【オールドレンズの沼地】Leica HOLOGON M15mm F8とは?
ブログのタイトルを見て「おお!あのレンズ!」という方も居れば「ライカ?ツァイス?どっち??」と疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。
今回のオールドレンズの沼地では番外編として、数奇な運命により純正ライカレンズとして発売されたツァイスレンズ頂点の1本『Leica HOLOGON(ホロゴン) M 15mm F8』にスポットを当てようと思います。
ライカとツァイス。カメラ好きなら誰しもが思う永遠のライバル関係の2社。車で言うならメルセデスとBMW、釣り具で言うならD社とS社といったところでしょうか。
その2社の名前を刻む今回のホロゴンというレンズ。
まず先にホロゴンとはなんぞや?というところから簡単にご説明したいと思います。
戦後、西と東の2つに分かれたドイツの光学機器メーカー、カール・ツァイス。ホロゴンはその西側ツァイスのレンズ設計者であるエルハルト・グラッツェルが発明した超広角レンズになります。
このエルハルト・グラッツェル氏という方は本当にすごい方で、コンピュータを用いてレンズ設計を行った第一人者でした。その設計方法は「グラッツェル法」と名前が付いているほどで、近代の光学設計方法の基礎を作った方とも言えます。
代表作と言えるのが有名な『ディスタゴン』。一眼レフ用の広角レンズに革命を起こし、現代のレンズにも多大な影響を与え続けている設計思想と言っても過言ではないでしょう。
そしてもう一つの代表作と言えるのが『ホロゴン』。元は西側ツァイスより発売された『ホロゴンウルトラワイド』というカメラに装着された特殊なレンズでした。
この『ホロゴンウルトラワイド』というカメラ、写真で見るとコンパクトカメラのような形をしていますが、ベースとなっているボディは西側ツァイスの最上級一眼レフ機『コンタレックス・スーパー』を使用しており、大きさも重さもそれなりにある一台です。
このカメラが発売されたのが1968年。しかし3年後である1971年に西側ツァイスはカメラ生産から撤退を発表します。その理由には高価なコンタレックスの販売不振に加え、躍進する日本のカメラメーカーに対抗できなかったとも言われています。
その翌年1972年にライカ純正レンズとしてMマウント化されたホロゴンが発売されました。
ここで気になるのが「もしかすると」というストーリー。
もし、西側ツァイスのカメラ販売が好調だったらライカ純正のホロゴンは誕生していなかったのでは?とも考えられます。実際どのような経緯でライカレンズとして採用されたのかは分かりませんが、レンズ沼に浸っている身としては想像を膨らませてしまいます。
さて、それでは本題である『Leica HOLOGON(ホロゴン) M 15mm F8』を見ていきましょう。
レンズは先に話した『ホロゴンウルトラワイド』と共通のものをMマウント化したもの。距離計連動の機構はなく、目測でピントを合わせて撮影をします。
そしてレンズにはライカ純正で「CARL ZEISS」の文字が刻まれています。
そのハス向かいには「LEICA-M」の文字。
この違和感、なんというか「メルセデス M3」のような不思議な文字の並びです。
「今でもツァイスからMマウントレンズを出しているじゃないか」という意見もありそうですが、ZMマウントはあくまでライカMと互換性のあるZMマウント用レンズという話。ライカ純正レンズとして採用された本レンズとは少し意味が変わってくるのです。
レンズの後ろは、見てくださいこの曲率!
前玉も同じように半球体で盛り上がっているのですが、この後玉のぷっくりとした感じがたまりません。
そして「Lens made in West Germany」の文字。
筆者が小学生の頃にベルリンの壁が崩壊し、ニュースを見ながら大人たちが騒いでいたのを思い出しました。オールドレンズの中にはこの「made in〜」でその時の歴史的な背景が見える物があります。
そして純正リアキャップには「Leitz(ライツ)」の文字。
付属品には15mmファインダーと中央部が黒く曇った特殊なフィルターが付いてきます。
このフィルターはNDフィルターで、周辺光量が激しく落ちるホロゴンの光を均一にするためのもの。
そのためレンズはF8でもフィルターを装着すると実質F16ほどの光量になるので、それに合わせて露出を決めなくてはなりません。
フィルターにも「LEICA-M-HOLOGON」と刻まれ…
反対側には「CARL ZEISS」の文字。なんというか、絶対的に譲れないツァイスレンズのプライドのようなものを本レンズから感じます。
この写真は数年前に『Leica HOLOGON(ホロゴン) M 15mm F8』で撮影した一枚。
カメラは『Leica MDa』に『Kodak Ektar 100』を入れて撮りました。
ホロゴンの大きな特徴は歪曲収差(ディストーション)がほとんどないということ。
周辺までしっかりと描き切り、中央部の解像力と抜けの良さは唯一無二だと言えます。
ホロゴンホロゴンと本ブログで語っていますが、ホロゴンと言えばこちらのレンズを思い浮かべる方も多いはずです。そう、CONTAX Gシリーズ用に作られた「Hologon(ホロゴン) T*16mm F8(G)」。少し内面反射の抑制材が劣化していますがご了承ください。
この個体はMマウント改造されたものになりますが、15mmのホロゴンと同様に後玉が半球体にせり出しています。
…美しい。
2本を並べて見ました。同じ35mm判フィルム用のF8なのですが前玉の大きさが全然違います。
一方、後玉はほぼ同じようなサイズ感です。
ではレンズ構成を見てみましょう。
左が1960年代に設計された15mm。右が1990年代に設計された16mmです。
半球体と言えるほどの曲率を持つ2枚でひょうたん型の両凸レンズを挟み込む3群3枚構成の15mmに対し、16mmは大きく違う設計の3群5枚。両レンズともドイツで設計されドイツで作られた生粋のツァイスレンズになります。
付属のアクセサリーも形は違えど同じ考えで作られたもの。新旧のホロゴンで撮り比べなんて贅沢な撮影もしてみたいものです。
最後は箱も一緒にパシャリ。元となった『ホロゴンウルトラワイド』の箱はインパクトのある超広角写真がプリントされたデザインに対して、ライカの箱は控えめで大人な印象です。
ライカにはシュナイダー設計のクセノンやスーパーアンギュロン、さらに突っ込むと初代21mmMエルマリート、Rマウントではクルタゴンやアンジェニューのズームレンズなど純正レンズとして存在していますが、それらとは一線を画すような存在に感じる『Leica HOLOGON(ホロゴン) M 15mm F8』。その生産本数も非常に少なく500本程度だと言われています。
ツァイスとライカの繋がりを感じられる希少な1本。そして今だにライカ純正Mレンズの中では最も広い画角を持つレンズになります。コレクターズアイテムとしてだけではなく、ぜひその描写を体感していただきたいレンズです。
↓こちらは「Mマウント改造」
↓こちらは「コンタックスGマウント」