【Go To フォト】100万円と1万円のレンズの写りの“違い”
晩秋の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。
私は相変わらず、カメラを、レンズを、写真を楽しんでおります。
日々様々な機材を試す中、先日ふと疑問が頭をよぎりました。
「100万円と1万円のレンズの写りって、何が違うんだろう」と。
…というわけで、今回はCanon (キヤノン) EOS Rにマウントアダプターを付けて100万円のレンズと1万円のレンズを比べてみる事にしました。
100万円のレンズにはLeica (ライカ) アポズミクロン M50mm F2.0 ASPH. ブラック 。
1万円のレンズにはダブルガウス構成の、コストパフォーマンスが高い大人気AFレンズをチョイスしました。
(アポズミクロンについて少し触れておくと、このレンズはLeicaの誇る技術の粋を結集して作られたレンズです。赤・青・緑という3つの光の波長をズレなく焦点(センサー)で結像させ、色収差を徹底的に除去するアポクロマート設計を採用しているため、極めて高画質。近距離撮影時の描写力(主にシャープネス)を上げるためのフローティング機構も内蔵し、向かうところ敵なしといったまさに「写りすぎるほどよく写る」レンズです。)
※この記事はどちらかのレンズを貶めるものではありません。両方とも素敵な個性があり、それぞれに替えの効かない魅力があります。どちらが上、下という事ではなく、単純な読み物としてお楽しみください。(また、違いを分かりやすくするために少々大げさに記述しているところもございます。)
撮影日はあいにくの曇天でしたが、同条件にて比較してみました。
本来ならば等倍にてご覧いただきたかったのですが、今回は縮小画像にてご覧くださいませ。
まずは昼の部です。
(マニュアルモードにて、各数値を同条件にしました。また、ホワイトバランスはAWBです)
アポズミクロンf5.6のカット
比較レンズf5.6のカット
このカットはSLの名板にピントを合わせました。
絞っているせいか、パッと見で大きな違いはないように感じます。
拡大してしっかり見てみると、
・比較レンズは一番右下の草が流れている
・車体左側最前部にある金色の排熱口(?)はアポズミクロンの方がしっかりと描いている。
・アポズミクロンの方が全体的に青っぽく、比較レンズの方が温かみのある色になっている。
といった所でしょうか。
思ったほど違いがありません。
「レンズはどれも絞れば同じ」という言葉が頭をよぎります。
…いや、まだだ。結論を出すのはまだ早い。
次は細かい被写体の解像力チェックをしてみます。
アポズミクロンf2.8のカット
比較レンズf2.8のカット
こちらも縮小状態ではよく解りませんので、拡大してしっかり見てみます。
・アポズミクロンの方が、右下の木材と背景の落ち葉とが切り離されて見える。
・極中央での解像度は同じに見えるが、周辺部に目を移すと「読み取れる葉の筋の数」に違いが出てくる。(アポズミクロンの方が筋がくっきり出ている)
・比較レンズは下部の歩道や縁石のボケがうるさい。アポズミクロンはなめらか。
・左上の枝部ボケ量が全く違う(絞り値は両方とも同じです)
比較レンズはよく健闘しています。
しかしながら、細部を見ていくとやはりアポズミクロンのパフォーマンスは圧倒的なのだと思い知らされます。
昼の部最後は立体感のチェックです。
アポズミクロンf2のカット
比較レンズf2のカット
このカットは大きな差が生まれました。縮小状態でも一目瞭然です。
まずもって比較レンズは色が不自然に鮮やかで、リアルさがありません。それぞれの木の黄緑の描き分けも怪しさが残ります。(凄く大げさに言うと、中央付近の木の葉はどれも同じ色に見えます)
アポズミクロンは「景色そのまま持って帰りました」と言えるほどリアリスティックで、木それぞれに生命力が感じられます。更にはまるでAIが画像を自動診断したかのように、「被写体に応じて最適なボケ味」を選んでいるようにさえ見えます。
ピントを置いたベンチの木目の解像度にも大きな違いがあり、特に道から手前の描写は圧勝と言えるでしょう。
面白くなってまいりました!
続いては夜の部です。
昼間に比べ光源の種類・量が増加する夜は、レンズにとって難しいシーンとなります。
様々なポイントを総合的に見ていきますが、とりわけ気になる点は以下でしょうか。
・特殊レンズを採用したアポズミクロンは、ボケ質をチェックする必要がありそう。
・逆に通常の球面レンズのみで構成された1万円のレンズは、色収差やフレア・ゴーストがどれ位出るか。
これらに気を付け、比較していきます。
まずは平面の被写体を狙いました。解り易い違いが見て取れます。
アポズミクロンf2のカット
比較レンズf2のカット
比較レンズは樽型の歪曲収差が見て取れ、上段の缶にパープルフリンジが発生。
更に中央以外の解像度は大きく下がってしまいました。
ですがこのカットで一番見ていただきたいのは、棚板を固定するための金色の穴レールです。(最上段の両脇にあります)
アポズミクロンは、どちらのレールが奥にあるのか“解る”のです。これぞ、高性能レンズの証。
僅かに被写界深度を外れた「ボケはじめ」の部分も、滑らかな描写です!
アポズミクロンf2のカット
比較レンズf2のカット
比較レンズ周辺部のハイライトにパープルフリンジが発生。光源付近を優しく覆う滲みと相まって、オールドレンズの様な美しい描写になりました。これは美味しいポイントです。
対するアポズミクロンは相変わらず「建物や柱など、それぞれのパーツを切り離して描写する」達人で、何が起こっても涼しい顔。いえ、「何も起こらない」と書くべきでしょうか。
この2枚をダウンロードいただき、お手持ちのソフトで何EVか持ち上げると…?
驚愕の新たな事実が解るかと思います。
ラストはこちらの写真で比較します。
アポズミクロンf2のカット
比較レンズf2のカット
周辺光量に違いが見て取れますが、両者ともシャッタースピードや絞り、ISOは合わせてあります。
さて、壁面の細かな模様をどれだけ描けるかといった所では勿論アポズミクロンがリードしていますが…。
面白いのは道路標識に貼ってある青丸シールです。アポズミクロンはあまり拡大しなくとも「紙のシール」と解ります。更に標識を保持しているアームパーツが、「触ったら冷たそう」だと感じさせるほど金属そのものとして描写できている。
比較レンズは相当拡大しないと「インクを流し込んであるのか、それとも何かを貼り付けたものなのか」解りません。アームパーツも「金属だろう」という程度の質感描写です。
・・・
ここまで比較してきて、非常に興味深いデータが取れました。
最後に総括を行います。
まずアポズミクロンは
・「空間丸ごと持って帰れる」程描写性能の良いレンズ。
・「シャープネス」で「線」を描くのではなく、「圧倒的なディテール量で物体と物体の間にある境界」を描いているかのような画。
・色収差は見つけられない。
・被写体ごとの微妙な色の描き分けが非常に上手い。
・立体感・空気感がものすごい。
・四隅まで均一な描写
・暗部のディテールが豊富に残るため、後から持ち上げても情報が引き出せる
・マニュアルフォーカスレンズなので、「真なる意味でのピントピーク」にピントを合わせることが難しい。LVで10倍に拡大しても、フォーカスリングを0.3ミリ動かせばピント位置が変わってしまう。究極のピント位置を追い込むには熟練と視力が必要
比較のレンズは
・f5.6まで絞れば、アポズミクロンとの違いがほぼ解らない程よく写る。
・信頼のおけるAF。条件にもよるが、「基本的には」真なる意味でのピントピークにピントがあう。
・絞り開放付近では周辺が滲み、夜間はその影響が大きくなる。使い方でオールドレンズのように遊べる。
・価格を考えると信じられない描写力の高さ。
・このレンズと同じメーカーのボディーを利用すれば、各種自動補正が使える
やはりそれぞれに長所があり、簡単には「こちらがおすすめです!」と言えそうにありません。
これこそがレンズの面白さ。レンズの業。
そんなことを考えながら、今日もつぶやく言葉は同じです。
「60回まで、無金利か…」