マップカメラ店長がカメラについてアレコレ語る『極私的カメラうんちく』

第19回:デジタル一眼レフの空白時間

現在のデジタル一眼レフメーカーが採用しているマウントは、フォーサーズを除いて全てフィルムカメラ時代からの遺産である。つまりデジタル一眼レフメーカーはフィルムカメラからデジタルカメラへの移行期を、ほぼ一貫したマウントで乗り切ってきたわけだが、一眼レフのマウントは交換レンズとの絞り連動方式によって2種類に分けられることをご存知だろうか。今回は普段あまり話題になることの無い、絞りの連動機構について考察してみることにする。

絞りの連動(駆動)方式はリニアモーターによって絞り駆動を行う電気連動式と、絞りをスプリングで引っ張って駆動する機械連動方式の二種類に分けられる。前者はキヤノンのEOS(EF)やコンタックスNおよび645システム、シグマのSAマウント、そしてフォーサーズなどが採用しており、EFを除くと近年に規格されたものばかりである。後者は現在ニコンFマウントを初めとしてペンタックスKマウント、ソニーα、ライカR型が採用しており、またM42やMD/MCやFDなどの旧規格マウント、さらに殆どの中判一眼レフも機械連動方式であり、現在最も一般的な連動方式といえる。

ご存知のとおり一眼レフのレリーズの一連動作は非常に複雑な動作を瞬間的に行っている。レリーズの一連動作はフォーカルプレーンシャッター機の場合 ①ミラーが上がる②絞りが指定値まで絞られる③シャッター幕が走行を開始する。④シャッター幕の走行が終わる。⑤ミラーが戻ると同時に、⑥絞りが開放に戻る⑦次のレリーズのためにシャッターチャージとミラーチャージを行う と大雑把にみてもこれだけの動作を一瞬で行っている。これらの動作はシーケンスという順番によって動作タイミングが設計段階で厳密に決められている。そのためそれぞれの動作開始と完了の情報伝達が、正確で確実な動作には欠かせない。

リニアモーターを採用した絞り羽根の電気連動式は、1987年にキヤノンが「世界初の完全電子マウント」の触れ込みで、当時としてはきわめて革新的な新規格としてスタートした「EFマウント」が最初である。この当時は一眼レフのAF化がレンズとボディ間に急激な情報通信の増加をもたらし、そのためマウントを新規格化すべきか、旧来のMFレンズとの互換性を維持すべきかが大きな議論になっていた時代である。EFマウントは業界では後発となったキヤノンのAF一眼レフシステムの象徴であり、それまでキヤノンが展開していたMF一眼レフシステムのFDマウントと全く互換性を持たなかった。しかも当時標準だった、ボディ側からレンズを駆動するAF方式(カップリング)を完全に否定し、その当初から全ての交換レンズ内部にオートフォーカス駆動用のモーターを内蔵している。さらにその「電子化」は、当時前例が無かったリニアモーターによる絞り羽根の駆動方式を採用するほどの徹底ぶりだった。キヤノンはこの二つの「電動化」に加えてレンズ情報の通信を全て電子化した事を指して「完全電子マウント」と呼んだわけだが、その先見性は、10年以上後に新設計されたオートフォーカス一眼レフのマウント規格が軒並み完全電子化されていたことからもよく判る。当然ながらEFレンズをはじめとする完全電子マウントには連動ピンやレバーの類が全く無い。レンズマウント部には電極接点が規則的に配列されているのみである。そのため電気連動式のレンズは、後ろから見るとどれも同じに見えるほどである。

高度に電子化されたマウントは、絞り羽根の動作開始はもちろん、動作完了も電気的に信号を得ることができる。そのためレリーズに伴うレンズ側とカメラボディ側の一連動作の全てを電気的に同調させることが可能である。しかし一方では比較的単純なしくみで動作する機械連動式に比べて信頼性の確保が大きな課題であるのみならず、旧来からの一眼レフシステムを有する老舗メーカーにとっては、マウント規格の大幅な変更を必要とするため、それまでの自社製レンズとの互換性を大きく失うデメリットがある。フォーサーズのように完全な新規格であれば新技術を迷い無く導入できるが、新技術の導入それ自体が自社製レンズとの互換性を損なうと判っている場合、多くのメーカーが慎重にならざるを得ない事情がある。

一方機械連動式の絞り機構は、基本的に1950年代から60年代にかけて「完全自動絞り」として完成した連動機構を踏襲している。そのためαマウントを除いて、全てこれまで規格の変更を出来るだけ行わずに済ませてきたメーカーが採用している。数十年の技術的な蓄積によって信頼度が高く、また旧来の自社製レンズとの互換性を最大限維持できるのが大きなメリットである。

機械連動式のほとんどは、レンズが未装着状態ではスプリングが縮むテンションによって最小絞りになるように作られている。それがボディに装着する時の回転動作によって、ボディ側のレバーがレンズの連動ピンをいっぱいまで押し上げることによって絞り羽根が開放にセットされる。そしてレリーズの瞬間にボディ側のレバーを移動し連動ピンを開放すると、再びスプリングが縮む力によって絞り羽根が小絞りに向かって動く。このときボディ側のレバーがどの程度移動するかによって絞り羽根の停止位置(つまり実絞り値)が制御されている。僅か十数ミリ程しかない連動ピンのストロークを、ボディ側から数十段階に正確かつ瞬時に制御する技術には感心するばかりである。

しかし機械連動式には絞り羽根そのものの動作をレンズ側からボディ側に伝達する仕組みが無いため、全てを制御するカメラボディの側からすれば、いわばそこは「空白の時間」である。つまりいつ絞り羽根の動作が開始され、いつ指定の絞り値で停止したかが判らない。そのためカメラボディ側は、「ボディ側」のレバー作動完了から一定の時間を、次の動作指令までの待ち時間として「見越す」必要がある。機械連動式を採用するメーカーにとって、この絞り動作時間をどう見越すかは重要な問題である。もしこの「見越し」が少な過ぎた場合、最悪の場合絞り羽根が指定の値で停止する前に、シャッター幕の走行やスピードライトの発光が始まってしまう。かといって余裕をとり過ぎると今度はブラックアウトの時間が長くなり、高速連写やオートフォーカスの動態追尾性能にまで影響する。また機械連動式は、仮に開放絞り付近での撮影時であっても、常に最小絞りまでの動作時間を見越さなくてはならないハンデを持っている。

特に旧いレンズでは、個体の機械的なコンディションによっても動作時間が変わってしまう場合があり、それこそ数十年分のレンズインフラを抱える老舗メーカーにとっては、新型のカメラボディの設計の足かせがそれだけ増えることになる。これは旧来レンズとの互換性を最大限確保するために、マウント規格の変更を最小限にとどめて来た努力とは裏腹な結果である。この「空白の時間」を巡って、新型デジタル一眼レフにはカメラ設計者の寡黙な闘いが見え隠れしている。

こうしてみると一方的に不利に見える機械連動式だが、実用上この両者に大きな違いは生じていない。両者とも既に秒間5~8コマ程度の連写性能まで対応してきた実績があり、もしそれ以上の超高速連写性能が必要になった場合は、どちらの場合でも連写中は絞り羽根を固定してしまうためである。むしろこのレベルになるとフィルム給装や画像データの転送など、別の問題の方がはるかに大きい。

MF一眼レフ時代のマウントとの互換性を、デジタル一眼レフまで維持してきたメーカーにとって、その歴史はレンズとボディの情報伝達や動力供給を少しずつ電気的な連動に置き換えてきた歴史でもあった。MF時代の終盤にはレンズの絞り値をボディ側へ電気的に伝達することが可能になり、さらにAF時代の幕が開くと、焦点距離やピント位置などの情報伝達も可能になった。そして現在は旧来レンズとの互換性を維持しながらレンズ内モーターを駆動することまで成し遂げられている。

ここまでは着実な電子化が進んできたわけだが、実は絞り値を電気的に伝達する技術は1980年代に完成していたにも関わらず、いまだに機械式でも可能な機能を持ったカメラボディが最新型のデジタル一眼レフとして存在する。もちろんそれは旧規格レンズユーザーへのメーカー側の配慮に他ならないが、移行期間のこういった配慮はそれだけメーカーにとって少なからぬ負担であることは間違いない。そして数十年間に亘る二重投資の事例を目の当たりにするとき、互換性を維持しながら電子化することの難しさを考える。もしも互換性を維持しながら絞り羽根の動作を電子化するとした場合、そのときはいったいどれほどの移行期間が必要なのか、全く想像すら付かない。

レンズとボディ間の高度な通信機能が、カメラの高機能化そのものに由来するものである以上、一眼レフマウントの電子化はこの先も着実に進んでゆくことだろう。その時互換性を維持したメーカーの絞り連動機構は、最後まで機械連動のままなのだろうか。

旧規格を切り捨てて新規格に乗り換えるか、それともあくまで互換性の維持にこだわるのか。もしかするとこの先にも、AF一眼レフ誕生の時のような大きな分かれ道が待っているのかも知れない。

written by ストロベリー小野
この記事のカテゴリーは『極私的カメラうんちく』です | 2006年07月20日

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