「このレンズにしか撮れない」と思わせる銘玉がいくつも存在するライカレンズ。今回ご紹介するこのレンズも間違いなくその1本だと言えるでしょう。広角ながら浅い被写界深度と浮き立つような立体感が特徴のズミルックスの名を持つ28mm『ズミルックス M28mm F1.4 ASPH.』のご紹介です。
今や通常ラインアップとして販売しているレンズではありますが、元はライカ100周年を記念して発売された限定キット「ライカMエディション100」のみ付いていた特別なレンズだった事をご存知でしょうか。カタログモデルのレンズになったのが限定セットの発売から約1年後の2015年。7枚の異常部分分散ガラスやフローティング機構などを採用した28mmの最高峰レンズになります。
28mmには代名詞とも言えるF2.8のエルマリートが存在しますが、撮影してみると世界観の違いが一目瞭然。見えている情景をリアルに切り取るエルマリートと、画角の中で主となる被写体を際立たせるズミルックスと言った感じでしょうか。開放から滲みのないクリアな描写と、28mmの広さの中に混在するシャープネスと甘いボケ味。その場の空気までも写し出すような包容感に満ちた描写が特徴的です。
スナップの代表格のような画角として人気の28mmですがこの画角をどう扱うかスタートはいつも悩みます。反射神経を求めるスナップとしてこの広さがちょうど良いというのは何故なのかと考えたとき、とっさの動きに対してもフレームに収めやすく、かつ被写体があまり小さくならない画角なのかなと答えを出しました。あとは「予期せぬ偶然」が収まったりする、というのが筆者の中にあります。このカットは光の切れ込みの中に赤があったため何気なく撮った1枚だったのですが画面右端のイラストキャラクターの目線にあとから気づき、面白いと思って採用しました。
ファインダー内のフレームを意識すれば回避出来る問題ですし、これは28mmのフレームに慣れていなかった筆者の経験不足が原因ではあるのですが、咄嗟に撮った時の予期せぬ被写体の可能性を楽しむのも魅力の一つ、ということにはなりませんでしょうか。
被写体があまり遠くならない。ということを利用して全く関係のない被写体同士の関連性を見つける。ということも面白い気がします。ホテルの造形に合わせて、直線上に人物が配置されるように寄ったり引いたりしながら撮りました。こういう楽しみ方が見つかると苦手意識も消えていきます。
こういう光が射し込んでいるのを見るとついつい撮ってしまうのですが、28mmともなるとその光源元の窓まで写ります。ついつい椅子ばかりクローズアップしてしまうのですが、背景も入れることで違った印象に出来るのが面白いと思いました。
高層ビルに遮られながら沈む陽、ガラス張りのビルが周りに多いことも影響したのでしょうか。まるでライティングしたかのような光が現れていて思わず撮った1枚です。28mmの画角ではF1.4の開放値でもあまりボケ感を演出することは出来ないと思っていたため、予想を良い意味で裏切ってくれました。やや非現実的な光がお気に入りのカットです。
ガラス越しに逆光の店内を撮影。開放絞りだからこそ中間域の人物にピントを合わせた立体感が生まれたのではないかと思います。反射したガラスのボケ具合も嫌な雑味がないため被写体の邪魔をしません。
赤い車が曲がってくるのがわかったので先にファインダーを覗きながらシャッターチャンスを待った1枚。レンジファインダーとマニュアルレンズは待ち伏せて撮れば最新のミラーレス機にも負けないレスポンスで撮れます。多少目測が外れてしまっていてもそこはご愛敬です。
レンジファインダーと28mmの組み合わせはスナップにおいてやはり最高の組み合わせではないかなと感じることがあります。オートフォーカスがないからこそピントを合わせておく、置いておく。瞬間がくるそのタイミングの為だけに全神経を研ぎ澄ませる。上品で静かなシャッター音。じっと「待つ」ことも全く苦ではありません。どんな時でも咄嗟に撮るなら絞って撮影するほうが正解かもしれませんが今回は折角の広角ズミルックス。「28mm F1.4」の世界を楽しむことが出来たと思います。
シャープな線とソフトな世界
『SUMMILUX M28mm F1.4 ASPH.』を使っていて苦手意識を持っていた28mmの印象がガラリと変わりました。F1.4の柔らかさと被写界深度を活かしたカットはまさにこのレンズにしか表現出来ない世界で、かつ柔らかい描写の中にもしっかりとしたシャープネスと線の美しさを感じました。撮れば撮るほど28mmという画角の面白さを再確認できた『SUMMILUX M28mm F1.4 ASPH.』。数多の28mmを使い込んできたユーザーでも広角ズミルックスは特別だと感じていただけるはずです。
Photo by MAP CAMERA Staff