マップカメラはお陰様で2024年8月13日に創業30周年を迎えます。
これを記念して創業祭期間中は希少価値の高い商品「PREMIUM COLLECTION」の掲載を強化しています。
今回の「Kasyapa for LEICA」では特別編として近日掲載予定の商品から特に珍しい商品を一足早くご紹介。今回逃したら次いつお目にかかれるか分からない商品です。レア商品の描写力をぜひご覧ください。
さて本記事でご紹介するのはニコンの大口径中望遠レンズの源流『NIKKOR-S・C 8.5cm F1.5』です。昭和を代表する写真家 土門拳氏、木村伊兵衛氏が愛用し、「木村伊兵衛の懐刀」とも呼ばれています。ライカレンズばかりが評価されていた時代、両巨匠によってニコンレンズの評判が高まるきっかけとなった銘レンズを携えて、ニコンの総本山とも呼べる品川区大井町を訪れました。
西大井駅から大井町駅までを結ぶ通りには日本光学(ニコン)の関連施設が多くあったことで光学通りと名付けられています。そんな通り沿いで最も目を引いたのが先日完成したばかりのニコン本社の新社屋。思わず立派なNikonの看板にカメラを向けてしまいました。さすがは中望遠大口径レンズ。とても柔らかな写りです。当時ニッコールレンズは硬いというイメージが強かったようですが、最新デジタルカメラで捉えてもこの柔らかさですから、そのイメージが崩れたのは容易に想像できます。
通りに並ぶ街灯には大井光学通りの名とニコンの看板が交互に掲げられていて、街全体がニコン一色といった感じです。と言ってもコーポレートカラーの黄色で埋め尽くされている訳ではなく、色数の少ない建物が並ぶ静かな街といった感じで、切り取った画にも派手さはなく落ち着いた発色となりました。
光学通り沿いに銭湯を見つけました。周辺の再開発が進む中でレトロな雰囲気の建物が残っているのは嬉しく思います。調べたところ銭湯と本レンズが登場した時期がほぼ同時期でした。先人も撮ったかもしれない宮造りの屋根と煙突を少し絞ってシャッターを切りました。白い被写体のフレアはしっかり抑えられ、年期のはいった煙突の質感もしっかり捉えてくれています。
光学通りの終点、大井町駅までやってきました。駅の裏側には山手線の車両基地が広がります。広大なスペースに沢山の架線柱が並ぶ細かな風景をF4で撮ってみると線の細いシャープな画が確認できました。6000万画素のカメラにもしっかり対応する高精細な写りです。
そのまま品川方面に進むと品川神社に辿り着きました。艶やかな色使いの本殿と地味な鳥居のアンバランスさが面白くシャッターを切りました。オールドレンズの開放F1.5の効果は凄まじく、ここでも本殿の金の装飾の部分にうっすらとフレアが発生。なんとも幻想的な画になりました。
強い日差しを避けるため木陰に避難。夏らしい緑葉を捉えようとレンズを頭上に向けると大きなゴーストが発生しました。最新のレンズではあまり見られない効果に驚きつつ、この盛大さに思わずにやけてしまいます。
水面の反射を含め、絞り開放から透明感高く捉えてくれます。驚くは階調の豊かさで、光の差し込み方まで確認できました。
最短撮影距離は1mとスナップ撮影ではもう一歩寄りたいと思わせるスペックですが、長めの焦点距離がこれをカバー。大きなボケと相まって撮影者の見つめた先を雰囲気良く切り取ってくれました。
オールドレンズを使っていて楽しいと思うのは同じ被写体でも光線状態で大きくイメージが変わること。光を反射しやすい色の被写体では度々見せていたフレアがこのシーンでは息を潜め、タイルの目やコンクリート部分の質感までしっかり描いてくれました。一方で画の柔らかさは健在。コンクリートの建物でも何処となく優しく感じさせるから不思議です。このような被写体からでも本レンズが銘ポートレートレンズだというのが良く分かります。
オールドレンズを使うと何故か被写体にも歴史あるものを選びたくなってしまいます。昭和13年に建てられた建物を使用している郷土歴史館をF4まで絞って撮ると細部までシャープに捉えました。開放の柔らかい画との差がまた楽しく、まさに一粒で二度美味しいと言った感じです。
近接&開放でのピント面の薄さは凄いの一言。これを使いこなすには相当な鍛錬が必要で、そこがまた楽しさでもあります。
突然降り出した雨の下で捉えた向日葵。機材が濡れないよう注意を払いながらサッと撮った1枚でしたが、ボケの美しさが良く分かる画を描いてくれました。
歴史あるものを探していたら東京駅まで辿り着いてしまいました。窓ガラス越しだったことも影響したかもしれませんが、光が強く当たっている中央部がより柔らかく描かれています。ボケとフレアのバランスが絶妙と言ったところでしょうか。
大きな地球儀。ここでも最短1mがネックになりましたが、ピント面の解像力の高さのおかげで細かに書かれた文字までしっかり認識することができました。
ビル街は歩行者天国になっており、カラフルなテーブルやベンチが用意されていました。その中で目に止まったのはニコンカラーのテーブル。日が傾き始めた時間帯でもその鮮やかな色を綺麗に描いてくれました。奥の店舗に陳列された瓶に生じたリングボケがオールドレンズらしいスパイスとなりました。
銘ポートレートレンズの源流
3群7枚ゾナータイプのレンズは手に持つとズッシリと重く、いかにもガラスの塊といった感じのレンズです。これは最新の大口径中望遠レンズにも通じるところがあり、ボケの美しさを含め綺麗な画を楽しませてくれました。
手元の資料によると昭和26年頃に登場した本レンズは、ニコンSマウント用が700本弱、コンタックス用が約200本、ライカスクリューマウントが500本弱と全体でも2,000本に達しない少生産のレンズだったと記されています。こんなに良く写るのに何故とお思いでしょうが、当時の値段が高額過ぎたようでなんとも残念な話です。現代のカメラでの使用に耐えうる高い性能や、今も高値で取引されていることを考えるとその価値も納得です。そんな希少レンズの中でもライカスクリューマウントはアダプターの入手がしやすく、他のミラーレスカメラでも使いやすいのがポイント。今回はライカボディでの写真を紹介しましたが、ニコンZボディによる純正ニコンで楽しむのも乙ではないでしょうか。もちろんソニーやキヤノンのカメラで贅沢な動画を楽しむということも。貴重なチャンスをお見逃しなく。
Photo by MAP CAMERA Staff