![ALPA Kern Macro Switar 50mm F1.8 AR (M mount modding by MS-Optics)](https://news.mapcamera.com/k4l/images/2025/02/L1000952-1536x1021.jpg)
ALPA Kern Macro Switar 50mm F1.8 AR (M mount modding by MS-Optics)
2025年02月07日
50mmKernLeica Boutique MapCamera ShinjukuM11-PMS-OpticsPREMIUM COLLECTION
Leica Boutique MapCamera Shinjuku はおかげさまで2025年2月20日に12周年を迎えます。これを記念して期間中は希少価値の高い「PREMIUM COLLECTION」の掲載を行います。今回の「Kasyapa for LEICA」では特別編として掲載商品の中からピックアップしたものをご紹介。年月とともに進化を続けるカメラボディと往年の銘レンズとの組み合わせはその度に私たちに新しい景色を見せてくれます。ぜひお楽しみください。
よく耳にする写真用レンズのメーカーをイメージした時に、日本やドイツを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。昨今で言えばそこに中国が入ってくることが多くなりましたが、往年のオールドレンズで申し上げるとややマニアックなところでロシアやフランスが登場してきます。そして今回ご紹介する「Macro Switar 50mm F1.8 AR」については、高級腕時計メーカーが軒を連ねるスイスに居を構えるKern(ケルン)社製のレンズとなります。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000948-scaled.jpg)
元々はALPAという一眼レフカメラ用に製造されているレンズとなり、何故Kasyapa for Leicaに一眼レフ用レンズが…?と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、今回ご紹介する個体はなんとライカMマウント改造が施された製品となっています。ただのMマウント改造ではなく、レンジファインダー機構の要となる距離計と連動するようになっており、無限遠から70cm程度までは一般的なMマウントレンズと同じようにピント合わせが可能です。また、銘に”Macro”と入っているように近接撮影も可能となっており、最短撮影距離は約28cmとなっています。そのため今回はライブビュー撮影も可能なLeica M11-Pに装着したフォトプレビューをお届けします。どうぞ御覧ください。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000777-scaled.jpg)
窓から入った光がゆるりと室内に回っている状態。空間の中央にはポツリとペンダントランプがいたのでそこへピントが吸い寄せられます。格子窓も入っていて縦横の線も見られる状態というやや意地悪な環境ですが、思っていた以上に素直な描写に面喰らってしまいました。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000779-scaled.jpg)
晴天下ではありましたが、正午に近い時間帯だったため窓際のみに強い光が差し、輝度差が生まれています。ハイエストライトはさすがに飛んでしまっているものの、付近に色滲みが殆ど感じられません。今見てしまえば50mmF1.8というと、一見平凡なスペックのレンズですが、なんとアポクロマート補正が施されたレンズとなっています。そのためパープルフリンジなど色滲みの原因となる軸上色収差や、画面周辺部に発生する倍率色収差を抑制しており色ズレの無いヌケの良い描写となっています。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000781-scaled.jpg)
続いてやや近接寄りのアプローチです。距離計は連動していなかったと記憶しているので恐らく被写体まで40~50cmくらいの距離でしょうか。設計上元々寄れるように作られていますから、接写についてもなんのその。必要十分には解像しつつ、優しくフレアをまとってくれるので重たい雰囲気にはなりません。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000789-scaled.jpg)
古いミシンが目に止まりカメラを向けていますが、こちらは真逆光ではなく斜めから太陽光が差し込むような形での撮影。さすがに派手めなゴーストが発生する形となりました。しかしながら本個体についてはMマウント改造に伴い、フォーカシング時に鏡筒後部がボディ側の距離計コロを押せるような作りとなっており、ゴーストについてはこの加工による影響のようにも思えます。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000800-scaled.jpg)
アポクロマートである点をもう少し見てみようかなと思い、更に意地悪な被写体にカメラを向けますが、なんのそのといったご様子です。
「白」がちゃんと「白」として写っている事に驚きが隠せません。発売から60年以上経っているレンズですが、当時の視点から見れば相当なオーバーテクノロジーだったのではないでしょうか。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000821-scaled.jpg)
せっかくなので最短付近も見てみます。最大撮影倍率はおおよそ1/3となり、ハーフマクロとクオーターマクロの中間くらいの接写性能ですが、絞りを開けきった状態でも本当によく写っています。もちろんこの撮影距離では距離計連動外となりますが、使用しているボディがM型ライカという事を考えると、なかなか不思議な感覚に陥ります。出てくる画についてもさながら現代レンズのようで、60年以上前のレンズを触っているという事実をつい忘れてしまいます。撮影に臨む際の前情報として前ボケがやや固めという話は聞いていたのですが、ピント面に対してこのくらいの前後感でまとまっている被写体であれば前ボケ、後ボケ双方あまり気にならないように感じます。近接域で絞りを開けるとフォーカスした部分にもややピントの滲みを感じますが、嫌らしさはなくシルキーな描写をしているのでボケ味とのまとまりも良しです。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000843-scaled.jpg)
レンズ構成は5群7枚となっており、パっと見はダブルガウスに近い形を取っていますが、3群が凹レンズの貼り合わせになっていたり、先頭に1枚レンズが足されていたりと独特なレンズ構成をしています。
とはいえ、ボケの傾向についてはプラナーに代表されるようなダブルガウス型レンズに似通っており、やや量感を持ちつつモコモコとした雰囲気を感じます。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000914-scaled.jpg)
今回の撮影で個人的に最も驚かされた写真です。順光で回り込んでくるような光がなく、光線状況が良かった点や、写真のほぼ中心に被写体を置けたから、という要素も関係していると思いますが、こんなにも精緻にロウバイの花びらを描いてくれるとは思いもしませんでした。また、背景の青にしてもコントラストが下がってしまうような事もなく、空の青と花の黄で綺麗に画をまとめてくれました。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000908.jpg)
F8まで絞ってみました。被写界深度は深くなっていますが、ピント面についてはパキパキになってしまうこともなく、柔らかさを伴っています。
![](https://news.mapcamera.com/maptimes/images/2025/02/L1000952-scaled.jpg)
採光窓から入った光が室内をゆるりと照らし、壁面に陰影を生み出していました。なんという事のない日常の一コマではありますが、この1枚にMacro Switar 50mm F1.8 ARの良さが詰まっているように感じます。アポクロマートによって色収差はしっかりと補正されていますが、往年のレンズらしくハイライト部にはふわりとフレアをまとい優しく滲んでいくのですが、この光の捉え方の塩梅がとても良く、オールドレンズと現代レンズのいいとこ取りをしています。
![](https://news.mapcamera.com/k4l/images/2025/02/012A0322-scaled.jpg)
![](https://news.mapcamera.com/k4l/images/2025/02/012A0330-scaled.jpg)
語り継がれ、受け継がれる銘玉
当時のKern社は映像用途となるシネレンズを多く手掛けており、大きなスクリーンに投影しても耐えられる精度のレンズを作っていたと思われます。その技術をスチル用レンズにも用いたと考えると性能の高さも頷けますし、ALPA用レンズについては様々なメーカーから供給を受けており、Schneider(シュナイダー)社やAngenieux(アンジェニュー)社などの大手メーカーも参入していた事から、各メーカーで技術を競うようなシーンもあったのではと考えてしまいます。そしてMacro Switar 50mm F1.8を生み出した事で一気に名声を押し上げる事となりますが、ALPA専用レンズという事やカメラ本体の製造数も決して多くなく、カメラシステムとして大変高価だった事から入手が難しかったとも言われています。昨今ではマウントアダプター等で様々なカメラに装着することが可能となり、その伝説的な写りを再び楽しめるようになりました。
本個体についてはマウントアダプターを介す一般的な手法とは異なり、Mマウントネイティブへ改造が施される事でレンジファインダー用レンズとしてそのまま楽しめる一品となっています。昨今のデジタルライカであればレンジファインダーでも、ライブビューでも扱える事からある意味理想的な一本とも言えるかもしれません。
Photo by MAP CAMERA Staff