638:『Voigtlander SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical』
2020年11月17日
今回ご紹介するのは、前代未聞の明るさを持つ『Voigtlander SUPER NOKTON 29mm F0.8』です。
Voigtlanderレンズの中で、開放がF1.5以上に明るいダブルガウス型大口径レンズを「ノクトン」と呼称しています。MFT(マイクロフォーサーズ)用はこれまで、5種類の焦点距離でF0.95の単焦点がラインナップされていますが、今回は更に明るいF0.8。「スーパーノクトン」とはよく言ったものです。重厚感のある金属製の鏡筒、各種リングの動作フィーリングも非常に良好。また、フローティング機構の採用により最短撮影距離から遠方の被写体まで像が崩れることなく撮影可能です。
マイクロフォーサーズマウントということでボディは『Panasonic LUMIX DC-G9 PRO』をチョイス。装着時のボディバランスも悪くありません。フルサイズ換算で58mm相当。標準よりやや引き締まった画角は被写体の一番見せたい部分を贅沢に切り取るのに適しています。早速、その描写をご覧ください。
青空の抜けが非常に気持ちの良い一枚。絞り開放のふわりとした描写が、黄葉を優しく描いています。東京都内もだんだんと散り始めてきましたから、今年の秋もあっという間に撮り収めを迎えそうです。
開店前のレストラン、整然と支度がなされたテーブルが見事です。思わず見惚れてしまい、ガラス越しにシャッターを切りました。食器などのディティールもクリアに写せています。食事をする人が席に着き銘々に乾杯をして盛り上がる楽しい時間を、静粛に待ちわびている店内の空気を切り取りました。
こういった飾りを見ると、季節の移り変わりを感じます。寒い日が増え、年末が差し迫ってきています。そんな感傷に浸りながらツリーに近付いての撮影。『Voigtlander SUPER NOKTON 29mm F0.8 Aspherical』は最短撮影距離が0.37mmとしっかり寄ることが出来ます。カラフルなボールが身を寄せ合っている部分を選んで切り取ってみた一枚です。
この日の撮影で一番撮影が大変だった写真です。というのも、筆者は卵が少し…いや、結構苦手なのです。しかし、この目玉焼きが乗っているのといないのとでは「美味しそう」の感じ方が絶対に変わってしまうと思い、そのまま注文しました。ところが、いざ実食してみるとナポリタンとの相性が良く、とても美味しかったのです。店内が暗かったこともあり開放で撮影。黄身の艶が実に良く出ていて、綺麗に撮れると料理も余計に美味しく感じるのかもしれません。
こちらも絞り開放での一枚です。前ボケ、後ボケともに柔らかく、ピントの合っている部分を引き立てています。拡大してご覧いただくと、ソフトな写りながら花弁の中の一本一本がしっかり見て取れます。このあたりの引き込まれるふわりとした描写はノクトンシリーズの特徴とも言えるでしょう。
撮影中に立ち寄った公園。よく見かける水飲み場のハンドルにググっと寄ってみました。ピントが合っている部分は細かな錆びや青いボタンのひび割れまで確認できてしまいます。そして背景はとろけきってしまったかのように大きくボケています。しかし騒々しいわけではなく、作品として組み立てる上で実用的な範囲のボケ味であると感じます。
撮影モードを「モノクローム」にして撮影しました。カラーでは見えなかった世界が見えた気がして、夢中になってシャッターを切りました。驚くべきはその階調の豊かさ。空の露出に引っ張られ、地上のものはアンダーになってしまうのが常なのですが、撮影画像を確認してびっくり。ビル等の暗部も潰れることなくじっくりと描かれています。絞り込むことでここまで解像するのかということも驚きました。
時間が経って、次第に薄く雲がかかり青空が隠れてしまいました。しかし、レンガ造りの建築物には曇天も似合うものだという発見がありました。曇りの時はどうしてもコントラストが低くなってしまいますが、ひとつひとつの線は明確に表れ眠たい感じは全くありません。荘厳な空気すら纏って見えるのです。
こちらの写真は開放からやや絞ってF1.4。しかし、通常の単焦点と比較するとかなりの明るさです。ピントの合った椅子のフレームはシャープに写っていますが、そこからなだらかにボケていきます。開放F1.4のレンズを使った描写と、開放F0.8から絞った1.4の描写ではやはり違いがあります。少し絞ることで、ボケ味をコントロールしつつ精細な線を描くことが出来ています。
MFTの夜明け
コシナの通常ラインにあるノクトンの開放F値は0.95。実数値ではわずか0.15の違いしかありません。
ですが、この小さな違いはカタログスペック以上に大きなものであるようです。明るさの中に、芯のある描写。開放付近の絞りで変わる表情を愉しむことの出来る「スーパーノクトン」はその実、非常に使いやすい一本でもありました。ピントリングのトルク、絞りのクリック感を手に馴染ませながらじっくりと撮影した一枚の高揚は、質の高い撮影体験となるでしょう。一度手に取って、そのクオリティを肌で実感して頂きたいと思います。
Photo by MAP CAMERA Staff