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【Canon】一眼レフに手を振って

国破れて山河在り 城春にして草木深し

時に感じては花にも涙を注ぎ 別れを恨んでは鳥にも心を驚かす…

 

中学の頃、国語の授業中僅か40分で暗記させられた詩は存外しっかりと記憶に根付いたようです。

15年経った今でも、すらすら暗唱できるほどに。

いわんや、長年連れ添った相棒の感覚なら、なおさら…。

 

 

写真を始めたのは、10年前位でしょうか。
機械好きだった私はひょんなことからカメラに興味を持ち、半年ほど様々なメーカーのカタログを読み漁りました。
これほど活字に触れたのは、幼少期に夢中で読んだ冒険小説以来。そこに綴られた文字に胸を躍らせ、新しい体験を夢に描きます。

『疾走する2つのエンジン』
ふむふむ、なるほど…。高速連写に対応するためにDIGICを2つ積んだんだな。

『開眼、ISO51200』
高感度も良いけど、写真の色が綺麗!

『挑発的なまでのパフォーマンスを凝縮。』
バランスと安定感ならこのカメラが良さそうだ…。

この時に戻りたいと思うのは、初めてのカメラ選びが楽しくて仕方が無かったからでしょう。

 

 

結局、はじまりのカメラにはCanon EOS 60Dを選びました。
持ちやすいグリップに7Dより抑えられたノイズ、バリアングル液晶が決め手です。

小さなファインダーに、プラマウントのキットズーム。
ぱこん!というちょっと頼りないシャッター音も、相棒がいっしょうけんめい景色を食べているようで微笑ましく感じたものです。
あの頃はまるで、時間や季節、世界そのものが、全て自分のものになったような気がしていました。

 

 

それでも5年ほど経つと、フルサイズへの憧れは大きさを増してゆくばかり。
2017年9月にとうとう貯金を切り崩し、EOS 6D MarkⅡを手に入れました。

ミラーが上がる。心が動く。
今日も、写真を撮りに行く。

いつの日からか、そんなフレーズが頭の中で踊るように。

 

夏が来て、春になって…、繰り返す日々の中で、憧れを追い続ける幸せ。

 

それから時が経ち、撮りたいものが複雑化して、ミラーレスに手を伸ばしたのが数ヶ月前のこと。

高性能な機種を選んだためなかなかのお値段になり、EOS 6D MarkⅡとEFレンズ一式を下取りに出しました。
査定に出す前の梱包時、ずっと連れ添った相棒を箱詰めしながらふと思い浮かんだのは
「おもちゃ箱を片付けるみたいだ」
友達と楽しく遊んで、そして、遊び終わったあとの…。

そうまでして手に入れたミラーレスは素晴らしく、
こんな暗くてもピントが合うのか!ノイズがめっちゃ少ない!カスタムボタン沢山!と大喜びでした。

そしてそれっきり、ほとんど写真を撮らなくなりました。

 

・・・

「撮るという体験」が大好きだったのだと気づいたのは、そのあとの事。

人差し指を押し込めば、軽い衝撃と共にカメラが瞬きをし、確かに景色が自分のものになる。

そこに特別性を見出してしまったから、ミラーレス全盛になっても一眼レフカメラを使い続けていたというのに。

 

 

そんな折数日前、EOS 5D MarkⅣを少しだけ借りることが出来ました。
今まで所持したことのないカメラです。
それでもグリップを握り込めば、腕に伝わる一眼レフの心地よい重さ。
「あの感覚」を一気に引きずり出し、切れないナイフで私の胸に突き刺すのです。
忘れていた宝物は、ただ忘れようと目を背けていただけだった…。

 

最初の1枚。心のなかで、何かがカチリとはまる音。
次の1枚。操作方法は悲しいほど右手が覚えている。
3枚。4枚。ピントを外す。だからどうした。
5枚。6枚。久しぶりの手ブレ。そうだ。「人間」がカメラを構えた証拠だ。

ミラーが上がる。心が動く。
火傷しそうなほど、瞳に光が届いている。

ちくしょう、なんで、こんなに、幸せなんだよ…。

 

・・・

無理して買った大きくて重いレンズを、どこに行くにも持って行きました。

ファインダーじゃ上手にMFなんか出来ないくせに、気取ってピントリングを回したこともありました。

小さな被写体になかなかAFが合わず、その都度上位機種の購入を考えました。

狙った露出が得られなくて、何度も撮り直す姿は格好悪かったでしょう。

 

私、一眼レフカメラが好きでした。

さよならを言っても。

[ Category:Canon | 掲載日時:21年09月02日 18時00分 ]

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