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ピーター・カルベ氏 ライカSLレンズ インタビュー VOL.1

2019年12月04日


Peter Karbe氏「ライカレンズ」インタビュー

前回までのライカカメラ社の光学設計マネージャ、ピーター・カルベ(Peter Karbe)氏のプレゼンテーションを元に、同氏へのインタビューの模様をお届けいたします。

できるだけレンズをクリーンに作る

null 「ライカSL」で「アポズミクロンM75mm F2.0 ASPH.」「アポズミクロンM90mm F2.0 ASPH.」を使って感じたのですが、他の2,400万画素のカメラと比較した際に、ちょっともう次元の違う写りだなという印象を持ちました。勿論カメラとレンズ双方の性能がその大きな要因だと思いますが、何が一番のポイントとして、撮るものにそういった思いを感じさせるとお考えですか?

null 一つは、できるだけレンズをクリーンに作るという点があげられます。収差を除く、といった工程にしっかり注力しているのに加え、カメラ側で出来るだけ画をいじらないようにしています。カメラで画を綺麗にせずに、レンズ側の性能で高めるようにすることで「凄くいいけど、凄くナチュラル」「人工的なものを感じない」という印象の写真に仕上がるのだと思います。

null では、カメラはあくまでも「光を受け止める」ということに徹し、レンズ側で細かいところまで気を配りそれを積み重ねていくことで、高い理想を実現しているということでしょうか?

null 仰る通りです。レンズ側で画質を突き詰めているので、カメラボデイ側でシャープネスを上げる、といった画質に影響を与える処理を極力行わないようにしています。それによって自然な印象の写真が仕上がるのだと思います。
SL用アポズミクロンはAF駆動のため、M用レンズとはまた違ったイノベーションが必要だ

SL用アポズミクロンはAF駆動のため、M用レンズとはまた違ったイノベーションが必要だ

null 今回ご説明頂いた「Lマウントのアポズミクロン」と、こちらも非常に評価の高い「Mマウントのアポズミクロン」その一番の違いはどこにあるのでしょうか?

null まずは、オートフォーカスレンズか、マニュアルフォーカスレンズか、という点です。

M用のアポズミクロンは非常にコンパクトに作る必要があるので、構成するレンズ屈折率などがとてもセンシティブなのです。クラフトマンシップを持ったスペシャリストが追い込んで、調整しながら作っています。そして、M用レンズは回転させながらフォーカスを駆動させますが、SL用レンズは軸とは関係ない動きでモーター駆動します。そういう意味では作り方も違うレンズと言えます。

性能的に拮抗、もしくは上回っているLマウントのアポズミクロンですが、我々はこのLマウントの「プライムレンズシリーズ」は性能と値段のバランスを考えた際に、非常にお買い得なレンズではないかと考えています。また頑丈さにも気を使っています。

SL用プライムレンズと、レンジファインダー用Mシステムレンズの大きさの比較

SL用プライムレンズと、レンジファインダー用Mシステムレンズの大きさの比較双方はそれぞれ異なる設計思想を持つ

null “頑丈さ”と言えば、ドロップ(落下)テストをされていると聞いたことがありますが、どのような内容で、何を目的にしていますか?

null ライカのドロップテストは非常に厳しいのです。

一般的には、1mの高さからコンクリートに落としてみて動作するか、という基準もありますが、ライカの場合は落としたうえで「MTFの低下をどの程度抑えられるか」という、一種の性能保証のような内容になっています。ここまでやっているメーカーはそうないと思います。

これはライカの伝統的な考えである「カメラマンが現場で落としても、まだいい性能で写真が撮れる。そんなレンズにしたい。」という想いからです。氷点下の世界でも動くように、環境テストもかなり厳しい基準でやっていますので、耐久性はかなり高いと思います。

「中判フォーマットのような解像感を出せるレンズ」にしたい

null 以前、M用レンズは少ないレンズ枚数で、いかに「小さく作るか」をテーマとしているというコメントを拝見いたしましたが、今回のSL用レンズの場合はどういった優先順位で設計されているのですか?

null もともと、LマウントレンズはライカTLシステムなどのAPS-Cセンサー用からスタートしました。ライカTLシステムとか、更にその前はコンパクトカメラの「X」シリーズのレンズ設計の際、APS-C用のレンズはどのように作ろうか、と考えたときに「撮像素子サイズは小さくても、35mm判フルサイズと基本的なユーザーの行動は同じだろう」と考えました。そこで、小さいセンサーでも同じくらいの解像感を得られるようにしようと考えたのです。

そのためには、フルサイズの時に決めた解像度から、より細かい解像度をAPS-Cセンサー用レンズでは持つ必要がありました。だから「TL・CL用レンズ」はフルサイズの「SL用レンズ」よりも高いターゲットを設定しています。フルサイズセンサーであれば、本来必要な解像度(MTF50%)で「40本」という基準になりますが、APS-C用の「TL・CL用レンズ」では「60本」を基準にしよう。ということになりました。これは結構厳しかったです。

そして今回は同じLマウントのフルサイズなので、そのAPS-Cセンサー用よりも更に高い基準を求め、フルサイズセンサーながらMTF50%で「60本」を目指そう!となったのです。実際にはそれよりも更に高い数値になりましたし、「中判フォーマットのような解像感を出せるレンズ」にしたい、という想いが実現しました。

null 冒頭でお伝えした、「アポズミクロンM75mm F2.0 ASPH.」「アポズミクロンM90mm F2.0 ASPH.」の描写が他の2,400万画素のカメラと次元が違う印象だったのは、こういったところからきているのかもしれません。

null

焦点距離:25mm/ 絞り:F3.5/ シャッタースピード:1/640秒/ ISO:100/ 使用機材:Leica (ライカ) SL(Typ601) + バリオエルマリート SL24-90mm F2.8-4 ASPH.非常に高い解像力を誇るSL用レンズ。今後発売予定となる、ほぼ同画角の「アポズミクロン SL24mm F2.0 ASPH.」の描写にも期待したい。


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