REIROALというレンズの名を知らない方も多いことでしょう、実はマップカメラがレンジファインダー用レンズ製作で有名な「MS-Optics(エムエス・オプティクス)」代表である宮﨑氏にオファーして誕生したオリジナルレンズなのです。今回ご紹介する『REIROAL M35mm F1.4 MC』は宮﨑氏が設計した35mm F1.4の新作レンズをベースに、外観デザイン・カラーリングをマップカメラが完全オリジナルでデザイン。オールドレンズの思想と宮﨑氏のアイデアより生み出した光学設計は、銘玉で知られる『Summilux 35mm F1.4 1st』の描写再現を目指しつつ、シャープネスや収差を独自にアレンジしたものになっています。
絞り開放で日の光が入ると本レンズの”癖”とも言える収差が強く出てくるものの、フォーカス部の解像力はかなりのもの。まさにオールドレンズの癖を持った現代のレンズといった印象を受けます。
モノクロームでの写り味も気になるところでしょう。マルチコートが施してあることでコントラストは少し高め、しかしアウトフォーカスの収差とボケ味が写真全体を包み、柔らかな印象を受けます。
光量の少ない撮影条件の方が本レンズの描写の深みを感じることができるはずです。晴天時に暴れていた収差も室内では優しい印象に変わります。
上記の写真はF5.6で撮影しました。今まで見た開放描写とは違うシャープで重厚な写り味はとても同じレンズとは思えない描写です。昔のレンズがそうであったように、絞るごとに描写が変化する本レンズは撮影者がその特性を理解し、撮影条件や仕上がりイメージに合わせて露出をコントロールしてやらないとなかなか言うことを聞いてくれない『じゃじゃ馬』です。また、絞り込むことによってピント位置が奥へと移動する「フォーカスシフト(焦点移動)」も確認されているので、どのくらい絞り込むと、どのくらいピント面が奥に移動するのかというのを感覚的に知っておいた方がいいかもしれません。これは球面収差による現象でオールドレンズに多く見られるものです。 そういったレンズの癖を撮影者がカバーするのも、このレンズの楽しみ方だと感じました。
REIROALは4群6枚のガウスタイプ。モデルとなった5群7枚のズミルックス35mm F1.4 1stより1枚少ないレンズ構成なのですが、そこには設計した宮﨑氏の「可能な限りシンプルに」という思いが込められて設計されているためです。そのことはレンズの軽量化にもつながり、重量は90g(レンズフード・キャップ装着時110g)と大口径レンズとは思えない軽さに仕上がっています。
開放でアンダー気味に撮影した1枚。柔らかさと周辺減光の中にフォーカスを合わせたカモメの繊細な描写がわかるかと思います。
現代のレンズでは得ることのできない、どこか幻想的な滲み方をするREIROAL。名前の由来となった『玲瓏』という言葉には「玉が透きとおるように美しいさま、玉のように輝くさま」という意味があり、そのニュアンスが描写を見ると少しわかる気がしますね。
低輝度でも実に美しい光の拾い方をするレンズです。シャドウ部の締りがよりハイライトの美しさを際立てています。
レンジファインダーのボディで使用する場合、REIROALの距離計連動は0.85m~だというところを注意していただきたいです。0.85m未満でも連動コロは動いてしまうので二重像では画を合わせられるのですが、肝心のピントは合いません。また、設計者の宮﨑氏も述べておりますが、前述のフォーカスシフト(焦点移動)についても最近接付近が顕著ですので、デジタル機でご使用を検討されている方は、撮影後の確認を推奨します。
レンズ自体のもつポテンシャルとしては、最短撮影距離は0.6mなので、ライブビュー機能やミラーレス機を使用することで、更なる近接撮影が可能です。
『REIROAL M35mm F1.4 MC』はオールドレンズの収差と現代レンズのコントラストを併せ持ったレンズでした。8面マルチコートが施してあるとはいえ、開放で強い光が入ると豪快にフレアが発生しますので、そこは使い手の光の読みが試されます。F5.6までのピントの立ちは優しく繊細。アウトフォーカス部は滲むような収差が包み込み、最新光学のレンズが失ってしまった写真美を感じることができると思います。
また、本レンズは限定レンズなのですが、その理由として宮﨑氏が一人で光学設計・パーツの発注・組み上げ・調整をし、レンズが完成しているというところがあります。職人の手によって一つ一つ作り上げられた『REIROAL M35mm F1.4 MC』は大量生産される無機質な工業製品ではなく、本当にカメラが大好きな作り手の思いが込められたレンズだということを忘れてはなりません。伝説的なライカレンズを現代の名工がアレンジして生まれた『REIROAL M35mm F1.4 MC』。数多く存在するライカマウントの中でも印象深い1本でした。
Photo by MAP CAMERA Staff