電池としては40年ぶりに開発されたオキシライド乾電池が加わった。そしてフィルムカメラの時代と現在で大きく異なるのは充電式の単三型ニッケル水素電池の存在である。かつて充電式電池のスタンダードだったニッカド電池の優に3倍の性能を有する現在のニッケル水素電池は、マンガン乾電池やアルカリ乾電池と違ってデジタルカメラとの相性もよく、繰り返し使える利便性と廉価なことから多くのユーザーに歓迎されている。単三電池使用のデジタルカメラは事実上このニッケル水素電池の存在を前提に成り立っていると言ってよい。そして今後もその性能は着実に上がってゆくことだろう。

 単三電池は数十年前にフィルムカメラのモータードライブ用としてカメラと出会って以来、その後単なる電動モーターの電源からコンピューターに匹敵すると言ってもよいCPUの電源供給へと、その役割において大きな変貌を遂げてきた。その間その大きさや電池特性といったハンディキャップをことごとく乗り越え、並み居る新型電池を差し置いて生き抜き、そしてその形を変えること無く今なおその存在を主張している。いつ絶滅してもおかしくない状況を何度もかいくぐってきたその恐るべき生命力の強さと波乱の歴史は、フィルムフォーマットにおけるライカ判に匹敵すると言っても過言では無い。

 昨今、専用の薄型や大容量のリチウムイオン電池を採用したデジタルカメラが相次いで発売される一方で、単三電池が使えるカメラが力強く息づいていることに奇妙な郷愁と安堵を覚えるのは、スチルカメラのパートナーとしての歴史の深さがゆえだろうか。たゆまぬ改良と多様化によってデジタル化の大波を乗り越えた単三電池は、今また新たな寿命を得たといえるだろう。

written by ストロベリー小野
この記事のカテゴリーは『極私的カメラうんちく』です | 2005年07月20日

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