Schneider Xenon 50mm F2.0 Collapsible
2024年08月11日
マップカメラはお陰様で2024年8月13日に創業30周年を迎えます。 これを記念して創業祭期間中は希少価値の高い商品「PREMIUM COLLECTION」の掲載を強化しています。 今回の「Kasyapa for LEICA」では特別編として近日掲載予定の商品から特に珍しい商品を一足早くご紹介。今回逃したら次いつお目にかかれるか分からない商品です。レア商品の描写力をぜひご覧ください。
ライカファンがXenon(クセノン)と聞くとSummarit 50mm F1.5の前身となった、Xenon 50mm F1.5を想像される方が多いのではないでしょうか。このXenonはSchneider-Kreuznach(シュナイダークロイツナッハ)に当時在籍したAlbrecht Wilhelm Tronnier(トロニエ博士)が設計したレンズとされています。 また、トロニエ博士という名前に馴染みが無い方でも、VoigtlanderのUltronやColor-Heliar、NOKTONやAPO-LANTHARといったレンズの名前には聞き覚えがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。トロニエ博士は戦後にはVoigtlanderに移籍し上記のレンズの発明にも携わっており、後世に伝わる様々なレンズタイプを設計しています。 今回はそのトロニエ博士が設計したXenon 50mm F1.5の前身とも言える、「Xenon 50mm F2.0 沈胴(L39)」をご紹介致します。
絞りを開けてまずは一枚。強い夏の日差しを受けつつでしたが、フレアによる滲みを伴い優しい写りを持ちながらも有耶無耶になってしまうような事はなく、よく写っています。
真逆光の撮影では盛大なゴーストが現れますが、複雑な形はしておらず色合いもほぼ単色のため、写真にエッセンスを加えることが出来ました。オールドレンズを触る時はどんなゴーストの出方をするか、ワクワクしながら光に向けて撮影したくなってしまいます。
今回撮影するにあたってどうしてもXenon 50mm f1.5の描写が頭の中にイメージとして強く残っていたためか、絞りを開け切った状態ではかなり暴れる描写になるだろうかと想像していましたが、ボケ味は比較的穏やかでシーンを気にせず使っていける印象を受けます。
光が回り切っていないアンダーよりな空間では盛大に暴れることはなく、代わりになだらかなボケ味が顔を出してくれます。 背景と被写体との距離にもよるとは思いますが、この距離でもやや渦を巻きそうな印象を受けました。
カラーで撮った際の淡い色合いも佳いですが、やはりモノクロが似合うレンズだなと感じます。ややアンダーに振っている露出ではありますが、コントラストがあまり高くないため穏やかな中間調が光と影を描いてくれているように感じます。
もしカラーでの撮影を行う場合はハイキーに振って柔らかさを写真に取り入れる方が、個性がよく出ているように感じました。 サルスベリの花をほぼ最短の撮影距離となる場所から一枚。レンズに任せ、敢えて振り回されるこの感覚が心地良いです。
本レンズの歴史などにも触れておくべきでしょう。レンズ構成については対称型構成のレンズとして名を馳せているPlanarを源流としていますが、そこから更に対称構造を緩やかに崩している事から非対称ガウス型と呼ばれています。 また、この非対称型ガウスタイプのXenon 50mm F2(4群6枚)が生まれたのが1925年とされていますが、後の1934年には5群6枚に構成を変更した変形ガウス型のXenon 50mm F2(5群6枚)が生まれており、こちらはKodak社から発売されたRetina IIなどに搭載され、広く普及したと思われます。 余談ではありますが、2群と3群の貼り合わせを行っていた4群6枚から、2群の貼り合わせを行わず間に空気層を設けた5群6枚の変形ガウスタイプについてはトロニエ博士がVoightlandarへ移籍後に設計したUltronの原型とも言えるでしょう。
しかしながら非対称型ガウスタイプ本レンズが生まれた1925年にはスクリューマウントのレンズ交換式カメラは存在しないはずなのです。 レンズ交換が可能なライカI(C)型が開発されのが1930年、その翌年の1931年にフランジバックが統一され「ライカマウント」としてカメラ毎のレンズのフランジバック調整が必要なくなり、初めてレンズ交換の自由がもたらされているからです。
では、本稿にて取り上げている4群6枚の非対称ガウスタイプのXenon 50mm F2 沈胴(L39)についてはいつ歴史の表舞台に登場するのでしょうか。 それを紐解く鍵はシリアル番号にありました。本稿に登場する個体についてはシリアルが184万台となっていますが、Schneider-Kreuznachの資料によると180万~200万台については1942年~1948年に製造された個体となるようです。
そして、1948年にイタリア北西部にてAntonio Gattoが製造したSonne(ゾンネ)と呼ばれるL39スクリューマウントを持つライカのコピーカメラシリーズが販売されています。 更には1950年頃にはSonne Vという機種が発売し、Sonne Vは数種類のレンズとセット販売されたようですが、そのセットレンズの中にXenon 50mm F2 沈胴(L39)が含まれていたという資料があるため、それが今回のレンズの正体という事になるでしょう。
トロニエ博士に思いを馳せる一本
後の世に様々な発明を残したトロニエ博士が、本レンズを設計した1925年はまだ若き設計者とも言える23歳。 1936年にはSummarit 50mm F1.5の原型となる、Xenon 50mm F1.5(5群7枚)を設計し当時のLeicaに提供する事となります。 しかしながら大口径レンズの開発競争においてはベルテレ博士が設計したZeiss-Ikon社のSonnar 50mm F1.5(3群7枚)が立ちはだかり、 コーティング技術が現代の様に発達していなかった時代においては、空気境界面の多かったXenon 50mm F1.5はかなり不利な条件だった事は間違いなく、レンズの性能に優劣を付けるのであれば開発競争には敗北しまったとも言えるでしょう。 その敗北を喫したSonnarという名称には諸説ありますが、太陽を意味する「Sonne(ゾンネ)」から来るという説があります。
時は流れ1950年、Schneider-KreuznachからAntonio Gattoに提供された本レンズが Sonneという機種に使われていた事に、何かの因果を感じずにはいられません。
Photo by MAP CAMERA Staff