マップカメラ店長がカメラについてアレコレ語る『極私的カメラうんちく』

第54回:大ヒット商品の条件

世に言うヒット商品とは沢山あるが、戦後のカメラ史を紐解いてみると、面白いことにおよそ10年に一度の割合で爆発的なヒット商品が生まれていることがわかる。

■リコーフレックス III  発売年月:1950年9月  発売時定価:7,300円
二眼レフの定価が3万円前後だった時代に定価7,300円で発売され、爆発的ヒットとなる。カメラの生産台数といえば一機種で数千台が普通だった時代に、当時としては空前の月産1万台を達成した。この大量生産対応のために、ベルトコンベアー方式の生産ラインが導入される。この大ヒットにより日本では二眼レフブームが起き、またカメラの大衆化が一気に進んだ。

■オリンパスPEN  発売年月:1959年1月  発売時定価:6,000円
言わずと知れたハーフサイズカメラブームの火付け役。このカメラの発売をきっかけに、オリンパスのみならず他メーカーからも沢山のハーフサイズカメラが世に出ることになった。

■ペンタックスSP  発売年月:1964年7月  発売時定価:30,000円(ブラック1,000円高)
当時としては画期的だったTTL露出計を内蔵しながら、破格の低価格で発売された。
1966年にベルリンフィルハーモニー管弦楽団が日本を訪れた際に、メンバー全員がペンタックスSPを買い求めたという逸話は有名である。ちなみにこのときのベルリンフィルの指揮者はあのカラヤンだった。

■キヤノンAE-1  発売年月:1976年4月  発売時定価:81,000円
連写一眼のキャッチフレーズで発売後たちまち大ヒットとなった。このころから自動露出(AE)の機能が本格的にカメラに導入され始めたが、他のメーカーが技術的困難から絞り優先AEを採用していたところに、AE-1は絞り優先よりも高度な制御技術が必要なシャッター速度優先AEをいちはやく採用。優れているのは絞り優先かシャッター優先かの論争を巻き起こした。

■ミノルタα-7000  発売年月:1985年2月  発売時定価:80,000円
世界初のフルオートシステムAF一眼レフ。
当時の関係者の間では大手一眼レフメーカーといえばニコン、キヤノン、オリンパス、ペンタックスであり、そこにミノルタの名前は無かった。そんな時代に一気に知名度とシェアを獲得したミノルタ起死回生の逆転ホームランとなった。

■カシオQV-10(QV-10A)  発売年月:1995年3月  発売時定価65,000円
デジタルカメラの黎明期の製品でありながら、撮影画像をその場で確認できる背面液晶パネルを世界で最初に装備したことにより、デジタルカメラとしての機動性を飛躍的にアップさせた。今やデジタルカメラの撮影では当たり前になった、「撮ったらその場ですぐに確認」はQV-10から始まったのである。
偶然なのか必然なのかは判らないが、本当に約10年周期で爆発的ヒット商品が発売されている。こうしてみると爆発的ヒット商品となったカメラは、1950~1960年代の比較的旧いカメラでは安い価格が大きな要因となっているのに対し、70年代以降は新しい機能や性能が決め手となっている場合が多いようにみえる。1950年代から1960年代の日本ではカメラが一気に大衆化した時代であり、突出した高性能ではなくとも、低価格を実現することによって大衆の興味を引くことが出来たのではないだろうか。低価格だけでも十分にヒットの理由になった。それが1970年代以降になると価格に加えて機能や性能が重視されるようになった。際立った性能をアピールすることによりヒット商品となったのである。市場の成熟とともに爆発的ヒットの理由も時代と共に変化しているのである。
しかし21世紀になってからは爆発的と呼べるヒット商品が生まれていないのはどういうことだろうか。もし10年周期説が正しければ、2005~2007年あたりには記録的セールスのカメラが出ていてもよいはずなのだが、今のところまだそういったカメラは出てきていない。

もう大ヒットカメラは生まれないのだろうか。

これは筆者の推論だが、過去に大ヒットしたカメラとは、時代が大きな技術革新の曲がり角にきた時に生まれているのではないだろうか。ペンタックスSPはTTL露出計の内臓、キヤノンAE-1は自動露出機能の実用化、ミノルタα-7000は一眼レフのフルオート化、カシオQV-10はデジタルカメラ。どれもが現在のカメラ技術に連綿と連なる大きな技術革新イベントである。価格でヒットしたリコーフレックスも製造技術の革新があったからこそ破格の値段で発売が可能だったと考えられる。その大きな技術革新の波にうまく乗った商品が大ヒット商品となり、そしておそらく大きな技術革新が過去には10年に一度訪れていたのである。しかし21世紀になってからは、動画機能や顔認識など便利な機能は追加されつつあるが、過去に10年に一度はやってきたような大きな技術革新イベントが起きていないのである。

目覚しい勢いで商品が入れ替わるデジタルカメラの業界において、大きな技術革新が起こっていないというのは意外な結論だが、業界を震撼させるような技術革新はいつ何時訪れるかもわからない。その時こそ、21世紀初の大ヒット商品が誕生する時に違いない。

written by ストロベリー小野
この記事のカテゴリーは『極私的カメラうんちく』です | 2009年08月20日

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