ライカマウントのレンジファインダー・レンズの中でも、特に大口径のレンズ群がある。国内・国外を問わず存在するライカマウントレンズだが、特にF1.4を切る様なレンズは意外な事に国産”Japan Made”のレンズに多い事をご存知だろうか。Nikkor.Canon.Zunow.Topcor.Fujinon.Tanar等々、最終的に製品化されなかったものも含めればその数はとても多いと言えるだろう。今回レポートするレンズは1955年に発売された”HEXANON 60mm/F1.2″という同名のレンズのリニューアル版。レンズ構成等は異なるが、800本の限定生産という希少性と大口径ならではの柔らかな描写から人気のあるレンズだ。なかなか見かける事も無くなってしまったレンズだが、魅力のあるその描写をぜひご覧頂きたい。
せっかくの大口径レンズ、開放を主に撮影に挑んだ。拡大してみるとお分かり頂けると思うが、開放から想像以上にしっかりと写る。花の柔らかな花弁の質感までしっとりと描き出す様はさすがのものだ。もちろんフレアレベルは高いが、コーティングも最新である故か色乗りも非常に良く、暗いシチュエーションだったが華やかさを感じさせる描写である。
着物地を開放で、白糸で細やかに縫い込まれた刺繍までしっかりと描写する。その柔らかな質感まで伝わってくる描写は、とてもf1.2開放とは思えないほど繊細なものだ。
しかし良い発色である。古い時代の大口径レンズはコーティング技術の制約やフレアによって、開放でのコントラストや発色が穏やかなものが多いが、このレンズはさすがモダンなレンズ。目も覚める様な発色と大きなボケが、このレンズでしか描けない世界をつくり出している。
雨の森に込める湿度感と、雫の細やかなきらめき、そうしたものも印象にとても近い形で描き出す。美しい描写である。
早朝の寺社の張りつめた様な清廉な空気感まで、そこに描かれているようだ。
日本の古い寺社には、心に訴えかけてくる独特の色合いが存在する。そんな色彩をただ派手にではなく、印象にとても近い色として鮮やかに描いてくれるレンズである。
こうしたシチュエーションで無理矢理、開放で撮影をすると収差が大きく出てくる。こうした描写は好み次第だが、好きな方にはたまらない描写でもあるだろう。
60mmでf1.2と聞いて想像するより、かなり小柄なレンズである。重量ももちろんあるが、古い時代の真鍮製のレンズよりは軽量であり、使い勝手は良い。大きな前玉はいかにも良く写りそうな質感で、撮影するのが楽しみになるレンズである。
販売時のフルセットはこうなる。元箱と説明書にはじまり、大型の専用フード、専用のUVフィルター、60mmという特殊な焦点距離ゆえの単体ファインダーが付属する。このレンズはMマウントではなくLマウントである事も特徴の1つで、それ故に専用の大型フードは距離系を隠さない様、回転させる事が出来るなど、細かな部分まで手の入った気合いを感じる造り込みだ。”Made in Japan”の大口径レンズの歴史を継ぐレンズ、しっかりと使い込んでみたい逸品だ。
Photo by MAP CAMERA Staff