
【CONTAX/RICOH】TVS IIIと、これからのコンパクトフィルムカメラ
つい先日、フィルムカメラ TVS IIIを伴って、雪の降る温泉街を旅しました。
その時の事を、これまでの、そしてこれからのフィルムカメラに対する雑感を交え、お伝えしたいと思います。
コンパクトフィルムカメラは、後どれくらい使うことができるだろうか。
原材料費の高騰や、ユーザーの減少により、フィルムそのものも値段が上がる今、
多くの方にとって、フィルムカメラは、より趣味性の高い道具として認知されているかもしれない。
中でもコンパクトフィルムカメラは、その利便性や携帯性も相まって、簡単にフィルムの雰囲気を味わうことに最適だ。
その結果か、コンパクトフィルムカメラ全体の相場がここ数年で顕著に引きあがってきている。
とはいえ、コンパクトフィルムカメラの課題は、それだけではない。
フィルムカメラ全体にも言える話だが、修理保守期間が終了した機種も多くなってきた。
つまり、修理ができる機種もあれば、できない機種もあるということだ。
去年の暮れに、使っていたGR1S デートが故障し、レンズバリアの開閉ができなくなってしまった。
GR1Sは、以前はシルバーを使ってたが、その後一度手放して、縁があり、今度はデート付のブラックを購入した2代目であった。
使用頻度こそ、そこまで多くはなかったものの、どこへ行くにもとりあえず伴うような、正に愛機だった。
RICOH GR1S デート + Kodak GOLD200
普段飽き性で、すぐにカメラを買い替えてしまう私だが、GR1Sは、随分使った。
私が手にした時は既に中古で、カウンター表示不良の難有品だったが、1990年代も後半の発売のカメラである。
むしろよく、複雑な電子部品を内包しながら、20年間も動き続けてくれたと思う。
ちょうど、GR1Sのデート機能は、2024年末をもって、内部に記録されたカレンダーが終端になってしまい、
2025年からは日付が初期設定まで戻ってしまうという。
日付機能は使用しないまま、使い続けようと考えていたが、本体の不具合も重なり、
何とか修理できないかと、見積もとってみたが、部品払底の為不可とのことだったし、
活用方法が見つかる方に手放した方が良いのかもしれないと感じ、放出したのだった。
しかし、GR1Sがない生活は、思っていたよりさみしいものだった。
私にとってGR1Sは、他人に見せる様な写真を撮るカメラではなく、
肩の力を抜き、仲の良い家族や友人を撮り、みんなに見せて笑いあうような、日常に根差したカメラであったのだ。
その穴を埋めるため、同じように日常に根差すカメラを代わりを探し始めたが、中々見つからない。
コンパクトカメラで、広角が使えて、日付が焼き込めて…。
一つ一つの要素を満たすカメラはそこそこあるものの、しっくりくるものが見つからず、時間が流れていった。
それだけ、私にとって、GR1Sは完成されたカメラだった。今もなお、中古を探してしまう自分がいる。
RICOH GR1S + Kodak PORTRA 400
そんなある日、見つけたのが、うってかわって、CONTAX TVS IIIだった。
1999年に発売された、ズームレンズを搭載したコンパクトカメラ CONTAX TVS シリーズの3代目に当たる機種だ。
偶然見つけたTVS IIIは、2000年を記念したミレニアムモデルである。
ミレニアムモデルにはいくつかカラーバリエーションがあるが、私が購入したのはきらびやかなマーブル塗装が目を引くモデルだった。
GR1シリーズを買い戻すのではなくCONTAXを選んだ理由は、その美しいルックスと、
当時Tシリーズなど名立たる名機を発売していたCONTAXブランドの描写力を、この目で見たくなったためである。
CONTAX TVS III + Kodak PORTRA 800
余談だが、このカメラ、現在大変な人気を誇るCONTAX T2やT3シリーズと比較し、当時は不人気の機種だったようだ。
その理由とは、このクラスでは当時めずらしかったボタン押下式の電動ズームを採用していた事や、
毎回起動時にフラッシュ発光設定がリセットされてしまうなどいった操作系の煩雑さなどから来ているようだったが、
実際のところ、使用してみると、この辺りの操作がやや撮影のテンポの悪化を招いていることは否めないが、
コントラストが高く明瞭な、30-60mmという絶妙な焦点距離のレンズや、愛くるしくも洗練された筐体を触っていると、些末な問題に思えてくる、大変よいカメラである。
CONTAX TVS III + Kodak PORTRA 800
何より魅力的なのは、日付の焼き込みが2099年頃までメモリーされているということだった。
その時まで自分が生きて使っているかはさておき、日付の焼き込みは私にとってかなり重要な機能だ。
何故か、と言葉にするのは難しいが、例えば、日付が焼き込まれることで、現像し、仕上がったフィルムが
まるで思い出がそのまま形になったような、不思議な感覚になることが、一つの理由だったりする。
CONTAX TVS III + Kodak PORTRA 800
ところで、デート(日付焼き込み)機能のあったフィルムカメラには、2019年問題と呼ばれるものがあった。
多くのカメラが有するデート機能のメモリーが、2019年末を境に終端を迎え、それ以上の日付を記録することができないというものである。(機種によって終端はまちまちで、例外も沢山ある)
日付機能を使用さえしなければ写真は問題なく撮影することから、差し支えないユーザーも多くいるものの、
光でフィルムに直接写真を焼き込むというのは、デジタルで日付を後処理で記録するのとは異なるように、私は感じる。
使う事ができるなら、ぜひ使いたい機能だ。
CONTAX TVS III + Kodak PORTRA 800
このCONTAX TVS IIIも、はたしていつまで使うことができるだろう。
いまはまだありがたい事に、修理などに対応ができる機種ではあるが、
全体として、コンパクトだけではなく、多くのフィルムカメラは、当然ながら長い年月を経て、徐々に数を減らしていっている。
点検や清掃であればまだしも、ヴィンテージのクルマと同じで、修理部品がなくなってしまうと、修理を行う事が出来ない。
特に、電子基板を内包するカメラは、その難易度が飛躍的に上がってしまうと聞く。
技術発展と共に、今後願わくば、このような製品の修理対応が再開されたりしないものかと
淡い期待を抱いてしまうこともあるが、難しいというのが現状だ。
CONTAX TVS III + Kodak PORTRA 800
そんな状況の中、昨年にはPENTAXから17というハーフ判のコンパクトフィルムカメラが発売されたりもした。
よもや2024年にコンパクトフィルムカメラの新製品など、10年前なら誰が想像できたであろうか。
聞けば、様々な同社の名機の設計者に話を聞き、考えを織り交ぜ、開発されたそうだ。
まさに、フィルムカメラを作りたいという熱意が、一つのカメラを、本当に作り上げたのだ。
CONTAX TVS III + Kodak PORTRA 800
このような動きは局所的かもしれないが、新製品が発売したということには大変意味があると思う。
新製品が発売すれば、市場にその分新たなユーザーが生まれ、
フィルムカメラを取り巻く環境に、新しい循環が発生する。
徐々に数を減らしていくフィルムカメラ市場に、新しい機種が誕生するのは、
それだけ、素晴らしい意味があると、私は考えている。
古いスキャナーで、ネガを取り込みながら、待ち時間にそんな雑感を並べ立てながら、取り込まれた写真を眺めてみる。
雪の降りしきる温泉地は、硫黄のにおいと湯気が立ち込めていて、
多くの人で賑わい、皆一様に滑りやすい足元に気をしながら歩いていた。
行の特急列車や、バスでのこと。その日に食べた食事のこと。泊まった宿のこと。
ここに載せていない写真も沢山写ったネガが、思い出を形にしたまま、手元に残っている。
いまもなおフィルムカメラを使えることに感謝をしながら、
出会ったCONTAX TVS IIIこれからも大切に使いたいと、改めて感じた。
CONTAX TVS III + Kodak PORTRA 800
修理面などのリスクはあるものの、それをなげうってでも使いたい魅力が、コンパクトフィルム機にはあります。
こぢんまりとしたボディに凝縮された、当時の最先端技術の粋。
そしてそこから写し出される、形の残る写真達。フィルムでしか出せない色。
しかし操作は簡単で、どこでも、誰でも使う事が出来る利便性。
私が手にしたカメラは、CONTAX TVS IIIという一つの機種ではありますが、
皆様にもベストマッチする素晴らしいカメラがこの世界のどこかに眠っているかもしれません。
皆様も是非、ライフスタイルにマッチしたコンパクトフィルムカメラを探してみてはいかがでしょうか。
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