ミラーレス戦国時代と呼ぶにふさわしい年であった2021年。
超高性能機の開発に各社がしのぎを削るなか、日本のカメラメーカーの雄であるCanon・Nikonの両社より待望のモンスターマシンがデビューしました。
裏面照射積層センサー、電子シャッターで秒間30コマの超速連写、そして視線入力AFを搭載したCanon EOS R3。
有効画素数4571万画素、9種類の被写体を検出できるAFシステムを搭載し、メカシャッターレスのNikon Z9。
これだけのスペックを誇る両機がモータースポーツ撮影で対決したらどうなるのか…。
考えただけでもワクワクしますが、なんと実現することが出来ました!
撮影は2月末に富士スピードウェイにて行われた、S耐公式テスト。レーシーな車からコンパクトカーまで様々なカテゴリーの車両が混走するので撮影が非常に面白いレースです。
つい先ほど公道ですれ違った車と同じ車種が改造を施され、凄まじい速度でコーナーを駆け抜けてゆく。
譲れない戦いを繰り広げるその熱気に、Canon党とNikon派の2人の漢が”本気で”挑みます。
レンズはどちらも通称“ロクヨン”こと600mmのF4をマウントしました。
前篇である本記事では、Canon党の私がEOS R3をメインにご紹介!
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1987年にEOS 650が誕生してからというもの、Canonはいつの時代もオートフォーカスの先駆者であり続けました。
オリンピックの中継等で、白い大砲が一斉に同じ方向へ動くのを見たことがある方も多いのではないでしょうか。
絶対に失敗できない現場で圧倒的な稼働台数を誇るEOSは、多数のプロフェッショナルスポーツフォトグラファーから絶大な信頼を得ていたことが伺えます。
そんなCanonが、「視線入力AF」と言う飛び道具を引っ提げ完成させたEOS R3に、マウントアダプターEF-EOS Rを介し、EF600mm F4L IS III USMを装着。
武者震いしながらメインスタンドで売られていた美味しい焼きそばで腹ごしらえをし、同行したスタッフにお勧めの撮影ポイントを教えてもらった後は、13時からの撮影に備えます。
そして…
絞り:F4 / シャッタースピード:1/800 / ISO:250
腹の底に響くエキゾースト音とともに、NISSAN GT-Rがやってきました。
予めEOS iTR AF Xの乗り物優先を「する」にしていた甲斐があり、何も考えずともフレキシブルゾーンAFの枠が車の大きさそっくりそのままで追ってくれます。
タイトコーナーにもかかわらず結構な速度で進入してくる車を、フレームインした瞬間に補足するこのカメラに畏怖すら覚えました。
しかし高速シャッターのため、写真の迫力はいまいち。ここから一気にシャッタースピードを落とし、格好いいショットを狙ってみます。
絞り:F7.1 / シャッタースピード:1/125 / ISO:100
シャッタースピードを1/125まで落としてみるとだいぶ躍動感が出てきましたが、同時に課題も残りました。
それは「シャッタースピードを落とし流し撮りすると、ピントを合わせた部分以外はブレる為、魅せたい場所ピンポイントでピントを合わせなければならない」※ことです。
そういった場合は、基本的に手前側のライトにピント合わせると思うのですが、フレキシブルゾーンAF、乗り物優先「する」のままでは「被写体全部を覆うように検出枠が出ていて、誠なるピント位置が解らない」ため、次カットから設定を変えていきます。
※このカットは運良くピントが合いました。
絞り:F14 / シャッタースピード:1/100 / ISO:100
乗り物優先「しない」に切り替えた後、まずは全域AFを試しました。サーボAF特性はCase3の「急に現れた被写体に素早くピントを合わせたいとき」を選択。フレームインの瞬間に車を捕捉してくれましたが、思ったよりも広い範囲でAFポイントが反応してしまいます。
また、AFの敏感度が上がっている為「食いついた!」と思っても直ぐに微ズレしてしまうことがありました。
色々と試した結果、スマートコントローラーを「ON」+視線入力を「する」かつ、AFエリアを「領域拡大AF(上下左右)」にしたうえでサーボAF特性は「Case1」にするのが一番安定するようです。
絞り:F11 / シャッタースピード:1/160 / ISO:100
始めはスマートコントローラーを使わず、視線入力のみで試したのですが…。
車がフレームインした瞬間にライトをピンポイントで見つめる事が出来ず、ほんの一瞬車を追いかける目の動きに視線入力が反応してしまい、0.1秒ほどAFポイントがヴォンッ…っとブレてしまう事案が多発しました。
そうするとAFを復帰させるまでに手間取ってしまい、上の写真のようにピント位置が手前のライトからずれてしまうのです。
そこでスマートコントローラーの出番です。
絞り:F13 / シャッタースピード:1/160 / ISO:100
今回の被写体はプロの運転するレーシングマシンという事で、コーナーのライン取りには一貫性があります。
なので、
①スマートコントローラーを使用して迅速に画面右上までAF枠を持って行き、「フレームインの瞬間に」見つめはじめる位置を決めておく。
↓
②フレームインの瞬間にシャッターボタンを半押しし、追尾開始
↓
③ピントを合わせるライトを見つめ続ける。
という流れで飛躍的にヒット率が向上したのです。
絞り:F8 / シャッタースピード:1/640 / ISO:200
1台撮ったら直ぐにAFポイントを元の位置に戻し、上記の流れを繰り返します。
車を直接目で追うより、領域拡大AFの枠と共に車のライトを見つめるイメージで車を追う方が、視線入力の反応・追尾が良いのです。
具体的には、右上からフレームインした車が下半分に移動した後、AFポイントが大きくずれることが少なくなりました。
この設定を見つけた時には「よし、これで…!」と勝利を確信したのですが、横から「流石Z9」という声が聞こえてきました。
むむむ、どうやらZ9も素晴らしいパフォーマンスを発揮している様子。せっかくの機会なので、Canon党の私も触ってみたい!
そこでお互いにカメラを交換し、それぞれライバルの性能を確かめることにしました。
以下はNikon派スタッフがEOS R3を使って感じた所感となります。
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Nikon派の私でも発売からずっと気になっていたEOS R3。
機材を交換し、久しぶりのCanon機のため操作に慣れるまで時間がかかりそうだなと思いましたが、隣にCanonのことを知り尽くしたスタッフがいたおかげでスムーズに撮影が行えました。
まずは気になっていた「視線入力」のキャリブレーションを行い撮影を開始。
絞り:F5 / シャッタースピード:1/500 / ISO:100
コーナーから立ち上がってきた車両を撮り感じたことは、「思っていた以上に視線入力を使いこなすのには時間がかかりそう」だということ。
キャリブレーションを繰り返し行う必要があるように感じました。目の動きが少しでもあっていないと意図しない場所にフレームがいってしまいます。
絞り:F5.6 / シャッタースピード:1/500 / ISO:100
徐々にではありますが、視線入力の動きも合いはじめスムーズに撮影ができるようになってきました。
絞り:F7.1 / シャッタースピード:1/500 / ISO:100
絞り:F7.1 / シャッタースピード:1/500 / ISO:100
何度かキャリブレーションをし自分の見ている部分にフレームが来るようになってきました。
絞り:F7.1 / シャッタースピード:1/500 / ISO:100
コーナーに複数台の車両が飛び込んできたとしても、視線入力のおかげでピントが急に追っている車両から外れることもなく、安心してシャッターを切り続けることができます。
正直なところ実際に視線入力を使用する前までは期待をしていませんでしたが、良い意味で裏切られました。4000枚ほどの撮影画像を確認してみても大きく外している写真がほとんどないので、動体撮影をされる方には非常に便利な機能であると感じました。
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今回はR3の所感をメインにお伝えいたしました。
エポックメイキングな視線入力に目がいきがちですが、超望遠レンズを付けても全く不安を感じないボディ剛性やクリック感の明確なボタン等、プロ機としての「基本性能の高さ」も使うほど身に沁みます。
特にファインダーの“見え”に関しては特筆もので、EVF究極の理想である「何も違和感を感じない」というレベルまで達しているように思いました。
では今回の勝者はEOS R3なのか。
それが明らかになる次回Nikon Z9編もお楽しみに!
RFマウントの神髄、究極のAF機です。早めのお渡し、頑張ります!
中古商品に出会えた時には是非ご検討ください。