【秒24コマの軌跡】映像のルックを創る。「bmpcc4k+CONTAX Vario-Sonnar T*28-70mm F3.5-4.5 MM」
「映画」
1秒間24コマの画、その連続による残像が描き出す世界。
このブログでは、「どうやったら良い動画が撮れるのか」「一人でも映画を撮るにはどうすればよいのか」をテーマに
機材レビューだけに限らず、様々な視点から動画撮影をサポートするシリーズにしたいと思います。
まずは、今回の映像作例をご覧ください。
今回は、「ルックを創る」と題して、映像の持つ「雰囲気」や「佇まい」を個性的に演出する方法を考えます。
そもそも、ルックを構成する要素にはどのようなものがあるのでしょう。
光、色、構図、時間、レンズ、フィルター。
様々な要素を組み合わせてルックは創られます。
ルックを創る方法に正解は存在せず、無数の方法が撮影者の目の前には広がっています。
私が個人的にルックを創る際に重要視しているのは、「レンズ」と「構図」、そして「色」です。
デジタルカメラでフィルムルックを目指す撮影者は絶えず考えねばならないテーマがあります。
「いかに、デジタルっぽさを殺すか」
このテーマはデジタルシネマカメラの初期から現在に至ってもなお続く最重要テーマだと思います。
数々ある答えの中の一つとして「オールドレンズ」という選択があります。
現代のレンズでは悪く言うと「シャープに写りすぎてしまう」という見方が出来ます。
収差に対する補正やコーティング技術の発展に伴って、レンズは進化をしてきました。もちろん解像力が上がるのは好ましいことです。ですが、全ての映像がシャープである必要があるでしょうか?表現したい事柄によってはもっとソフトで有機的な表現のできるレンズが好ましいと言えます。
そこで、自分の目指すルックによってレンズを選択する必要が出てきます。
今回選んだレンズは「CONTAX Vario-Sonnar T*28-70mm F3.5-4.5 MM」です。
あなたはご存知でしょうか、数々の有名な映画、「シャイニング」「レイジングブル」「フルメタルジャケット」などを撮影したツアイスのスーパースピードレンズと、ヤシカコンタックスのツアイスレンズとが似た様な設計をされていることを。もちろん完全に同一というわけではありません。ですが、高額なシネレンズを気軽に使うことはできないので、そんな時はこのヤシカコンタックスのツアイスレンズに期待したくなります。
しかもこのレンズはヤシカコンタックスマウントで唯一の回転式ズームを採用しています。他のヤシカコンタックスマウントのズームレンズは、直進式を採用しているので、フォーカス送りが常に伴う映像撮影においては、フォーカスを操作する際に画角が変動する可能性があるので使いづらく感じます。その点この「CONTAX Vario-Sonnar T*28-70mm F3.5-4.5 MM」は回転式なのでフォーカス送りもしやすくなります。
このレンズは非常に色再現が良く、ヤシカコンタックスレンズ群の中では珍しく硬めの写りをするレンズです。
今回のルックはコントラストの少し強めの映像を想定していたので、ルックに合わせたレンズ選びができました。その結果は非常に良好で、青空や海の色再現は想像以上に良く、カラーグレーディングの助けとなりました。確かに、解像力の高いレンズとはお世辞にも言えない本レンズですが、先にも述べた様に、映像のルックは解像力だけが重要ではありません。より有機的な写りに期待してこのレンズを選びました。
使用ボディは「Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K」
使用しているマウントアダプターはレデューサー系ではないので、焦点距離は約1.9倍換算で「53.2〜133mm」となっています。たしかに、広角側を意識して、レデューサー系のアダプターを使う事も方法の一つではあります。ですが、今回は自分の中で設けたテーマとして「50mmで引いてワイドを撮る」というものがあったので、あえてレデューサー系のアダプターは使用しませんでした。
上の様なワイド目の画をフレーミングする際に、広角で捉えるのも良いですが、どうしても歪みなどの光学的特性が気になる場合があります。それと、あくまで「映画」的な目線で考えた際、広角すぎるとデフォルメされすぎた画になり。物語を伝えたい時にそれを邪魔する様な、ある意味軽い画になってしまう場合があります。ですので、引きの画でも50mmあたりで狙うと、どっしりとした重量感のあるフレーミングができます。
もう一つ、構図を切る際に重要視したいのは、「ファインダーを覗くこと」です。
昨今の一眼スタイルでの動画撮影では、外部モニターの使用が主流となっています。一時期と比べると小型化と高輝度化が進み、かつ大きな画面で視認性も良いので人気となっています。
ですが、私はファインダーを覗くことによってより自分が見ている画への「没入感」が違ってくると考えます。
そもそも、映画館で映画を見る際にはスクリーン以外は暗い環境です。それと似た様な感覚にするためにはファインダーを覗くことによってそうできます。モニターの場合はあくまで客観視している様な気がしてしまいます。映像の周囲が暗く見えると不思議と没入感が違ってきます。
最後に、カラーグレーディングによるルックの創り方を見ていきたいと思います。
今回の映像作例をご覧になってどの様な印象を受けましたか?
制作者側の意図としては、90年代の邦画的な色彩をベースに、青を基調とした色づくりをしました。波の押し寄せる様の一部カットにハイスピードを使用したり、意図的に逆光目の画を入れました。
基本としたLUTはDavinciにデフォルトで入っている「Rec 709 Kodak 2383 D55」です。
このLUTを基本としながら、各カットを個別にグレーディングし、調整をしました。海の青と空の青、その両方を調整し全体的なトーンを統一することによってルックを創りました。明るい青というよりは、どこか少し寂しさを感じる様な青を目指しました。この様な意図を持った画作りが印象的なルック創りに繋がるとおもいます。ルックの持つ力は大きく映像全体の佇まいを決めてしまいます。今回の映像はBGMの雰囲気もあいまって、少し物悲しい様なイメージを狙いました。制作者の意図としてのテーマが映像から伝わっていれば成功といえます。
如何でしたでしょうか。
これらは、ルックを創り出す要素のあくまで一部にすぎません。
先にも述べた様にルックを創り出す方法の選択肢は、撮影者の前に無数に広がっています。
複雑な要素を絡み合わせて作り上げたルックはまさに【あなただけが創ることができる画面】となります。
どうか皆様もご一緒に「ルック探究の旅」に出ませんか。
次回の【秒24コマの軌跡】にも是非ご期待ください、それではまた。