LEICA社から新しいモデルが発表された。ハイエンド中判フォーマットの『ライカSシリーズ』、35mmフルサイズフォーマット・レンジファインダーシステムの『ライカMシリーズ』、そしてコンパクトなオールインワンパッケージの『ライカXシリーズ』のこれまでのシリーズに、今回新たにレンズ交換式のAPS-Cセンサー搭載ミラーレス機『ライカTシリーズ』が加わった。
アルミニウムで一体成型されたボディの質感は非常に高く、美しい曲線とミニマルな操作系のあいまったボディデザインは非常にオリジナリティのある美しいデザインだ。交換レンズは2種類、そこにEVFファインダーやMシリーズレンズを使用するアダプター等が多数ラインナップされ、システムカメラとしての『ライカTシリーズ』を形作っている。まずはその描写からご覧頂きたいと思う。
屋外、日はすっかり暮れてレストランからも楽しそうな声が聞こえてくる。最初の1カットからISO1600とは少々意地が悪いかもしれないが、高感度耐性も非常に高い。
被写体の立体感も素晴らしい。このカットもそうだが、描写のヌケが非常に高いのが『ライカTシリーズ』の特徴と言えるだろう。ピントピークの立ち上がりからデフォーカスにかけてもとても品が良い。
『LEICA T』は使っていて安定感がとても気持ちのよいボディだ。ISO1600でここまでしっかりした描写とは思わなかったが、F3.5-5.6の標準ズームレンズでも実用上は何ら問題ないだろう。
壁面のクラッチタイルの1枚1枚まで描き出すこの描写力はさすがLEICAと思わせる物がある。それでいてこのカットも開放での撮影だ。実は今回のレポートは殆どのカットをレンズ開放で撮影している。過剰なボケは期待出来ないが、程よいボケと遠近感、そしてしっかりとした解像感を感じて頂けるのではないだろうか。写真を撮るのに最適なパッケージングとして、この『LEICA T』が位置づけられている事を感じる。
松の枝葉の1本1本まで見分けられる描写だ。念のため、こちらも”開放”のカットである。
LEICA社の開発担当の方に「なぜAPS-Cフォーマットなのか」と話を聞いた。答えとしては至極端的、「写真を撮る道具として最適なパッケージだから」というものであった。カメラは当然持ち歩いて撮影する物である。レンズと、ボディと、ファインダーもあるかもしれない。それは撮影者それぞれに違う物だろうが、そういった個々の撮影者のスタイルに寄り添うフレキシブルな可能性と、持ち歩く際のサイズ。そして描写の精緻さ、高感度等の性能、そしてボケとのバランス。そういった全体のバランスをとった、LEICAが考えるカメラの1つの答えとして『LEICA T』は生まれたのだろう。
実際に撮影していて感じるのはレンズ性能、ボデイの描写性能のポテンシャルの高さと、それぞれ全体を通して感じるカメラとしての完成度である。何より撮っていて心地良く感じる事、そのバランス感覚の素晴らしさが『LEICA T』システムの魅力では無いだろうか。
その場の空気感まで思い出させる、質感の高い描写である。
光の陰影、トーンや質感は素晴らしい物がある。石造りの古い建物が持つ静寂、その場の静けさがこちらまで伝わってくる様だ。
マジック・アワーと呼ばれる夕暮れの光。街並を一層輝かせる美しい光の時間も、しっかりと留めてくれる。
そのもの自体が、そこにある様に、写る。そしてそこに描かれていないはずの空気まで伝える。その描写に信頼出来るカメラは、使っていてとても気持ちがよい。
荒めのRAW現像でもしっかりと耐える。そもそものベースがしっかりとしているからこそ出来る芸当だ。
アルミニウムの一体成型のボディのクォリティは驚く程である。1台1台をしっかりと作り込み、仕上げて行くその行程はLEICA社で公開していたが、手にした感触からもその完成度はしっかりと伺える。
グリップも深く、ホールディングは想像以上にしっかりと行える。また写真には無いが、付属のEVFの見えも素晴らしい。ちらつきが無く、色再現も瑞々しい完成度の高いフィンダーである。ボディケースやオリジナルの脱着機構を備えたストラップ等も『LEICA T』のシステムカメラとしての完成度を高めている。
タッチパネル式のインターフェースには少々驚いたが、慣れてしまうと細かなボタンの無いスッキリとしたデザインは好感が持てる。F値やISO等はモードに応じて上部のジョグダイアルに振り分けられるので、使い勝手も良好だ。またメニューのカスタマイズも可能という事で、自分なりに設定する事も出来る。
また、今回は試す事が出来なかったがスマートフォンとの連携等、これまでのLEICAカメラとは違った機能も多く搭載しており、次世代のLEICAカメラを想像させてくれるメルクマール的な1台とも言えるかもしれない。LEICAがおくる新しい1台、ぜひその魅力に触れて頂きたいと思う。
Photo by MAP CAMERA Staff