以前紹介した28mmと同様、アンジェニュー社のレトロフォーカスタイプ・レンズの代名詞となっているのがこの35mmだ。今回撮影したレンズは比較的状態の良いものだっただけに、その描写もしっかりした解像感が際立つ。開放付近での独特のボケ味と、時として現れるクセの強い描写が愛好家を魅了してやまないレンズだ。色再現は派手ではないが、状態が良ければ逆光等にも驚くほど強い。ライカとはひと味違った描写が楽しめる銘玉だ。
少し絞り込んでのカット。こうした描写を見ると実に気持ちの良い、清冽なものである。
コントラストが低く、諧調を豊富に残すのはモノクロームにも最適の描写だろう。
周辺光量落ちやピント面前後の滲みに、このレンズの個性が出ている。少し妖しげな雰囲気すらする描写だが…こうした現代レンズには無い味わいも楽しめるのが、Leicaシステムの素晴しい所でもあるだろう。
少し絞り込めばしっかりと線の細い描写に変わる。鉄の質感描写なども良い感じだ。
影になっている部分の木質の再現などをしっかり見て頂きたい。アンジェニューのボケ玉という印象が変わる精緻な描写だ。
このレンズは光の処理がどうも不思議に感じる事がある。少し手ぶれているのはご容赦頂きたい。
開放付近では、シチュエーションによってこんな描写も。同じ条件でもしっかりと写る場合もあり、把握しきれないレンズだ。
レンズの全長は28mm同様大きなものである。特にテーパーがついている訳でもないのでパッと見では望遠レンズに見える出で立ちだ。『P.Angenieux』では他の焦点距離でもライカマウントレンズを発売していた。通常のLeicaレンズとはひと味違った描写を求めるなら、こうしたNon-Leitzレンズを求めるというのも一興ではないだろうか。
Photo by MAP CAMERA Staff