徒然なるままに…
この一節を聞いて徒然草を思い浮かべない方は少なくないでしょう。
鎌倉時代から南北朝時代に活躍した随筆家の吉田兼好が残したこの随筆集には、この時代に生きる日本人の人生観が克明に読まれています。
この徒然草で吉田兼好は現代を生きる私たちにも通づる概念を解き、そして理想を語っています。
この様に普遍的な物事や事象を語っている背景もあり、670年以上経った今もなお読み続けられている超ロングセラーエッセイが徒然草なのです。
それでは当時に想いを馳せながら今回のテーマに話題を移したいと思います。
冬の幻想を追い求めていくにつれ、光の重要性に気が付きました。
光といってもイルミネーションなどの人工的に作られた光ではなく、太陽などの自然光です。
「冬の煌めき」と聞くと、眩い光がきらきらと闇夜を照らすイルミネーションを真っ先に想像するのが現代人の感覚だと思います。
しかし、先人達にとっては太陽や月などから降り注ぐ自然光そのものが対象であり、またその光が降り積もった雪や障子に貼られた和紙などに当たることで得られる間接光が冬の煌めきを演出していたのではないかと想像することができます。
そうしたことを考えながら今回は撮影に出かけました。
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今回使用した機材はこちら
FUJIFILM (フジフイルム) GFX 50S II
FUJIFILM (フジフイルム) フジノン GF63mm F2.8 R WR
徒然なるままに、早朝に家を出発し、富士五湖の一角を形成する本栖湖へと車を走らせました。
それもこれも日の出に合わせて富士山の絶景を拝めると信じて。
しかしその思いも虚しく、時はすでに遅し。
本栖湖に到着した頃には朝日が昇っていました。
時は儚く、無常なものです。
吉田兼好が徒然草で伝えたっかった「無常感」を時間の移ろいによって実感することとなりました。
そうこうしている間にも太陽は刻々と位置を変え、富士山の後方から湖に向かって優しい光を注ぎはじめました。
冬の澄み渡った空気を切り裂くかのごとく湖面はきらきらと輝きだし、冬の煌めきに満ちた幻想の世界を見ることができました。
「早起きは三文の徳」という有名なことわざがありますが、まさに早起きしたからこそ見ることができた幻想的な光景に遭遇し、とても清々しい新年のスタートを切ることができました。
朝日はなぜこんなにも暖かな光を私達に届けてくれるのでしょうか。
神社に来ると自然と身が引き締まります。
朝日に照らされた金色の鳥居は神々しい空気感に包まれていますが、その姿は暖かな光に包まれているせいか、私たちを聖域へとやさしく導いてくれているようにも感じました。
ハレとケ、陽と陰、正と負、光と影…
この世界の多くは二元論によって形成されていますが、それは時としてあいまいさを生み出します。
現代ではこの二項対立では表すことのできないところに概念を見出す動きが高まり、より繊細なグラデーションとなって私たちの生活の中にも息づき始めています。
この世界に変わらないものなど何ひとつとしてありません。
時は移ろい、姿かたち、こころまでも常に変化し続けています。
そうした常に変化する世界だからこそ私たちは不安を感じ、精神的な拠り所を求めるのかもしれません。
そして、これからの人生をより良いものにするためにもコトやモノに固執せず、柔軟な発想で物事を捉えることができる思考が必要になっています。
加速度的に進む世界の潮流に飲み込まれてしまわぬように。
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さて、ここからはカメラの話に話題を変えましょう。
今回使用したカメラはラージフォーマットセンサーを搭載したGFX 50S IIになります。
このカメラの特徴は何といっても、対角55mmを誇る大型センサーとそれによって得られる広いダイナミックレンジでしょう。
ラージフォーマットセンサーは、同5000万画素級のフルサイズ機と比べて1.7倍もの受光面積を持ち、より多くの光の情報量を取り込むことができます。
受け取る光の情報量に余裕があるため、より豊かな色再現が可能になり、加えてトリミングやRAW現像などの編集処理においてもより劣化の少ない画像編集をすることが可能になりました。
また、ラージフォーマットのカメラシステムを搭載したカメラにも関わらず、重さは約900gと軽量で、サイズも幅約150mm、高さ約104mm、奥行約87mmとフルサイズ機と変わらないボディ設計となっています。
その上、小型設計された6.5段分のボディ内防振機構と信頼性の高い防塵防滴機構を備え、スタジオ撮影以外の日常的なフィールドにおいてもなに不自由なく使える仕様になっています。
そのため、今までは躊躇していたスナップ撮影にも難なく持ち出すことができます。
広いダイナミックレンジによって建物のファサード装飾が浮かび上がり、立体感を見事に表現しています。
極端なハイライト部の白飛びやシャドウ部の黒潰れもなく、グラデーションがとてもきれいに描かれているのが見てとれます。
よく観察すると影の中にも色があり、歴史的な建物に重厚な佇まいを纏わせています。
今回使用したレンズはGF63mm F2.8 R WRは35mm換算で約50mmの標準レンズになります。
このGF63mm F2.8 R WRは、富士フイルムのホームページ上にも『始まりの1本』というキャッチコピーがあるようにGFXシリーズを使う上で手にしておきたいスタンダードレンズの1本です。
重さも405gと比較的軽量で、スナップ撮影には打って付けのレンズとなっています。
また、GFX50SⅡの適度な大きさのグリップと相まって、使っていて大変心地の良い撮影体験をすることができました。
現代的な建築物は透明ガラス張りの壁面となっていることが多く、10%の光を反射させます。
太陽の光は100,000lxとかなり明るいため、10%の反射率でも実際にはとても眩しく感じます。
そうした状況下でも活躍してくれる余裕のある写り、そして頼もしい諧調表現。
ラージフォーマットとはこういうセンサーだと訴えかけているように感じました。
スポット測光を使ってわざと明暗差が大きいシーンを作り出してみてものっぺらとした描写にはならずに、建物の立体感、そして空気感までをも丁寧に映し出してくれています。
なんとも懐の深いカメラです。
また、GFXシリーズではラージフォーマットならではの65:24というアスペクト比を使えるため、横長でダイナミックな構図を用いて撮影することができます。
センサーサイズの優位性を活かし、この他にも様々なアスペクト比が使えるため、普段の写真表現に自由と遊び心を加えてくれます。
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最後に今回はラージフォーマットのメリットである広いダイナミックレンジを活かしながら冬の幻想と煌めきを追い求めてきました。
「光と戯れる」というキーワードをもとに撮影を行なっていくにつれて、自然光の面白さを再発見できたように思います。
この記事を読まれた皆様もあれこれとあまり堅く考えずに、
『徒然なるままに日暮らし写真機に向かひて心にうつりゆく由なしごとを、そこはかとなく写しとれば…』
といった心持ちで、まずはなにかテーマを決めて写真を撮ってみてはいかがでしょうか。
そこにこれからの進むべき道(人生観)のヒントが隠されているかもしれません。
この記事が皆様の好奇心を刺激し、
それではまたお会いしましょう。