時代を越えて愛されるライカレンズの数々。しかし銘玉と呼ばれながらも現在のラインナップから外されてしまった名前のレンズも存在する。『Summaron (ズマロン)』もその中の一つで、戦後ライカの28mmと35mmの広角を担った4群6枚のダブルガウスタイプで構成されたレンズだ。その描写は解像力がありながらもどこか柔らかみのある写りで著名な写真家を含む多くのライカ使いがスナップに愛用してきた銘玉である。
そのズマロンがなんと60年の時を経てライカより復刻されることが決まった。今回のKasyapa for Leicaでは『Leica Summaron(ズマロン) M28mm F5.6』のフォトプレビューをいち早くご紹介しよう。
まずレンズ構成は当時のものと同様ということだが、1枚シャッターを切ってその描写に驚いた。現代にすれば決して明るくない開放F5.6というスペックだが、解像力とコントラストがとても高く非常にクリアな描写である。そして周辺部の写りにも注目してもらいたい、ヴィンテージレンズのような光量落ちをしているにもかかわらず、像の流れや滲みが感じられないフラットな描写である。ヴィンテージレンズらしい味を残しつつも、現代のデジタルライカに指標を合わせてきた解像感の高い写りは、まさに銘玉と呼ぶにふさわしい一本だろう。
レンズには現代の硝材とコーティングを使用していることもあって、カラー撮影しても美しい発色をしてくれる。
F11くらいまで絞れば周辺の光量落ちはほとんど気にならないレベルに改善する。被写界深度の深さを生かしたスナップ撮影にはもってこいのレンズだ。
昼寝をしていた三毛猫にそろりと近づいて撮影。日陰などではレンズの暗さが少し気になるが、デジタルライカとの相性はとてもよく感じる。
本当に開放からよく写る。拡大すると確認できるが、黄色く色づいたイチョウの葉一枚一枚をしっかりと捉えているのが分かる。
一見するとコントラストが高く、黒が強い印象のビル写真だが、その中にオリジナルレンズ譲りの階調表現の豊かさもうかがえる。また逆光にも非常に強い。
『Leica Summaron(ズマロン) M28mm F5.6』は、エルンスト・ライツ社が1955年から1963年まで製造していたLマウントレンズが原型であり、被写界深度スケール表記が赤文字のことから通称『赤ズマロン』とも呼ばれている。今回のレンズを最初に手にとって驚いたのが、オリジナルに限りなく近いレンズデザインで再設計しているということ。もともと本レンズの登場は噂では聞いていたのだが、オリジナルの金型を使って再販するものだと勘違いしていた。デザインをリファインし、より洗練されて蘇った赤ズマロンはオリジナルの特徴を残しつつも描写・外観ともに新しいレンズへ生まれ変わった一本だ。
きっとモノクロ撮影をメインで考えているライカユーザーも多いだろう。コントラストは高いが、シャドウもハイライトも粘りがあるので現像次第で自分好みのグレートーンを表現する事ができるはずだ。
ハイライトも美しく表現してくれる。スポットライトのような日の光に照らされた葉の艶やかな輝きが見事である。
この松の写真も思わず唸ってしまった一枚。赤ズマロンがここまでよく写るレンズとは思わなかった。
全長18mm、重さ約165gというコンパクトなサイズは28mm広角という画角も相まって、スナップ撮影に最適なレンズだ。
パンフォーカスで使える赤ズマロンは速射性にとても優れた一本である。まるで自分の体の一部になったような感覚を『人馬一体』と言う事があるが、本レンズを使用していると、まさにその感覚を覚えるはずだ。
カーブミラーを利用して撮影した一枚。無数の傷が太陽の光に反射して面白い表情を見せてくれた。軽快な赤ズマロンは撮影の幅を広げてくれるレンズである。
地下へと続くエスカレーター。コントラストをさらに強調したモノクロ表現もいい雰囲気だ。
オリジナルの赤ズマロンと同様にとても小さな前玉のレンズなのだが、これが実に良く写る。開放で見せるトンネル効果のような周辺減光は現代のレンズが失ってしまったカメラレンズの面白さであり、ヴィンテージレンズに求める個性の一つだ。『Leica Summaron(ズマロン) M28mm F5.6』は最新光学のレンズにも負けない解像力とヴィンテージレンズの個性を持ち合わせた理想のライカレンズと言えるだろう。
奥がオリジナル、手前が新しい赤ズマロンである。非常に良く似た外観だが、寸法や細かな意匠が微妙に違うのがお分かりいただけるだろうか。そのためフードとフィルターの互換性はないので注意していただきたい。(フィルター径:旧赤ズマロン=A36/新赤ズマロン=E34)
今まで『過去のレンズを模したデザイン』の限定レンズを発売してきたライカだが、レンズ構成を含め、廃盤となった銘玉を復刻させたのは『Leica Summaron(ズマロン) M28mm F5.6』が初となるレンズだ。完全受注生産とも言われており、おそらく新たな赤ズマロンも希少なライカレンズになると予想される。コレクションアイテムとしても価値は高いが、是非その描写を味わっていただきたい一本だ。
Photo by MAP CAMERA Staff