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フォクトレンダー ビテッサ(Voigtländer Vitessa)



今回はドイツの名門フォクトレンダーのカメラ、ビテッサをご紹介したいと思います。と言っても、
ビテッサといえば、同メーカーの1、2位を争う有名・人気機種ですので、ご存知の方も少なくない
と思いますが・・・。

さて、まずフォクトレンダーについて簡単に触れておきますと、このブランドは18世紀中葉に遡る
老舗中の老舗です。というより、世界最古の光学機器メーカーでした。創業は1756年のウィーン。
1756年といえばモーツァルト生誕の年ですから、モーツァルトがザルツブルグで産声を上げた年
に、その約300キロ東で同社は誕生したことになります。フォクトレンダーブランドの歴史の長さ
が分かります。

その名は創業者のヨハン・クリストフ・フォクトレンダーに由来します。日本人にはほとんど馴染み
の無い名前ですので、時々「フォトクレンダーを探してるんですが・・・」と尋ねられる
ことがあります。
確かに写真に関わることですので「フォト」と付いても不思議はないです。「フォトくれんだー」なんて
いかにも写真を撮ってくれそうでとても微笑ましい命名ですが、如何せん創業者の名に由来すること
ですので致し方ありません。綴りは「Voigtländer」と書いて正式なドイツ語読みは分かりませんが、
日本では、古くは「ホクトレンデル」と呼ばれ、戦後英語読みのヴォイトレンダーの影響を受けて、
フォクトレンダーと呼ばれるようになったようです。
今では日本のコシナがこのブランドを受け継いで、フォクトレンダー銘を冠した魅力あふれるカメラ
やレンズを作っていることは周知の通りです。つい先日発売されたNokton50mmF1.1が良い例ですが、
高性能・高品質な製品にもかかわらず低価格ですので、非常にコストパフォーマンスが高いですね。
「フォトクレンダー」ならぬ「お得連だー」です!

さて、前置きが長くなりましたので、本題に入ります。
下がビテッサです。



まず、一番に目を引くのはファインダーの上方から長く突き出たプランジャーでしょう。俗に「煙突」
と呼ばていますが、このプランジャーを一押しするとフィルムが一コマ分巻かれて、同時にシャッター
がチャージされます。
ビテッサが発売されたのは1950年で、ノブ式巻上げが一般的だった当時としては、このプラン
ジャーの一押しですぐ撮影できるというのは画期的でした。フィルムの巻上げとシャッターチャージ
が同時に行なわれる機構をセルフコッキングと言いますが、セルフコッキングさえ無いカメラもまだ
少なくなかった時代です。

下はレンズもプランジャーも収納したときの状態です。




この状態で普段は持ち運ぶわけですが、いざ撮影する時は左上にあるシャッターボタンを軽く押し
ます。するとプランジャーが一気に飛び出してきて、それと同時にレンズも前に飛び出してきます。
後はシャッタースピードと絞り、焦点を合わせてすぐ撮影できたわけです。
ビテッサはローマ字表記でVitessaと書きますが、これはフランス語のVitesse=スピードが語源で
速写性能が高いところから名づけられたのでしょう。シャッターボタンの一押しですぐ撮影可能に
なり、かつ、プランジャー一押しで連射が出来たわけです。
また、大口径レンズのことを英語ではハイスピードレンズと言いますが、ビテッサは当初より開放が
f2のウルトロンが搭載されましたので、Vitessaは大口径レンズ搭載をも意味したのかも知れま
せん。(なお、後期型にはカラースコパーのf3.5とf2.8付きもあります。)

写真のビテッサは50年製の最初期型で、露出計無しのレンズ沈胴タイプですが、ビテッサはその後
レンズ沈胴タイプで露出計の付いたビテッサL、レンズ固定鏡胴タイプでレンズ交換可能なビテッサ
Tへと進化していきます。
ただ、初期のビテッサにもバリエーションがあって、上にも触れたレンズの種類の違いだけでなく、
ロゴの位置やパララックス(視差)補正の方法、アクセサリーシューの有無、シャッターの種類
(コンパーラピッドかシンクロコンパーか)など、その違いを探ってみるのも楽しみの一つです。
下の写真がビテッサの背面ですが、最初期型ですので、パララックス補正は手動です。矢印に従って
手でずらす必要があります。



51年型からレンズの繰り出しに合わせてパララックスが自動で補正されるようになります。
このパララックス自動補正ですがあのライカでさえ54年のM3で漸く実現した機構です。
また、ビテッサには特筆すべき機構がもう1つあります。それは巻き上げの際フィルムの巻上げを
スムーズにすると同時にフィルムを傷つけることのないように、巻き上げの瞬間だけフィルム圧板が
フィルムから後退する機構です。フィルムを巻き上げ終わるとまたフィルムを圧着して位置ずれを
防ぐというものです。この機構は52年型から省かれてしまいます。

で、私のお奨めはやはり写真の最初期型。ビテッサの設計者は随所に工夫を凝らし、製造には非常に
コストが掛かったとされていますが、設計者の頭には速写性という大きなコンセプトの他に、シンプ
リシティーや携帯性というコンセプトがあったと思います。そしてこれらのコンセプトが結実した
最たるものが最初期型だといえます。
まず、設計者はビテッサを箱型にできる限り近づけようとしました。レンズを沈胴式にしたのはその
ためですし、これほど長いプランジャーも収納されます。ストラップ用の吊環やアクセサリーシュー
などもなく、その上シャッターボタンもボディー内に沈み込み、出っ張りがほとんどなくなります。
まさに箱型です。
そして形状の単純さに加え、後期型に対して、最初期型はロゴがボディー前面に無く、かつ、シン
クロターミナルもレンズ扉に隠れて、非常にあっさりしています。Simple is the best!と言わん
ばかりです。

このようにカメラを折りたたむと完全な箱となって、非常に無機的です。ところが、シャッター
ボタンを押し込むやいなや、プランジャーとレンズが勢い良く飛び出してきます。しかも、レンズが
飛び出す際、扉が最終的に落ち着く位置よりも一度大きく開いて少し戻ると言った動きを見せるので、
なぜか私はカニの口を連想してしまいます。まるでカニが砂の中から栄養素だけを掻き分けるのに
似て、妙に有機的です。逆にレンズを沈胴するときは一旦大きく開いた口を閉じるに合わせてレンズ
が格納されるので、まるでレンズを呑み込むかのようで、これほど無機と有機が同居しているカメラ
を私は知りません。

形態の単純化と奇抜な機構を組み込み、速写性と携帯性、確実性とを追求し、その上高い趣味性
をも実現した歴史的名機、ビテッサ。このカメラは設計者の夢の結実そのものです。

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written by マップカメラ1号店地下(小野)
この記事のカテゴリーは『ヒストリカルピース』です | この記事は2009年07月31日現在の情報です。


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