例年なら既に秋…とは思えぬ残暑もまだ衰えない天候です。
今回はこんなカメラを待っていた方も多いはず、Leica Q3 43。
レンズ固定式のカメラといえば今までは交換式よりもセンサーが小さかったり、
搭載レンズもズームレンズが多く、昔は「交換式には一歩劣る」というイメージが強かったのではないでしょうか。
フィルム機はまた別の話とはなりますが、デジタル時代のレンズ固定式カメラは上記の印象を抱いていた方も恐らく少なくはないでしょう。
そんな中でフルサイズセンサー、そして28mmレンズを搭載したライカQ(Typ116)が発売されました。
コンパクト…とは言い難いような大きさではあるものの、今までのライカには無いオートフォーカスやマクロ撮影機能等を
盛り込んだことで大ヒットしたボディです。このQ(Typ116)からライカを始めたという方も多いかもしれません。
似たような性質のボディといえばSONY RX1シリーズも同様にフルサイズセンサーを搭載したレンズ固定式カメラとして、
多くのユーザーに受け入れられました。こちらは35mmのCarlZeiss Sonnarが搭載。「ZeissかLeicaか?」と迷う方も多かったと
思います。ローパスフィルター搭載のRX1、ローパスレスモデルのRX1Rと2つの選択肢があった事も話題でした。
しかし気が付くとレンズ固定式のカメラ、いわゆる“コンデジ”といわれるような、お手軽なモデル自体が次第に姿を消していきます。
レンズ交換式カメラの市場も幅広くなった為かスマホの高画質化によるものか、少しずつ縮小していき気が付くと本当に限られたモデルしか見かけなくなってしまいました。
その中でもAPS-Cセンサーを搭載したFUJIFILM X100シリーズやRICOH GRシリーズ等は淘汰の時代を生き残り、SONY RX100シリーズも
稀有なズームレンズ搭載のコンパクトカメラとして未だに強い人気を獲得しています。ライカも反響に応えてQ2,Q3やD-LUX8を発売。
今の時代ではむしろコンパクトカメラやレンズ固定式カメラが歓迎され、探している方も多くご来店されます。
今回のQ3 43、ベースはLeica Qシリーズの3世代目に当たるQ3。
実はズームレンズ式以外のコンパクトカメラは大体が28mm相当か35mm相当である事が多く、フィルム機でも同様の傾向がありました。
その中でもこのQ3 43は焦点距離43mmのアポズミクロンが搭載されているというもの。43mm?不思議な焦点距離です。
実はこの数字、フィルム面の対角線の長さと合致しています。Leicaは初期に試作品のレンズを42mmとしていた時もあったり、
現代ではPENTAXが同じようにFA43mm F1.9というレンズを発売しています。
フィルム対角線長=焦点距離である事から43mmを「真の標準レンズ」と呼ぶ人も。現代では40mmがスタンダードになりつつあり、この焦点距離に抵抗を抱く方も少なくなりました。
本題に戻しましょう、このQ3 43は固定式レンズ搭載カメラでも珍しい標準域のレンズが搭載されているという事が大きな特徴です。
RICOH GR IIIxも40mmレンズを搭載していますが、Q3 43はセンサーが6000万画素のフルサイズセンサーとなるとそもそもの立ち位置が異なります。
しかも電子ビューファインダーも搭載されている事で、「構えて撮影する」事がメインに想定されています。
レンズのAPO-SUMMICRON 43mm F2 ASPH.はこのボディの為に専用に設計されたモデル。
交換式よりも固定式としてセンサーに合わせて最適化されたこのレンズは、近年のLeicaレンズでも白眉の描写力と言っても過言ではありません。
個人的には現行ライカレンズの中でもトップではないかと感じました。私の中で不動の1位であったアポズミクロン M50mm F2 ASPH.も優しいのではないかと思うほどに今回の43mmレンズは正確無比な写りをします。
MTF曲線も開放からF2.8の曲線を見てもかなり補正されている事が分かります。
歴代アポズミクロン50mmのMTFも参考までにこちらに掲示してみましょう!
これはM型でも恐らくトップの性能を持つアポズミクロンM50mm F2 ASPH.のもの。性能だけでは語れない部分もあれど、
初代Mモノクロームとマッチするように作られたこのレンズは既に10年の時が経過しています。
しかしその写りは現行機にもしっかり追従している程に優れた設計の1本。Mレンズ不動の帝王として未だに健在です。
掲載の形式が異なるので無限遠側でのF2での曲線になりますが、アポズミクロンSL50mm F2 ASPH.のMTF。
こちらも非常に優秀なレンズ。ピント部分のタイトさはQ3 43のアポズミクロンと少し似た傾向かもしれません。
比べるだけでもQ3 43のアポズミクロン43mmはかなりの性能だとこれだけでも分かります。
近接域、開放での撮影です。今回ほぼ開放撮影でJPEGそのまま。Leica Look「Leica Chrome」で撮影しています。
このLeica Chromeが見事。昨今のLeicaの画はややコントラストと彩度が高い傾向でした。しかしこのモードを使用すると
上手く抑え込んでおり、多くの人が見て非常に受け入れやすい画です。
これで開放のF2とは本当に恐れ入ってしまう程。従来のライカレンズの場合、開放で撮影をすると周辺が若干落ちる特徴が
多く見られました。しかしQ3 43はどうでしょう。レンズ固定式という構造を活かして最適化されている事が理解できます。
線もしっかりと真っすぐ伸びており、撮影していて本当に気持ちの良い画が簡単に表れてしまうのです!
中央の花にピントを置いています。近接ではボケは少し目立ちますが、少し距離を離すとそこまでボケ味は大きくありません。
しかし拡大してよく見てみると、しっかりピント部分とアウトフォーカス部分はハッキリ分かれています。
質感描写も非常に良く、微細な質感の変化を冷酷な程に写し取られています。
階調もLeica Chromeの影響なのか非常に素直な表現です。このような場面の場合、従来ではコントラストが高くなり
シャドーかハイライトの強調が強くなりがちなところを非常にニュートラルに見せています。
中判や大判フィルムの写りも思えば非常に素直で見たままの空間を撮影できていました。
海外の写真家が撮影する写真でも最近は大判フィルム等で撮影されたニュートラルな写りの作品が多く、時代を反映した味付けなのかもしれません。
何と言ってもQ3 43のもう一つの魅力は、クロップ撮影の幅の広さも大切なポイント。
上記2枚はクロップして撮影したものです。Q3 43は43→60→75→90→120→150mmと望遠側へ大幅にクロップできます。
クロップをすればするほど比例して画素数も小さくなる為、ケースバイケースにはなりますが、SNSへアップロードする位の場合は
150mmも十分に許容範囲と思えそうです。実際にクロップしてみました。
↑こちらは43mm(6000万画素)そのままでの撮影。
↑60mm(3000万画素)にクロップしました。まだまだこの位なら問題はありません。
↑75mm(2000万画素)にクロップ。こちらもまだまだ問題ありません。
↑続いて90mm(1370万画素)にクロップ。プリントを前提とするならここまでが許容範囲かもしれません。
↑120mm(770万画素)にクロップ。このままパッと見では問題無いものの、少し拡大するとやはり限界があります。
↑最大値の150mm(500万画素)にクロップ。こちらもこのまま見る分には問題はありません。
120mm同様に少し拡大するとやはり限界はあります。
但しこのblogでこのようにして見るだけなら、気にならないという方も少なくないかもしれません。
それほど良くチューニングされた画づくりだと感心させられます。
ライカの写りで特徴的なものと言えばやはり「赤」ではないでしょうか。
最近は各社モデルの赤も大分改善はされてきました。その中でもライカの赤は見たままの忠実なものに近い写りです。
この色に惹かれる方もやはり多いはず。特にアンダーに補正した時の発色はやはりライカならではの気配を感じる事ができます。
Q3から背面液晶がチルト式になった事から、ウエストレベルで感覚的に撮影する事も可能です。
アイレベルで撮影するだけではなく、より低いアングルや上から見下ろすように撮影したりできる事は特に
このQ3 43では大きいようにも見えます。2枚目は少しトーンカーブを調整しましたが、少しシネマティックな写りにも見えます。
手ブレ補正もしっかり機能する事で、露出補正と併用すれば感度はそこまで上げずに夜も快適に撮影ができます。
今回使ったのは最大でもISO800程度まで。M11やSL3も同様に高画素センサー故、あまり高くしすぎるとやはり限界を感じます。
しっかり気合いを入れて撮影すれば、ナイトスナップも心配する程ではありませんでした。
使っていてもう一つ気になった部分、それは緊張感です。レンズ性能の高さから些細なバランスを崩すと途端に気になり、
水平や垂直などを撮影していると非常に気になり始めていました。僅かでもズレるとそのズレが凄く目立ってしまうのです。
何気ない風景を撮影しようとQ3 43で覗くと、あまりにも”明確に写されている”為に1枚1枚の撮影に気を遣っていました。
とはいえ少しでも気を抜くとやはり気になります…。ここまで写ると三脚を据えて大判カメラのように向き合いたくもなります。
クロップ比較の際に撮影していた画像も、上の画像もなんとF2。開放で撮影をしたものです。展望台からガラス1枚を挟んでいるにも
関わらず、ここまで解像力が高いのは画像を見て本当に驚きました。拡大していくと、やはりエッジの強調はやや強め。
オリジナルのQ3も若干エッジに関しては強調感は見られたものの、今回のQ3 43はそれよりもやや強めです。しかし全体として見れば
そこまで違和感を感じないものなのであまり気にする必要はありません。
ポートレートに最適な画角とも言えるこの43mm、但しレンズの解像力があまりにも高い事から撮り方には工夫が必要な場面も。
M型やSLのアポズミクロンも同様の傾向になりますが、撮ったままだと全体的に画がシリアスになりがちです。
ドキュメント撮影やスナップ写真、風景撮影には非常に最適な一方で、人物を撮影するとちょっと暗めの印象を与えます。
今回のLeica Lookを使用するなり現像なりでここは撮影者自身の方程式を使いながら答えを導く必要があるかと思います。
恐らく既にご存知の方も多いはず…このQ3 43、フィルターとフードの併用が基本困難な仕様です。フードとレンズの隙間が非常に
狭く、今回は従来のQシリーズとは違いフレアカッターが導入された都合もありフードの仕様が異なっています。
試しにQ3の付属フードを装着したところ、ネジ切りの位置が違うようで…装着したらフードが縦になってしまいました…
但し条件付きで使用可能なのは恐らくB+W T-PRO UV MRC nano 49mmかU.N eins SUPER PROTECT FILTER 49mmの2種類。
この条件は「マクロモードに切り替えない」状態であれば装着して付属フードと併用が可能です。
分かりにくい画像で申し訳ありません…。MACROに切り替えるとレンズが繰り出し、ただでさえ僅かな隙間がほぼ無くなります。
これによりフィルターと付属フードが干渉し、マクロモードでは併用できるフィルターが現存していない状況。
お問い合わせも頂く事も度々あるものの、先述した条件付きで併用が可能という事だけが判明しています。
ここだけはもう少しゆとりを持って設計してほしかった…と思うのも使用して見ると感じる部分です。
但し付属のものではなく、フードを外して使用する場合や別売の大型フードであればこの問題は発生しません。
大型フードを仕様すると、今度は付属のキャップが付かなくなりますが、フード先端部分にE67のキャップが付きますので、是非合わせてご使用ください。
Q3と比べ若干重量もアップ。Q3は741g、43は794gと約50g重くなっています。
今回撮影時にハンドグリップを装着したところ、少し大柄にはなるものの結構「しっくり来る」感触です。
写りも妥協のないこのボディにはハンドグリップは必要なのかもしれません。撮影していてグリップに少し力が入る場面もありました。
使用した結論としては「欲しい!」の一言。
ここまで妥協のない写りと、持ち運びのしやすいサイズを実現したカメラも本当に珍しい。
画角もやはり使いやすく、気軽でありながらも「撮影に向き合う」というライカの伝統的な姿勢がしっかりと表現されています。
手ブレ補正や高感度等も進化はしているけれど、このカメラは撮影者の襟を正すような威厳を持っており
シャッターを切る直前まで「本当にそれで良いのか?」と問いかけてくるようにも感じます。
ここまで撮影者に対峙するカメラも今では本当に少なくなりました。
個人的にはやはり三脚でじっくり据えて撮りたくなるカメラです。
しかし値段が…!と思う方も勿論多いはず。筆者も使うまではやや疑心暗鬼な所もありましたが、Q3の手軽さとはまるで違うフォーミュラマシンのような1台。
恐らくこのレンズの写りはQ3 43という固定式レンズだからこそ生まれ得た性能と言っても過言ではないでしょう。
そろそろ冬のボーナスも控えています。ここは是非思い切って!オーダーしてみるのも
新たな写真体験に出会う旅行代と思えばその一線は越えられるかと思います。
是非このQ3 43を貴方の手に。
MACRO切替をしない状態であれば、下記フィルター2点が併用可能です。
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