“あるがままの光で撮影するレンズ”として誕生したノクティルクス50mm。超大口径レンズとしてその名を知られるレンズだが、初代はF値が1.2。この第2世代で初めてF1.0を達成した。今回使用したのはF1.0のノクティルクスの中でも初期に製造されたレンズで、その後の60mm径ものと比べて58mmと口径が小さく抑えられ、レンズフード等も専用のものを使用する稀少な初期レンズだ。元箱、ギャランティーまで付属する状態の良い1本だった為、最後にそれらセットの写真も併せて掲載しているのでご覧頂きたい。
さて、『Kasyapa for LEICA』ではこれまでに各世代のノクティルクスのレポートを行ってきた。筆者もプライベートで使用してきた経緯もあるが、今回使用したこのレンズはとてもピントが良い1本であった。F0.95はまた違った描写を持つレンズであるし、初めてのE58モデルという贔屓目を除いたとしても、F1.0ノクティルクスではピントが全域でしっかりと来る印象だ。もちろんこれは私自身の好みに大いに寄るものだが、個体差のあるヴィンテージレンズの奥深さに改めて気づかされた1本、ご覧頂きたい。
古びた鉄椅子である。ペンキも剥げ、錆も出ている。そんな2脚の存在感をしっかりと感じさせてくれる描写だ。ただ大口径レンズとしてボケやフレアが出るのではない、開放でも被写体をしっかり見つめた表現が可能な希有な1本と言えるだろう。
もちろん最短、開放では大きなボケに目を見張る。様々な光が滲み、混じり合い、抽象絵画の様な色の組み合わせが展開するのはこの大口径ならではのもの。
38万km離れた高輝度の被写体、月をこのレンズの開放で撮るなど考えた事も無いが、撮影してみると…いやはやこの描写は驚くべきもの。月面の海の状態まで見えるとは、このポテンシャルあってこそのノクティルクスなのか。これは”素晴しい”の一言につきる描写力だ。
色が沈んでいく、その微妙でしっとりとした湿度を感じさせる闇の雰囲気も、実に美しい。悪条件でこそ、その魅力をいっそう増すレンズと言えるだろう。
F1.0開放、壮麗な石造りの建築・その重厚さ・その存在感、「大口径レンズだから。」という言い訳をいっさい感じさせない潔いほどの高い描写力だ。このレンズの登場がいかにセンセーショナルなものであったか、この描写を見ると大いに感じるものである。
1976年のファーストデリバリー。その巨大なレンズの光を吸い込む様な存在感は「これぞノクティルクス」という抜群の存在感を持つ。
初代ノクティルクスは世界初の非球面レンズを使用した1本であったが、手磨きでの非球面レンズの制作だった為コストが高く、生産効率も悪いものであった。それらを解消するため新種ガラスを採用し、F値も1.2→1.0へ。580gと先代と比べて100g程度の重量増だが、その描写力は素晴しいものだ。
<< これらが元箱、フード、LEICAのギャランティーと当時の輸入代理店であったシュミット商会のギャランティーカードである。シリアルナンバーもそろいで見つかるのは非常に珍しい。正規輸入品としては非常に高価なレンズであったが、かつて購入された方が居たのだろう。レンズも状態が良く、大切に使われてきた事が伺える。 こうした超大口径レンズはむやみに分解や修理、研磨等を加えると元の性能を取り戻せない事が多い。ホコリ等よりもピントが狂う方が描写に与える影響は大きいもの、その点は注意して扱いたい。 ライカユーザー憧れの1本、使い込んでも決して期待を裏切る事の無い素晴しいレンズだ。 |
Photo by MAP CAMERA Staff