LEICAQ-P
小型ボディに高性能2400万画素のフルサイズCMOSセンサーを搭載し、世のライカファンの心を躍らせた銘機「ライカ Q (Typ116)」。かつて無いほどの人気に沸き、話題の中心であった当時から3年半を経て、ようやく落ち着きを見せ始めたこの時期に、よもや想像できない、新たな「Q」が帰ってきた。
従来の良いところは余すことなく残し、更に洗練されたエッセンスを加える。触れるものを皆、虜にしてしまうような、如何にもライカらしい強烈なアイデンティティを放つカメラの名は『ライカ Q-P』。同社歴代の名高きフラッグシップモデルが名乗った“P”の冠をつける、コンパクトデジタルの最上位モデルである。
その名の通り、従来モデルよりもプロフェッショナル仕様・玄人好みになった本機。正面から見て右上にあった赤く丸いライカロゴを廃し、ボディの塗装はよりシックなマットブラックペイントを採用。そしてトップカバー上部にはバルナックライカから続く、筆記体のクラシックロゴを刻印したことで、従来よりも更に上品な仕上げとなった。
大好評を博した「Q」からより控えめに、より気品高くなったことで、更に“常に持ち歩きたいカメラ”、“どこで出しても恥ずかしくないカメラ”として完成形に近くなったと言っても良いだろう。
こちらは眼下の夜景を着陸直前の飛行機から捉えたカット。揺れが大きいだけでなく、深夜フライトで非常に暗い機内・3重構造の窓ガラス越し等々悪条件が重なっていた上に、少々ピンが甘いことはお恥ずかしい限りだが、お伝えしたいのは“10000”という設定ISO感度だ。勿論粗さは残っているが、個人的には割り切ってしまえば使える範疇内であり、このカメラの高感度特性の高さを立証してくれたように思う。
「Q」を愛用する方に話を伺うと、“これを使ったらもう他には戻れない、究極のスナップシューターだ。”とおっしゃる方が多いことに驚かされる。
たしかに筆者も昼夜を問わず、逆光でも順光でも、臆することなく作画したい気持ちにさせてくれるカメラ、という認識を同機に持っており、撮影時にストレスを感じたことはほぼ無い。シチュエーションを選ばない汎用性の高さは、あたかも人工知能・AIでも組み込まれているのではないかと思うほどだ。
プロ・アマを問わずこれだけ多くの人々を魅了する所以には、レンズやセンサーの性能が高いことに加えて、これらを一体となって設計することが許される、「コンパクトデジタル」だからこその恩恵があるのかもしれない。
ライカのモノクロームには、ほかには無い表現の幅がある。諧調が豊富で深みのある黒。決して塗りつぶされた色ではない、個性を併せ持った色だ。
ライカが誇るハイスピードレンズ“ズミルックス”、数多くの銘玉を世に出したその名前は本機に搭載された28mm F1.7においても、その期待を裏切らない。鉄筋や布幕など硬軟を選ばない人工物から、水や光といった無形物まで、様々な被写体でその名に相応しい描写を見せてくれる頼もしい一本だ。
少々野暮な話だが、明るさは多少違えどもMシステムで28mmのズミルックスを新品で購入しようと思えば80万円を超える費用が発生するが、Qシリーズであればボディ・センサーも含めてレンズよりも安価に入手可能なことになる。それでも決して安価とは言い難いが、このカメラが秘めた限りない可能性を天秤にかければ、十二分に理があるのもまた、事実だ。
更に洗練された、ライカコンパクトデジタルの金字塔
本機のボディカラーが“マットブラックペイント”と聞いたとき、塗色が落ち着いた一方で、梨地塗装の宿命ともいえる指紋や化粧など、肌と触れる部分の汚れが付き易いのではないかとの疑問を持ったが、これは杞憂に過ぎなかった。ボディの質感はメーカーリリースの写真からの印象よりも更に上質で、さらさらとしていて小気味よい。塗装にツヤがなくなった分、より一層控えめな存在となり、初見の方からはあたかもノンブランドにも思える主張の無さだ。
目を引く派手さが無いことで、フォーマルでもインフォーマルでも、常に理想的に携帯できる存在となり、作品を創る上での最適な環境づくりにも一役買ってくれるだろう。
「能ある鷹は爪を隠す」、ライカが世に送り出した最上のコンパクトデジタルカメラには、ライカらしいエッセンスを極限まで磨き上げた、至高のアイデンティティが盛り込まれている。
Photo by MAP CAMERA Staff