ライカの話をすると必ず過去の名機・名玉の名前が会話の中に登場する。それほど長い間愛され続けられるカメラやレンズは他にはないと思うが、その歴史の中に『CL』というフィルムカメラが存在したのをライカファンの方ならご存知だろう。当時ミノルタとの共同で開発されたCLはコンパクトなボディにレンズ交換式と距離計連動ファインダーを詰め込んだ意欲的なフィルムカメラで、優れた携帯性とスナップ撮影に特化した小さなボディはM型ライカとは違う魅力を持った名機であった。
前置きが少し長くなったが、今回ご紹介するカメラは『LEICA CL』という名前である。 そう言うと前者の四角いボディを思い起こしてしまうが、これは後継機種でもリバイバルされたカメラでもない最新型のデジタルカメラだ。
『TL』や『SL』と共通のTLマウントシステムを採用し、2400万画素のAPS-Cセンサーを搭載。『TL』シリーズには無いEVFファインダーを内蔵しており、形はどことなくバルナック型ライカに似ている。フィルムカメラのCLより引き継いだのは“Compact Leica”や“Compact Light-weight”と言われている名前と、その文字通りコンパクトな設計思想だ。
早速『LEICA CL』をスナップへ持ち出したのだが、これがもの凄くいい。
まずはその大きさ。以前ラインアップされていた『X2』をレンズ交換式にしたような大きさなのだが、両手で構えて撮るにも、片手で鷲掴みに持ち、親指でシャッターを切るような撮影にも最高のサイズなのである。
今回は新レンズ『エルマリート TL18mm F2.8 ASPH.』だけでなく、純正マウントアダプターを使用して『ズマロン M28mm F5.6』も撮影に持ち出した。焦点距離が約1.5倍の42mm相当になり、深い被写界深度も相まってスナップレンズとして非常に使いやすい。
『LEICA CL』は純正アダプターに6bitレンズを装着すると自動でレンズを認識してくれるので、撮影したRAWデータのExifに『Summaron M28mm F5.6』と残るのも嬉しいところである。これなら後で何のレンズを使用したのか迷う心配も不要だ。また、MF時のフォーカスピーキングも大変見やすく、ピント合わせも容易に行う事ができる。
最新の電子デバイスを詰め込んだクラシカルなフォルムのカメラでMレンズを楽しむ。これは『LEICA CL』の粋な楽しみ方の一つかもしれない。
実際に『LEICA CL』を使用してみると、想像以上に使いやすいカメラだ。バルナック型ライカを模したようなネオ・ヴィンテージ風のデザインではあるが、その本質は人間工学に基づいて造られた究極のフォルムと操作系である。小型で目立たず、手の中に収まる『LEICA CL』はまさにスナップを撮るために生まれてきたカメラのように感じた。クリアで視認性の高いファインダーで撮影するのはもちろん、背面液晶を使ってフリーアングルで撮るのも面白いし、片手で握るように持ってノーファインダーで撮ることもできる。
この『LEICA CL』を含め、ライカが他のカメラと違うと感じるのは、製品コンセプトや画作りという点だけでなく、撮る者の意識や目線を変えてくれるカメラなのである。本機の発表会で写真家・ハービー山口氏が「ライカは勇気を与えてくれる」と語っていたように、特別な魅力、というよりは魔力に近いようなものがあると筆者自身も思っている。まだライカを手にしたことのない方には是非体感していただきたい感覚だ。
真のレンズ性能を引き出す、ライカの設計思想。
冒頭の写真ではビビッドな写真に仕上げたが、基本となる画作りのダイナミックレンジは驚くほど広い。センサーサイズは違えど、その表現は「M10のようだ」と感じてしまう。
また、この写真はMマウントの復刻赤ズマロンを使用して撮影したのだが、驚くほどクリアで立体的に被写体を写し出しているのがお分かりいただけるだろう。おそらくだが、Mレンズを使用してここまでレンズの力を出せるのはライカだけだ。
センサーの表現力という話になると画素数とローパスフィルターの有無ばかり取り上げられるが、デジタルライカの真の魅力はそこでは無い。センサー前にはローパスフィルター以外にも赤外線除去フィルターや保護フィルターなど付いており、その厚みは一般的なミラーレス機で約2mmと言われている。デジタル時代に作られたレンズはその2mmの屈折率も加味して光学設計されているが、フィルム時代に作られたレンズは無論そこまで考えられていないのだ。まぁ、それは当然といえば当然である。
そこでライカはセンサー前にあるフィルターを限りなく薄く設計することで、その影響を少なくしようと考えたのだ。現在ラインアップされているM10やSLは2mmより更に薄いフィルター設計で作られており、その思想は『LEICA CL』でも同じように採用されているはずである。
新たに発売された『エルマリート TL18mm F2.8 ASPH.』の描写も素晴らしい。鮮鋭感のある解像力と質感が伝わる描写に加え、トーンの表現が絶妙だ。鈍く光るハーレーに目がいく写真だが、上部に茂る葉の階調表現などは、なかなか他のカメラで出すのは難しいだろう。
『エルマリート TL18mm F2.8 ASPH.』の最短撮影距離は0.3mから。レンジファインダー用28mmレンズで感じる“寄れない難しさ”が無いのもTLレンズの嬉しいポイントである。
また、『LEICA CL』に搭載されているEVFファインダーは236万画素とスペック的には尖ってはいないものの、とてもクリアで空気感まで伝わってくるような見易さだ。スペックシートだけ見ると目立たないポイントかもしれないが、このファインダーの完成度は非常に高い。
『LEICA CL』の色彩表現や解像感のバランスは本当に見事だ。しっかりと写し出しているのにもかかわらず、ザラつくような画の硬さを感じさせないところは、流石ライカである。
復刻された赤ズマロンこと『ズマロン M28mm F5.6』の描写力も素晴らしい。基本設計が60年前とは思えないシャープな写りである。 コントラストの高い夕日の光と影を美しく表現してくれた。
センサーサイズを超えた表現力。
フルサイズではない、『LEICA CL』について その点が気になる方も居ることだろう。センサー自体のポテンシャルを考えれば、もちろん判が大きい方が良い事に間違えない。しかし、センサーサイズが小さいと良い写真が撮れないのかというと、それは否だ。
この『LEICA CL』を使用して筆者が強く感じたのは、カメラとして素晴らしい一台だということ。
小型軽量で使いやすく、スナップに最適で、レンズ交換もできる。そして画作りが本当に美しい。今回スナップで色々な被写体を撮影してみたが、本機の表現力がフルサイズ機に劣っているとは思えないのだ。
そして、それはレンズにも同じことが言える。ライカがAPS-Cセンサー用に専用設計したTLレンズ群は、解像力、ボケ味、各収差補正など、どこを見ても欠点が見つからない素晴らしい描写力を持つレンズばかりである。
自分の目的(写真)に対し、どのようなカメラシステムが好ましく、そして必要なのか。
それ考えた時、必ずしもセンサーサイズだけが全てでは無い、この『LEICA CL』が持っている本当の魅力に気づけることだろう。
ミラーボールをモチーフとしたショーウインドーを撮影した一枚。高コントラストな表現も得意な『LEICA CL』は、金属やガラスのような被写体を撮ると艶やかな写りを見せてくれるカメラである。
絞り:F2.8/ シャッタースピード:1/2000秒 / ISO:100/ 使用機材:LEICA CL + エルマリート TL18mm F2.8 ASPH.
夕日の中のスナップ。強い光をフレーム内に入れているのだが、『エルマリート TL18mm F2.8 ASPH.』は広角レンズながら逆光耐性にとても優れたレンズだ。換算27mm相当になる画角と高さを抑えた大きさは、『LEICA CL』と共に街中でのスナップに最高の組み合わせだった。
折り重なるようなエスカレーターが印象的な一枚。これも階調表現が素晴らしい。
撮影時の設定の変更は全て右肩のダイヤルと、そこに埋め込まれたボタンで操作するのだが、指が覚えてしまえばファインダーを覗きながら直間的な操作が可能で、意のままに『LEICA CL』を操ることができる。必要な機能だけを残し、そして使いやすくする。足し算ではなく、引き算で考えられたプロダクトだからこそ『LEICA CL』は完成度の高いカメラだと言えるだろう。
古き良きデザインと現代が融合したデザインとパッケージ。
撮影に必要な情報は、右肩に最小限表示される。
M10に近い背面の操作系。使用するとこれが最適だと感じさせられる。
薄型で軽量の『エルマリート TL18mm F2.8 ASPH.』は素晴らしい描写を持つレンズだ。
シンプルで完璧。
カメラで写真を撮るとは? その問いにライカが導き出した一つの答えが、この『LEICA CL』だと使用してみて感じた。コンセプトは至ってシンプルで、小型軽量であればいつでも持ち運ぶことができる、そうすれば様々なシャッターチャンスに出会える、故にいい写真が撮れるというもの。写真史に数々の名作を生み出してきたフィルムライカも同じ理由で誕生したのを考えると、形だけでなくライカとしての本質を『LEICA CL』は引き継いでいると言えるのではないだろうか。
また、道具として使いやすいのも素晴らしい。『LEICA CL』を携えスナップをしていると、考えるよりも先に指で設定を変え、シャッターを切ることができる。このこともフィルムライカに通ずる印象を受けた。ピタリと手になじむ感触や厚み、そして握りやすさも然りである。
『LEICA CL』は現代の技術が作り出した革新の一台。そして、いつでもライカで写真を撮ることのできる最高の一台と言えるだろう。
Photo by MAP CAMERA Staff