マップカメラ店長がカメラについてアレコレ語る『極私的カメラうんちく』

第53回:特殊効果の新時代

アートフィルターを内蔵したオリンパスE-620が人気だ。

アートフィルターの特殊効果は、言ってみればどれも画像処理ソフトがあれば加工が可能なものばかりだが、いかにデジタル画像が加工の汎用性が高いといっても、いざ撮影後の編集環境が万全なユーザーばかりではない。またそういった現状に加え、特殊効果を得ながらも純粋に撮影だけを楽しみたいというユーザーの思惑をうまく捉えたのがアートフィルターだといえる。
アートフィルターは、まさにデジタル世代のために生まれた発想であり、また機能であるといえるが、まだデジタルカメラが存在しなかったフィルムカメラ全盛の時代にも、特殊効果と呼べる幾つかの技法が存在していた。

【多重露出】
フィルムカメラにおける最もポピュラーな特殊効果で、フィルム送りをせずに複数回の露出を行うことにより、手軽に合成画像をつくることが出来る。中級機以上のフィルム一眼レフにはたいてい多重露出用の機能が搭載されており比較的簡単に行うことができるが、緻密な計算と経験がないと単なる失敗写真になってしまう恐れがある。事実、カメラに多重露出の「防止」機構が搭載されるまでは、多重露出は写真の失敗例の一つだった。カメラに多重露出の「防止」機構が搭載されたのは比較的最近のことで、シャッターチャージとフィルムの巻き上げが連動していなかった頃のカメラでは、実は多重露出は日常的に起こっていた失敗だったのである。
そして昨今はデジタルカメラにも多重露出の機能を持つものが増えているが、パナソニックのLUMIX DMC L-10は、最大3枚までの画像をライブビュー機能を利用して、最初の画像と二枚目以降の画像を重ねて見ながら撮影が出来る。また自動的に各々の画像の明るさを調整する機能も搭載しており、デジタル一眼レフの多重露出機能としては他機種とは一線を画している存在である。

【赤外フィルム】
通常のフィルムに比べて赤外線領域の長波長に感度のピークを持つ、特殊なフィルムを使用することにより、当たり前の風景が極めて非現実的な風景に描写される。赤外フィルムは晴れた日中に屋外で使用すると青い空は真っ黒に描写され、またコントラストは極端に高く、可視光とは異なる赤外線の反射率によって描写されるため見慣れた風景は一変する。また、赤外フィルムにはクロロフィル効果といって、木の葉などの葉緑素が反射する光源に高い感度を示す性質がある。つまり葉緑素を多く含む被写体を撮影するとプリントでは白く再現されるのである。特に新緑のシーズンはクロロフィル効果が高く、真っ黒に再現する青空の意外性と相まって、赤外フィルムの被写体として初夏の野山は格好の素材である。
しかし、実際に赤外フィルムを使用して相応の効果を得るためには、ピント合わせが困難なほどの濃い赤いフィルターをレンズに装着せねばならず、ただでさえ感度の低い赤外フィルムを使いにくいものにしている。さらにISO感度は可視光を基準に設定されているため赤外フィルムにはISO感度が設定されていない。そのため露出計が使用できず、露出の決定には相当の経験と勘が要求されている。また、通常のレンズで撮影する場合は、ファインダーでピントを合わせた後に、赤外線の屈折率に相応したピント位置に、ピントを合わせ直さなければならない。そのため比較的旧いレンズには通常のピント指標の隣に赤い点で赤外指標が刻印されているが、撮影のたびにファインダーから眼を離してピントを補正する作業を強いられる、何よりもこれが赤外フィルムを使用する上で最も面倒な作業だといえる。

【レチキュレーション】
フィルム現像時に行うテクニックで、写真全体に半透明の縮緬(ちりめん)状の模様がはいったようになる。
モノクロフィルムの現像は概ね20℃前後の現像液を使用するが、現像後の定着液に極端な低温の液を使用すると、急激な温度変化によってフィルムの乳剤膜面に均一で微細なシワが出来る。本来は現像処理の失敗例となるところだが、意図的に行うことによって効果的に利用することも可能である。

【ソラリゼーション】
これもフィルム現像時に行うテクニックで、現像処理中のモノクロフィルムに強い光をあてると、ハイライトとシャドーが部分的に反転した幻想的な写真になる。写真技術的にはアメリカの芸術家マン・レイ(Man Ray1890-1976)が偶然発見したといわれており、マン・レイの写真作品の多くに積極的に用いられているテクニックである。しかしソラリゼーションはやり直しが一切効かないことはもちろん、効果を予測することが非常に困難なため、その効果についてはある種の偶然性に依存するところが大きい。

このようにフィルム時代の特殊効果とはその多くが「やり直しが効かない」というのが特徴である。また経験や勘といったスキルを作業者に要求するものから、偶然性に依存するものまで、効果や結果を正確に予測しにくいのも特徴である。まさに通常の撮影そのものが「結果の予測」の連続だったフィルム時代の象徴的な写真技法といえるが、先人達の飽くなき探究心が、単なる「失敗例」や「化学的な現象」を写真技法の高みに導いていたといえる。

代わってデジタル時代の特殊効果は、「途中確認」と「やり直し」が効くのが特徴であり、かつては撮影後の作業だったデジタル加工も今や手軽さを求めれば、カメラに内蔵されて撮影と同時に完了する時代である。誰もが特殊効果を手軽に楽しめる時代とは、もはや特殊効果が特殊とは呼ばれなくなる時代なのかも知れない。

written by ストロベリー小野
この記事のカテゴリーは『極私的カメラうんちく』です | 2009年05月20日

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