

本日は『 木下光学研究所 KISTAR 28mm F3.2 』をご紹介いたします。
かつて多くの銘玉を生み出した伝説のメーカー「富岡光学」。その製造部長を務めた木下三郎氏が立ち上げたのが、この「木下光学研究所」です。KISTARシリーズは、当時の設計思想を受け継ぎながら、現代の技術とガラス材を用いて「古き良き時代のレンズの味わい」を再現することをコンセプトとしています。今回ご紹介するのは、先行して発売されているM(ライカM用)マウント版をベースに、SONY Eマウント・フジフイルムXFマウント用に最適化されたモデルです。「滲みの効いた広角レンズ」として開放絞りではソフトフォーカスのような優しい描写を見せ、絞り込むことで現代レンズに迫るシャープさを発揮します。この開放絞り時の特徴はKISTARシリーズのレンズ共通のものとなっており、過去に紹介したレンズたちも同じように面白い描写を見せてくれました。KISTARシリーズとしては初となる広角レンズはどんな面白い描写を見せてくれるのか、早速撮影に行ってまいりました。

撮ったばかりの写真なのに、まるで遠い昔の記憶のような情景。フィルター効果で似たような画を作ることはできるかもしれませんが、その「滲み」の度合いを絞りリング操作ひとつで瞬時にコントロールできるというのが大きな特徴。そもそもF3.2というF値でここまで滲むというのは、現代のレンズではまず考えられないことです。この滲みを効かせた写真は唯一無二といってもいいでしょう。

同シーンでの開放絞り(左)とF5.6(右)の比較カットです。開放では全体が柔らかいベールに包まれたようになりますが、F5.6まで絞ると中央部は滲みが消え、グッと引き締まった画になります。一方で周辺部にはまだ開放の余韻とも言える収差がわずかに残っているのが「F5.6」の特徴です。このあと、F8、F11と一段絞るごとにまた画が変化していくのですから、本当に面白いレンズです。

というわけで次はF8でのカットです。F8まで絞れば中央部はさらにシャープになりますが、よく見ると周辺部の描写にはまだ若干の甘さが残ります。「F5.6」と比べたら中央部とするサークルが大きくなったと考えてみてください。そしてF11まで絞るとこれがサークルではなく画面均一になっていく、というイメージです。風景撮影などで画面の隅までキッチリと解像させたい場合は、F11まで絞り込むのがオススメです。

F11まで絞り込んだ一枚。シャープな線描写で、開放絞りのときとはまるで別レンズで撮ったかのような写りです。

意外と言ってはなんですが本レンズは最短撮影距離約20cmという近接撮影能力があります。Mマウント版よりも大幅に寄れるようになったことで、マクロ的な表現も可能になりました。少し絞れば葉脈までくっきりと写り、接写時でも解像力不足を感じさせないシャープな写りを見せてくれます。

壁に落ちる窓枠の影と光。開放絞りで強い光を取り込むと、面白いくらいに光が滲みます。そして絞りリングにはクリック感があり、開放から1クリック分絞るだけでこの滲みがスッと収まります。1クリックのF値はおそらく大体F3.5くらいのイメージで、開放絞りとの比較では、露出を調整する必要はほとんどの場合では無いように感じました。

ファインダーを覗いてみると、まるで夢の中にいるような滲んだ世界があって、シャッターを切りました。「正しく写る」だけではない、このレンズだからこそ見れる世界があります。

日が沈む夕暮れ時、開放F3.2で撮影。ハイライト部分が大きく滲み、叙情的な一枚になりました。この滲みがなければ、シャッターを切ることもなかったと思います。写真表現とは何か、というのを改めて考えさせられます。

背景に浮かぶ大小様々な丸ボケは、その形も均一ではなく、それぞれが個性的でユニークな表情を見せています。写真を拡大して見ると、全体に薄い霞がかかったような柔らかな描写ですが、それでいて被写体の芯にはしっかりとした解像感が残っていることが分かります。使えば使うほど味が出て、クセになるレンズでした。


滲みも楽しめる広角レンズ
このレンズに関してはスペック云々よりも「まずは撮って、いろいろ試しながら遊んでみてほしい」レンズです。開放での幻想的な「滲み」と、絞り込んだ時のシャープネス。さらにその中間にもある表現の違いをぜひ楽しんでみてほしいです。古き良きオールドレンズの味わい深い描写。そして、実用的に使える確かな解像力。絞りリングひとつで劇的に世界が変わる『 木下光学研究所 KISTAR 28mm F3.2 』は、シャッターを切るたびに新しい発見をくれる1本でした。ぜひ、その豊かな描写の変化を楽しんでみてください。
Photo by MAP CAMERA Staff








