帝国光学研究所 Zunow 5cm F1.1 (Nikon S Mount)

2020年07月03日

絞り:F1.1 / シャッタースピード:1/4000秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

このレンズ名に琴線が触れたのであれば、おそらく帝国光学研究所こと、ズノー光学という会社名を耳にしたことがあることでしょう。戦時中に海軍から要請を受け、航空探索用ハイスピードレンズの開発を命じられた同社は、この『Zunow 5cm F1.1』を開発するまで実に10年の歳月を要したと言われています。5群9枚で構成されている前群はゾナー型をベースとしながらも、後群は完全オリジナルのズノー型と呼ばれる設計がされており、特にこの前期型はレンズの後玉が大きく突き出していることから通称「ピンポン球」とマニアの間では呼ばれている希少レンズです。

発売当時は世界最高の明るさを持つライカ互換マウントレンズとして登場し、ズノーの名はカメラ史に刻まれました。スチルカメラ用としては、ライカL39用、Contax C用、そしてニコンS用の3種類が用意され、その中でも今回使用したニコンS用は生産数が最も少ないと言われています。撮影ではボディをライカM10にし、距離計連動するニコンS-ライカMのカプラーを使用して臨みました。その歴史的なレンジファインダー用レンズの描写をお楽しみいただければと思います。

まずは一枚目のユリを撮ったカットから。日陰に咲く黄色いユリの花びらに、木漏れ日の隙間から射した光が当たっていました。露出はその花びらに合わせ、絞り開放でシャッターを切ります。さすがのF1.1、シャッタースピードは1/4000秒一杯。写真全体を柔らかな収差が包み込み、まるでソフトフォーカスレンズで撮影したかのような印象を受けます。しかしよく見ると、ピントピークには細くも確かな芯を捉えているのがお分かりいただけるでしょう。これが『Zunow 5cm F1.1』の描写です。

 

絞り:F1.3 / シャッタースピード:1/500秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

音を奏でる鳥籠のようなアート作品をF1.3で撮影した一枚。近しいF値だと『ノクティルクス 50mm F1.2』がありますが、線の描き方は『Zunow 5cm F1.1』の方が細く感じます。ボケ味に関しては構成がダブルガウス型とズノー型で違いますから何とも言い難いですが、ベースとなっているゾナー型よりも滑らかで、収差による背景の暴れ方も穏やかです。

 

絞り:F2.8 / シャッタースピード:1/180秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

F2.8まで絞ると急激に解像力が上がるのも面白いところ。天井から吊るされた照明をクッキリと写し出していますが、よく見ると四隅の減光はケラれたままです。絞り込んでも改善されないこのケラれは、おそらくイメージサークルの境界。戦後直後のフィルムフォーマットサイズは24×36mmライカ判(通常の35mmフィルム規格)の他に、24×32mmのニホン判と呼ばれるフォーマットが存在していました。おそらくこの『Zunow 5cm F1.1』はニホン判に合わせて開発されたのでしょう。これも本レンズの歴史を物語る大きな特徴だと言えます。

 

絞り:F2 / シャッタースピード:1/640秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

 

絞り:F1.1 / シャッタースピード:1/1000秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

ネックレスを外している友人を撮った一枚。線の細い描写は、ポートレート撮影との相性もとてもいいです。

 

絞り:F1.1 / シャッタースピード:1/4000秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

 

絞り:F1.5 / シャッタースピード:1/1500秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

 

絞り:F1.1 / シャッタースピード:1/1500秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

信号待ちの景色を撮ったのですが、ボケ味の特徴を面白く表すことができました。フレームに光源が入ると、抑えきれないコマ収差や非点収差が印象的に写真へ出ます。上手く活かすことができれば他のレンズでは表現できない世界を写し出せることでしょう。

 

絞り:F2 / シャッタースピード:1/1500秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

港にて。モノクロ写真との相性良さは言うまでもありません。ノスタルジーを感じる描写です。

 

絞り:F5.6 / シャッタースピード:1/1500秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

 

絞り:F1.1 / シャッタースピード:1/1500秒 / ISO:100 / 使用機材:Leica M10 + Zunow 5cm F1.1

 

絞り開放での繊細な線描写と、柔らかな収差。今まで使用したレンズのどれとも違う美しい描写です。

 

 

この大きくせり出した後玉が「ピンポン球」と呼ばれる所以。さすがに使いづらいという意見があり、後にレンズ構成を見直して後玉を凹レンズにした後期型に変更されました。メーカーにより前期型を後期型へ変更するサービスも行われていたため、この「ピンポン球」の数はさらに少なくなったと言われています。

     

F1.1に宿る、Zunowの残光。

『Zunow 5cm F1.1』の撮影を終えてみて、これほど個性的で美しい描写のレンズは非常に稀だと感じました。特に国産のオールドレンズに関してはモデルとした元レンズがあることが多く、「◯◯みたい」という印象を受けがちなのですが『Zunow 5cm F1.1』は、ゾナーやズマリット、ノクティルクスなどの大口径レンズや、タンバールなどといったソフトフォーカスレンズとも違った写りを見せてくれます。レンズの希少性やその歴史、世界一を誇ったF1.1という点に目が行きがちではありますが、本レンズの本当の魅力は芯がありつつもフワリと収差が包む開放付近の描写にあると思いました。

このレンズを生み出した帝国光学研究所こと、ズノー光学工業は、『Zunow 5cm F1.1』を発売した6年後にカメラ事業から撤退することになります。戦後に大きな光を放ち、流れ星のように消えていった『Zunow 5cm F1.1』には、日本の光学技術のプライドのようなものを感じることができました。  

Photo by MAP CAMERA Staff

 

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