大口径中望遠レンズとして『Summilux 75mm』が登場したのは1980年。フードは着脱式だったがその後1983年に組み込み式に変更、今回撮影したのはその後期型のモデルになる。初代はフードも押し出しが強く、大柄な鏡筒とその重量に圧倒されるレンズだったが第2世代のこのモデルは重量も600gと軽量化。最短撮影距離も短縮され、もちろん大柄には違いないがずいぶん撮り回しが良くなったレンズである。
中望遠のズミルックスという事で、開放は柔らかく実にトーンの美しい描写が楽しめる。雨に濡れた葉のもったりとした質感と湿度が感じて頂けるかと思う。
もちろん絞り込めば、そのシャープな解像線をしっかりと生かした描写となる。ただどちらかと言うと、シャープネスで魅せるよりはトーンとコントラストのダイナミックさで写真を作り上げるレンズ、といった印象だ。
標準50mmよりも少し踏み込んだ画角という事で、使ってみるとそのF値もあいまって実に使いやすい1本だと思う。レンジファインダーではどうも広角域に人気があるが、筆者などはどうも望遠域、とりわけ75mm近辺のレンズがとても好きな画角である。「対象をふっと見つめた時の画角」と言われるが、少し注目した様なその焦点距離は背景の整理もしやすく便利なのだ。使った事の無い方にはぜひとも使ってみて頂きたいレンズである。
コントラストとトーンが美しいレンズはモノクロームでも実に映えてくれる。フィルム・モノクロームとの相性も抜群だろう。
少々暗いBar等でもこのF値はありがたい。開放から極端な破綻を見せないこのレンズは夜も大活躍だろう。テーブルフォトとまではいかないが、焦点距離75mmで最短撮影距離が75cmなので接写倍率も実は高い。こうした点も、このレンズの使い勝手が良いポイントである。
光を吸い込む様な前玉についつい見入ってしまうが、M9に装着しても実にグラマラスなレンズである。フィルム機よりも厚みのあるM9ではボディバランスもより良いものだ。自身が好きなレンズはどうも筆に力が入ってしまうが、広角だけではない中望遠でのLEICAレンジファインダーの楽しみも、ぜひとも味わってみて頂きたい。
<<当時の元箱とケースが揃って、これで揃いである。大きなレンズだがフード組み込みなのでコンパクトなセットだ。元箱は80年代のライカに見られる白地にブルーグラデーション、赤いロゴの鮮やかなもの。
Photo by MAP CAMERA Staff