【Canon】「幸せの青い鳥」ルリビタキを追った日
幸福の象徴とされる「青い鳥」。
ベルギーの詩人であり劇作家でもある、モーリス・メーテルリンク作の同名作品は非常に有名です。
今回の被写体は、残念ながらチルチルとミチルが妖精に導かれ探した鳥とは違いますが…。
「幸せの青い鳥」と呼ばれることもあるルリビタキを追った時の事を、綴りたいと思います。
当時撮影に使用した機材
(今回掲載いたしました写真は、全て大幅にトリミングしております。その為見苦しい点もあるかと思いますが、ご容赦くださいませ)
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全長たった14㎝。深い瑠璃色と檸檬色の“それ”を、私は10年間ずっと探してきました。
本来そこまで珍しい鳥では無いはずですが、探し方が悪いのかどこへ行っても会えずじまい。
その日も案の定逢瀬は敵わず、とぼとぼと帰ろうとしていた所。
ねずみ色のレンズの重さにつられて下がった肩ごしに、「もしかしてルリ探してますか」と声が聞こえました。
振り返ると、Nikon D500にAF-S NIKKOR 200-500mm F5.6E ED VRを抱えた優しそうな初老の男性が立っていました。
「ええ。でも会えませんでした」
そう答えると、彼はにこっと笑うのです。
「もし良かったらポイントまで一緒に行きませんか。今日もたくさん撮れましたよ。エサを探しに来るところがあるんです。案内しますよ」
薄暗い森に光がさしてきました。
彼に連れられ“ポイント”に着くと、他にもD500を構えた方が居りました。
「藪から出てきて、地面でエサを探すんです。その時を狙ってください」
彼の言葉を聞きながら、相棒の軍幹部に指を運び、設定を煮詰めていきます。
AFはAI SERVO、測距エリアはゾーンAFで中央。速度変化に対する追従性はデフォルト…。
まるで戦場で銃の安全装置を確認するかの如く、何度も何度も追認します。
そして暫しの沈黙…。
「いた!あそこ!」
その声が聞こえるが早いか、バララララッ!という軽機関銃の様な音を立て、D500達が「始動」しました。
不慣れな私は視認すらできておらず、慌てて皆と同じ方向にレンズを向けます。
結局彼に指をさしてもらい、何とかフレームインすることに成功しました。
ごちゃごちゃした背景の中、深い瑠璃色の小鳥が一生懸命餌を探しています。
あまりの興奮に6D MarkⅡのファインダー像は盛大に上下。キヤノン基準で約4段分の手ブレ補正は、私の胸の高鳴りを抑えきれません。
その間に嗚呼、電光石火!ルリビタキは一瞬でフレームアウトしてしまいました。
にわかには信じられない速さです!
車のドリフトや陸上のリレー、電車に飛行機と、動き物はいろいろ経験してきた私ですが、それらとは比べ物になりません。
必死でサーチングし直し、撮りまくること暫し。
ふと冷静になり背面液晶で確認してみると、残念ながらほとんどピントが合っていません。
ファインダー越しでも感じましたが、藪や草、背景にピントが抜けてしまうのです。
設定を色々変え、中央一点スポットでのサーボAFも試しましたがヒット率は半分ほど。
この状況を打破するためには、もう“あれ”しかありません。
親指AFを解除し、AFモードをシングルに。測距点は中央一点スポット。これでシャッターボタン半押しを連打します。
一眼レフ機での動体追尾AFで、これを上回るヒット率をただき出す方法はありません。やはり桁違いにピントが合うようになりました。
いつの間にか日が傾き始め、腹ばいになり続けたお腹が落ち葉だらけになった頃。
とうとうルリビタキはどこかに行ってしまいました。
「やり切った」という達成感と共に立ち上がると、軽いめまいを覚えます。どうやら熱中しすぎていたのかもしれません。
体中がギシギシときしんで、決して短くはない時間が経ったのだと伝えてきます。
体調が戻るまでしばしじっとしていると、後ろから「どう?面白いでしょ」と話しかけられました。
振り返ると彼が笑っています。
その手には200-500をマウントしたD500。背面液晶には私のよりも大きく写った綺麗なルリビタキ。
お礼の言葉と共に深々と頭を下げた私へ、「僕はまた違う個体を見つけに行きますね」と残し…。
彼は颯爽と去っていきました。
・・・
どうやっても無理だと思っていた夢が、思いがけない出会いをきっかけにあっさりと叶う事があります。
私にとっては、この時出会った方こそが「幸せの青い鳥」だったのかもしれません。
何かと暗いニュースが多い昨今。
先の見えない日々が続いていても、もしかしたら小さな何かがきっかけとなって、世界が大きく変わるかもしれない。
そんな風に思うようになりました。
願わくばその時には、私にルリビタキを撮らせてくれた彼の様な優しい笑顔が、世界に溢れていますように。
相棒は今日も、防湿庫の中で待っています。
好きなことに遠慮せず生きていけるその時を。