“ライカMマウント”の“明るい”そして“50mm”である「ズミルックス50mmF1.4」は、数あるMマウントレンズの中でも特に汎用性が高く、かつ表現力に富んだ至高のラインナップ。『貴婦人』の異名を持つ第一世代の誕生から、約65年の時を経て生まれた記憶に新しい第五世代まで。たった5世代、されど5世代。明るさの代償とも言える描写の味わいと、金字塔50mmレンズに課せられた進化への期待によって各世代には個性が溢れ、選ぶものを惑わせます。
今回はそんな気になる5本を撮り比べ。
生産本数や市場の流通量の影響でなかなか前世代が揃うことは多くありませんが、今回は機会に恵まれた為徹底的に検証してきました。
レンズ選び、ズミルックス選びの参考になれば幸いです。
・5枚組の写真は全て、上から下へ順番に新しくなるようになっています。
・今回使用したレンズは古い順に「1st」「2nd」「3rd」「4th」「5th」と記載します。
・使用したカメラはLeica M10-Pです。レンズプロファイルオフ、絞り開放で行いました。
まずは比較できる最短焦点距離である1mから。
1stのにじみは言わずもがなですが、4thからぐっとコントラストが上がる感じも容易に見て取れます。
続いてはズミルックス50の一番旨味を感じると思っている中距離、およそ3m。
背景のボケ方で顕著に差を感じる事ができます。
校庭を思い出すバックネット裏。
前ボケの中のフェンスを良く見比べると、特に3rdで大きく樽状に歪んでいる事が分かるかと思います。
これは必ずしも悪影響ではなく、むしろ中心部を引き立たせる効果。印象的なポートレートなどにはうってつけ。
そして遠景、ほぼ無限遠まで回し切りました。
やはり4thあたりからしっかりと引き締まるような印象。
また、意外なことに手前にかかる前ボケの木々は4th,5thよりも3rdが健闘しています。
気になる逆光耐性の比較。
画角に光源を入れた構図でこそあれどの世代もなかなか耐えます。
この比較に限って言えば2ndが魅力的。よく見ると発生しているゴーストが憎い演出。
最短1mのボケ方にも注目。
どのレンズもそれぞれ個性があり、特に悩みそうなチェック項目であることは言うまでもありません。
1stのオールドレンズらしい滲みや歪みも、そして5thの端正なまとまりも、非常に心地よく表現されています。
硬質な表現では2nd以降ほぼ安定して描写が可能です。
つまりそれだけ古い時代から底力があったラインナップと言えるでしょう。
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今回ご用意した撮り比べはここまで。
1stと2nd辺りまでは経過している時間も長いうえ、製造時期の差によってマイナーチェンジが行われている可能性もあり、一概に「この世代は全てこの写り」であると断言できるものではありませんが、あくまで各世代の傾向をお伝えすることはできたかと思います。
特に1stと2ndの差、また3rdと4thの差は顕著で、前者は技術進化の加速度が大きいこと、後者は非球面レンズの採用の影響が強いのではないかと予想しました。
年を経るごとに、世代を経るごとに、所謂オールドレンズ的な写りだったものが人が目で見る世界に近づいてきたたかと思えば、近年ではもう追い越さんばかり。ただ、どの世代のレンズにも間違いなく誰かを魅了する個性が備わっているラインナップだとお伝えできていれば幸いです。
まさにオールドレンズ、という雰囲気が欲しい方には1st「貴婦人」を。
1stだと必要以上にハイライトが滲んでしまって使いづらい、でも雰囲気は残したい、と言う方には2nd。
背景のゆがむようなボケと最短焦点距離0.7mが欲しい方には3rd。
間違いなくはっきりとした精密描写が欲しい、かつレンズが細い方が好み、という方には4th。
そして最高描写と0.45mの最短焦点距離を贅沢に味わうのなら最新型、5th一択という選択肢になります。
個人的な好みで言うと2ndか3rdを選ぶでしょうか。
まさに上述したような背景のボケ感が素敵であることと、特に2ndでは逆光時にうっすらフレア、ゴーストが出ることが魅力的です。
また、古いラインナップの中では「ブラックペイント」また「逆ローレット」と呼ばれるものや「金目レンズ」と呼ばれるコーティングのレンズもごくわずかに流通しており、このほかにも貴重な少数生産ロットを挙げればキリがありません。もちろんそれらも“気になる”のがカメラ好き、レンズ好きの性というもの。今後検証の機会があれば改めてお伝えできればと思います。
それでは今回も最後に何枚か写真を掲載します。
ぜひそれぞれの写真がどの世代のレンズで撮られたものか予想しながらお楽しみください。
上から順番に3rd、2nd、3rd、4th、1st、5thでした。
次回もお楽しみに。
NDフィルター、あった方がいいです。特にM10以前のシリーズをお使いの方へ。