研磨の2枚非球面、初期のASPHERICALズミルックスはその希少性からもはやコレクターズアイテムになりつつあるが、それまでの球面ズミルックスとは違うその描写も魅力のあるものである。開放からしっかりと”使える”立ち上がる様な描写はノクチルックス等と同じく『開放から積極的に使うレンズ』として作られた感があるが、今回は”M Monochrom”と共に使用してみた。以前のレポートでは”M9-P”を使用したが、解像感やトーンに関しては非常に厳しく描き分ける”M Monochrom”だけに、その描写は改めて楽しみなもの。その個性をご覧頂ければ幸いだ。
まずは少し絞り込んでの近代的なビルの外壁。ガラスの質感や遠景の雲、そして中に見える鉄骨の組み上がりまで驚くほど精緻に描き分ける。特にガラスのつるりとした質感描写は独特で、このレンズならではの特徴の1つではないかと思う。
ハイライトは少し滲むが、それでも”クセ玉”として名高い初代球面ズミルックスと比べれば開放での描写の違いは一目瞭然だ。ただし現行のASPHズミルックスに比べるとやや柔らかく、収差などの見える描写である。両者の間にあってどちらでも無い個性を持つからこそ、求める人が後を絶たないのだろう。被写体の立体感も非常に良く出ている。
周辺部に至るまで、しっかりと張りのある描写である。線も細く、瓶のつややかな表面も滑らかに描き出している
カラーでの描写も安定していたが、モノクロームでもその描写力の高さは健在だ。トーンの出方も良く、”M Monochrom”の暗部の強さもあいまって実に扱いやすい。あとはそのRAWをどう方向付けるか。撮影者に委ねられる可能性の大きなレンズだ。
金属の質感も見事。若干渋めな印象を残す、カラーのときよりも重みを感じる描写だ。
開放だとここまでピントが薄くなる。それでいて全体のコントラストやピント面の鮮明度が落ちないのがこの非球面ズミルックスの特徴だ。
こうしたカットを見ると、ピント面の被写体の立体感が良く出ている。
近接領域になると収差が出るが、それでもコントラストは保たれている。僅かに滲む光が実に綺麗に描かれた。
上2カットともに被写体の存在感がしっかりと出ているカットだと思う。繊細な解像力と大きいボケのなせるものだろうか、被写体の曲線や当たっている柔らかな光の照り返しなどが実にその存在感を示してくれる。
贅沢な組み合わせである、しかしその相性は抜群に良い様だ。現行のズミルックス35mmは”超”がつくほど優秀な大口径広角レンズであり、個人的にも絶大な信頼を置くレンズである。描写傾向にも似たものを感じるが、それでも柔らかさや修正しきれないクセ、滲みの様なある意味欠点が魅力的に見えるのがこの”初期非球面ズミルックス”だろう。オールドレンズと現行の優秀なレンズの間で、独自の描写世界を持つ希有な1本である。
Photo by MAP CAMERA Staff