【Canon】ずっと、もっとCanonを好きになる。EOS R3とさよならの日
※今回のブログでは、EOS R3にマウントアダプター EF-EOS Rを介しEF24-70mm F2.8L II USMを使用しています。
4K DCI(29.97fps)/ALL-I:約470Mbps、ピクチャースタイル:オート、AWBにて収録した4K動画と、その動画から切り出した静止画を掲載しております。
数週間ほど前、ひょんなことからEOS R3を数日試用する機会に恵まれました。
Canonが大好きな私は、新しい時代の到来を感じさせるこのカメラを使えることが大変嬉しく、その時をワクワクしながら待っていました。
しかし楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気付けばもう、最後の日…。
・・・
あの日、目的地をとうに過ぎて、ささやかな寄り道をしました。
風の強い、鋭く晴れた午後でした。
北へと延びる県道は、うねりながら少しずつ山肌を撫でてゆきます。
「山中湖小山線」。
小山だなんて慎ましやかなその名前とは裏腹に、上り坂が連なるその山は、どうやら一等の観光道路。
非力な愛車のエンジンは、ガーガーと不満げな声をあげます。
そんな車がひとしきり愚痴を言い終わり、マリモ通りに差し掛かる頃。
開け放した窓から、今までとは明らかに違う音が聞こえ始めました。
なんだろう。
湖畔の駐車場で申し訳程度の防寒着をひっつかみ、カメラリュックを背負って遊歩道へと身を滑らせます。
下を見やれば、およそ考えもつかないような世界が広がっていました。
平野育ちの私にとって、凍った水といえばせいぜい水溜まりくらい。
ここが海じゃない事なんか、すっかり忘れて呟きます。
流氷だぁ…。
シャラシャラと澄んだ音色は、まるで冬の風鈴の様でした。
富士山を見に来たことすらすっかり忘れ、カメラも私も長い事うつむいていたのですが、ふと見上げるとはじめてが、また。
それは静かに、富士山の傍らに寄り添っていました。
いつからそこにいたのでしょうか。もしかするとずっと前から、かたくなに湖面しか見ない私を笑っていたかもしれません。こっちだよ、と。
半円に少し届かない長さ、ただの虹ではないのでしょう。いつもならスマートフォンを取り出して、検索窓に指を滑らせるところです。
でもその名前や、成り立ちを知るより早くやるべきこと。
雲台の角度を見上げてる先に合わせたら、カメラも私も一緒に幻日に照らされます。
夜が来たら道が凍るかもしれないため、本当はすぐに切り上げるはずでした。
撮影も、寄り道も。
でも考えてしまうのです。もう少し歩けば、あの角を曲がったら、ここで振り返ったら…。
カイロ代わりに買った、ポケットの紅茶が急速に温度を失っていきます。
でも、
鳥たちが帰り支度を終えました。
それでも、
今日が、このカメラとの最後の日。
それでもまだ、帰りたくない…。
名残惜しさに振り向いて空を仰いでも、幻日はもう見えませんでした。
代わりにまだ残るのは、風鈴の様なシャラシャラという音。
その遠く響く清涼感に耳をすませば、何度でも後ろ髪を引かれます。
くたびれたリュックにカメラを仕舞い、三脚を畳んでも、なかなか帰る決心が付きません。
やっとの思いで車に乗り込み、せき込むエンジンをしゃんとさせ、道案内の苦手なナビに目的地を教えたら。
ステアリングを握って、パワーウインドウを一気に4枚開け放って…。
しかたない、あかぎれも今日は勘弁したげる。
・・・
いくえにも身を寄せ合った氷硝子が、水を裂く日々に飽きた頃。
この湖も、あの山も…。
きっとまた、遥か先を行く夏の尾ひれを捕まえる。
その時はまた、ここに来ようと思います。
それが春だと、伝えるために。
このカメラを持っていなければ、寄り道をすることもありませんでした。素敵な夢を、ありがとう。