【Leica】マップカメラが選ぶライカレンズ10 ~Leica Thambar 90mm F2.2~
2023年2月20日、Leica Boutique MapCamera Shinjuku は10周年を迎えます。
マップカメラのブログサイトであるTHE MAP TIMESでは、よりライカの世界を楽しんでいただけますよう、専門店スタッフによる関連記事や動画コンテンツを順次掲載してまいります。ぜひお楽しみください。
今回ご紹介するのは「Leica タンバール 90mm F2.2」です。
今から約90年前、1935年にタンバールは生まれました。
ピント面も、その前も後ろも、光が溶けるというより紙にインクを垂らしたような広がりを感じさせる描写が特徴です。
もし、「見たまま、パリッと正しく写る」そんなレンズが正義であるとすれば真逆を行く存在。写真が盛り上がり始めた当時を想像すると、もっと綺麗に写せ、もっと明るく写せ、もっと鮮やかに写せ、そんな声が聞こえてきそうな気もしますが、当時のレンズに対する探究心はちっぽけな私の遥かその先。
高画質競争の中では、こんなもの見つけられようはずがありません。
タンバールのソフト効果は球面収差の補正を過剰に行うことで実現しています。
ピント面の描写は輪郭を保ったまま外縁が広く滲み、前ボケはそれ以上、後ボケに関しては過剰補正の結果強い輪郭を伴った個性的な表現を生み出しています。
また、専用のスポットフィルターでレンズ中心を通る光をカットし、よりソフト効果の強い撮影が可能。
今回掲載する写真の多くはフィルター付き、開放での撮影が多いので個性を存分にお楽しみください。
また、このレンズを語る上で欠かせない存在が2017年に発表された復刻版タンバールの存在です。
既に販売を終了していますが、ズマロン28mmF5.6に続く2本目の復刻となるMマウントタンバールは衝撃と共に迎えられました。
描写はオリジナルに近いのですが、高級感を感じる重厚な鏡胴はまた別物としての所有欲を掻き立てる佇まい。
以前M10モノクロームで撮影した写真がいくつかありますのでご覧ください。
その時のブログリンクも記載しておきます。
『【Leica】The World of Monochrome Ep. VI』
Leica M10 monochrom + Thambar M90mm F2.2
今回のブログのために撮影した写真につきましては、全てオリジナルLマウントのレンズを使用しました。
近頃はなかなか撮影の機会がなく、どんな写りで表現されるのか想像を働かせるばかりでしたが、改めてオリジナルを使うと、
ソフト効果の中に思いの外くっきりと残る被写体の存在感や、色の不自然さを感じないことに驚きます。
フィルムで使用することを想定されていたはずですが、センサーで写すカラー写真でもその意図を崩さずに使用可能でした。
ここでレンズの外観にも目を向けてみます。
タンバールならではの特徴として挙げられる専用フィルターですが、真鍮枠にブラックペイントが施されておりなかなか所有欲をくすぐる逸品。
このフィルターが無かったとしても充分なソフト効果は得られるので付けずに撮影する機会も少なくないと想像します。
しかし、あるのとないのとでは大違い。ぜひお求めの際はこのフィルターが欠品していないかお確かめください。
真正面から覗くとまるで澄んだ目のように人を惹きつける力があるような、ないような。
専用フィルターを装着すればその写りに興味を持たざるを得ません。
鏡胴も艶のあるブラック仕上げ。
絞り指標の赤い文字がなんとも見た目にもよく映えます。
ちなみに赤い方がスポットフィルター装着時の数値。
F8あたりから写り込んでしまうので装着しての撮影は開放からF6.3の間を目安に使用する必要があります。
M型ボディから伸びる長細いレンズは一見アンバランスになるかと思われましたが、実際は雰囲気の統一感に気圧されます。
このレンズ、このボディに限らず、様々な組み合わせを違和感なく使えるのもライカの魅力。
撮影地はかつて復刻版とモノクロームを持って赴いた同じ町。
あの光景が焼き付いているので、ぼんやりとイメージを持って臨むことが出来ました。
また、今回はボディにM11を採用。
いい意味でやや粉っぽいセンサーの特性をレンズが上手くキャンバスとして扱っているように思います。
昨年はM11と復刻タンバールで撮影もしておりますのでこの機会に併せてどうぞ。
『【Leica】Mを愉しむ ~M11でレンズを愉しむ~#3 Thambar M90mm F2.2』
Leica M11 + Thambar M90mm F2.2
当然のことながら、このレンズは光が多ければ多いほどより印象的な写真を生みます。
またその反面、光が少ない場面ではその僅かな光を際立たせ押し上げるような特性もあるように感じます。
被写体と空間とを隔てる線を曖昧にしているのではなく、光が線を越えて広がっているという認識です。
ただ結像していないが故にボヤっと見える、そういう表現ではありません。
これに魅入られてしまうと替えが効かないのでお気を付けください。
最後はモノクロに切り替えて数枚撮影。
以前この街でモノクロタンバールは撮り終えた筈なのですが、どうにも耐えられませんでした。
やはりこのレンズ、光を楽しむには一級品でありまして、色を排除すると味わいはまたまた数段、ご覧の通り。
たとえば、豆の味をよく感じるためにブラックを啜る、みたいなことになるでしょうか。
このストレートに煙たい苦みはミルクも砂糖も無しで味わうべきかもしれません。
気温も大分下がってきました。
素敵なカフェで、待ちわびたケニアとコスタリカを購入。
帰路につきます。
普段使いにどうぞとは正直言い難いですが、持っておきたいレンズです。
分かりやすく「これでしか撮れない」を感じることが出来ますし、「これで撮りたい」をもらえるレンズでもあります。
初めて触れてもう何年。
波はあれど常に必ず囁きかけてくる存在です。
是非、機を逃さぬよう。