ライカの最新レンズ群では”アポクロマート補正”と”非球面レンズの採用”がキーワードになっている様だ。このレンズでも5枚のレンズ群のうち2枚の異常部分分散レンズ、1枚の非球面レンズを採用し、画面全域に渡って高いコントラストとシャープネスを実現していると言う。
細かいスペック的な事は置いておくとしても、このレンズの開放からのシャープネスの高さには驚くばかり。上の写真でも雪面の細かなエンボスまで実に細かく描き出している。さくさくとした雪の感触まで伝わってくる様で、色の発色の良さに至るまでLEICA望遠レンズの性能の高さを遺憾なく発揮してくれる1本だ。
色合いも、実に瑞々しい再現である。古い波ガラスのゆらめきと、そこに反射する様々な光をしっかりと描き出している。端から端までピントの良いのも実感できる描写だ。
後ろボケは時に少々うるさくなるが、このレベルであれば良い方だろう。ピント面は確かにシャープではあるのだが、カリカリとした神経質な描写ではない。ボケとの分離も良いので、被写体が浮き上がる様な独特の描写を楽しむ事が出来る。
外観はなかなか大柄な本レンズだが、凝縮感のあるデザインと幅広の使いやすいヘリコイドローレットと相まってなかなか使いやすいレンズである。F2.0と明るい事からも様々なシチュエーションで生かせる万能性の高い1本だろう。
以前レポートした『Summicron 90mm/f2.0 2nd』も含め、Summicron 90mmの系譜はどれも高性能なレンズとして知られているが、比べてみるとコントラスト等で大きな違いが見られる。
そして被写体の違いもあると思うが、予想に反して『APO-Summicron 90mm/f2.0 ASPH.』はしっとりと湿度感のある描写をする様だ。しかし海外でも評判の高い本レンズ、その描写には恐れ入るばかりだ。
近接領域でも、その描写は崩れる事が無い。複雑な背景だがボケも大きく美しい。
モノクロームでもその描写は健在だ。歳月を刻んだ鉄の扉、その細かな傷の1本1本までしっかりと描写する。
コンパクトとは言いがたいが、90mm/f2.0というそのスペックを考えれば、十分小さいサイズに収まっていると言えるだろう。太めの鏡筒はホールディングも良く、撮影時のとり回しも良好だ。 昔から「LEICAの望遠レンズに悪いものは無い。」と言われていたが、アポクロマート補正とASPH化が図られた本レンズ、その性能は素晴しいものである。
Photo by MAP CAMERA Staff