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【Leica】Come Waltz With Me~貴婦人とワルツを~

2025年の3月初頭に発売されたズミルックス M50mm F1.4 11714。
こちらのベースは2世代目と呼ばれるモデルに当たります。今回はそのベースレンズの更に1世代遡り、
初代ズミルックス M50mm F1.4、通称”貴婦人”と呼称されるモデルにスポットを当ててみました。

この”貴婦人”と呼ばれる所以をご存知でしょうか。実は鏡胴の仕上げの良さから呼ばれる様になった愛称です。
細かいローレットの刻みは工芸品と言ってもよい程で、最近話題のSIGMA BFとも通じる部分があると感じています。
最短撮影距離は1m。少し遠いのが好みの分かれるところ。

1stモデルは2種類。「ピントリングのギザの位置が山側にあるか谷側にあるか」で大きく分かれます。本来は谷側にギザがあるものは一般的な1st。山側にあるのは極初期に作られた逆ローレットという名称で呼ばれています。
今回使用したモデルは通常の1stモデル。柔らかさは逆ローレットが上とも言われますが、こちらの1stモデルも非常に軟玉です。
実は後期型も最初は1stとほぼ同じ形をしておりシリアルナンバーで見分けられます。1844001以降であれば後期、それ以前であれば
1stモデルと覚えていただければ簡単です。

開放の近接域での撮影。ご覧の通り非常に柔らかくもピントの芯はしっかりと残っています。
使用したボディはM11-Pという事もあり、高解像の後押しもあるのでしょう。描写のバランスは絶妙と言っても過言ではありません。
但し撮影条件によって、この性質が悪い方向にも回ってくることがあります。それも楽しんで付き合う事こそ貴婦人と踊る為に
必要な資質と呼んでも良いかもしれません。

光の環境によって、このレンズは非常に良い塩梅で写ってくれることもあれば却ってレンズの性質が
撮影者の意図と外れることがしばしばあります。例えばこのように一見滲みのある柔らかい描写ですが、
「ピントの部分をしっかり魅せたい」という意図とは反した写りになります。雰囲気としては満点ではあるものの
レンズの描く雰囲気と自分の個性にどう折り合いをつけていくか…という部分が重要なポイントになってくるのです。

F4まで絞ると上記の画像のように、しっかりした写りです。かといって解像感を強調するのではなく、素直な立体感を生み出します。
1stズミルックス50の写りの真骨頂は開放よりも実はこのF4から5.6辺りにあるのではないかというのが私なりの考えです。
オールドな雰囲気を味わうなら開放を、自身の撮影意図と絞りを適宜調節しながら探り合っていくのです。
そういった意味ではライカレンズはどのレンズも実は同じような探り合いをすることが大切になってきます。

こちらも少し絞っています。M11-Pのセンサーとの相乗効果でレンズの柔らかさによる情報量の低下を上手く補っています。
普段は私も絞って撮影する事が多く、あまりF1.4という開放値はそこまで使用しません。それでもたまにはちょっと「味変」を
する為にこのレンズの効果を利用することがあります。例えば人物撮影に於いて、優しさや暖かさといった雰囲気を添える為に
開放値を敢えて使用するという事も勿論あるのです。

ポートレートのような構図での撮影。雰囲気という部分では非常に開放撮影による効果が発揮されています。
これがファッション撮影になると服の情報量が低下する事から好ましくはありません。
しかし写っている人物を魅せるのであるなら、その人の雰囲気とマッチすればしっかり引き出してくれるとも言えます。
いわゆる職業的な写真ではNGであっても、作家的な写真と見るなら正解にする事もできそうです。

敢えて開放で撮影してみました。滲みと共に現れる湿度を感じる写り。所謂”貴婦人”の描写が人気である理由です。
ズマリットから改善され作られた本レンズ、先代程の開放の暴れっぷりは潜めたものの撮影条件によってはその顔が少し現れてきます。
撮影意図+レンズの性格+撮影条件が上手く重なった写真を撮れるとこれほどに快感にもなるレンズはやはり珍しいものです。
ズマールやズマリットはやや極端な性格に付き合う事になりますが、この貴婦人ことズミルックスM50mm F1.4初期型はそこまで
極端ではなく非常に良くまとまっています。ライカレンズ自体が全体的に上品に写るのはやはり特徴とも言えます。

光の方向によってこのようにゴーストもやはり発生します。先代ズマリットよりは比較的発生は抑えられているものの、
こちらも意図を持って発生させるのか否かで使いやすさの印象も変わるのではないでしょうか。
意外と自発的に発生させようと思うと角度に苦労します。こちらもライブビューで発生する角度を確認してから撮影。
そういった意味では年代を考えるとよく抑えている印象です。

画像の様に明暗が極端に重なった場所になると、先述したようにレンズの性質が裏目に出ることがあります。。
滲みやハロが発生する事で白飛びしてしまう箇所がどうしても出てしまい、フィルムであればまだ助けられるのですが…
デジタルともなるとハイライトが飛んでしまうとどうにも難しいところです。
測光モードを切り替えたりしてこの性質と上手く付き合っていく必要もあり、試していく過程から発見できる事が
この貴婦人と付き合う面白さの1つ。測光モード1つで実は写り方も大きく変わってきます。

こちらも開放F1.4、ほぼ最短での撮影です。
やはりこちらもレンズの性質からハイライトが本当に飛んでいるかいないかギリギリのライン。
測光モードはハイライト重点測光に切り替えています。これはM11シリーズのファームウェアのアップデートで実装された機能。
もしM11で撮影していて「白飛び多いなあ…」とお困りの場合はこのモードを使用してみるとなんとか耐えられることがあります。
是非挑戦してみてください!

開放F1.4。近接約1mで撮影しました。ズミルックス M50mm F1.4初期型の性格を理解するにはとても分かりやすいと思います。
ボケのクセや滲み方、やはり上品な写りは花を撮影する場合に雰囲気を添えることで独特な魅力を引き出してくれます。
写す物によっては妖艶さを引き出すこともあり、使えば使うほどに描写の変化を楽しめます。

M11-Pのデジタルズーム1.8倍を使用しました。高解像度の恩恵というのは大きく、疑似望遠として利用するならこのように
近接撮影の延長としても利用可能です。ボケ味は50mmのままとはいえ、近接でF1.4という開放値は私たちが考えているよりも
ボケ味としてはやはり大きめです。球面レンズ故の歪みもクロップする事で少し引いて撮影する等で対策をすれば人物撮影にも
少しは対応する事ができます。クロップズームは抵抗のある方もいらっしゃるかもしれませんが、使える機能はしっかり使ってあげると
撮影の幅も広がり今まで撮影できなかったような写真が撮影できるチャンスに出会う確率もやはり大きくなるものです。

2枚とも開放での撮影。光と影の状況に非常に敏感なレンズでもあり、微細な雰囲気をしっかりと掬い上げてくれます。
光の強い部分に滲みが発生しやすいのもこの貴婦人の特徴です。撮影していた日は快晴でISO64まで感度を下げてもF1.4では
電子シャッターに切り替わる場面もやはり多々あります。今回はそこまで激しく速い動きのものを撮影していない事から
電子シャッターでも問題なく撮影する事ができました。デジタルならではの利点がここでも大きく活きています。
フィルムになるとISO20(!)といった超低感度フィルムでなければ、なかなか大口径レンズの開放撮影というのは難しいものでした。
しかしデジタルでは簡単に撮影する事が可能です。

F1.4で撮影。

F4で撮影。印象が大分変化しています。同じ場面でも開放値によって大きく写真が変わるのです。
どちらが良いかというよりはどちらが好みか…という選択基準にはなりますが、私達が撮影するに当たって
「どのような意図で撮影をするか」によって基準が大きく変わるはずです。この場合は全体を魅せたいという意図があり、
F4で撮影したものがイメージに非常に近い写りです。

1つの対象を印象的に魅せるように撮影すると、貴婦人の機嫌がなんだか良く見えてきます。
使ってみると人物撮影等、1つの対象と向き合う写真を得意とするレンズです。ドキュメンタリー的な重い写真というよりは
芸術写真の域に近い考え方を持っている性質。「ズミクロンかズミルックスか」は初めにライカレンズを買う時に出会う大きな壁の1つ。
店頭でもご相談を受ける事が多い悩みでもあります。ドキュメンタリー的な重厚さを引き出すにはズミクロン、柔らかさや繊細さを
引き出すならズミルックスと覚えていただけるとレンズ選びの大きな指標となってくれる事でしょう。

実は世代問わずこの考え方はあまり大きく変化はしていません。アポズミクロンの登場でその考えが変化したのかといえば、
アポズミクロンは開放撮影の安定性を重視した造りである事からまた別の存在とも言えます。

撮影後にグレースケール化し、モノクロに仕上げてみました。
雰囲気という考え方では非常に上手く行っています。実は私もこのレンズを使う時はカラーよりもモノクロでの撮影が多く、
M11モノクロームやMモノクローム[Typ246]といったモデルとは非常に理想的な組み合わせとも考えています。
光と影に敏感なモノクローム撮影と光と影を微細に描くズミルックスM50mm F1.4初期型は正にベストパートナー。

先程開放で撮影したデータもこのようにモノクロに変化させるとまた印象が変化しました。
こちらもまた雰囲気という部分ではレンズの効果が発揮しているのではないでしょうか。1本のレンズの撮影でカメレオンのように
様々な表情を見せる貴婦人はさながら俳優のような存在です。私達撮影者の意図がしっかり伝われば、場面や気持ちに応じた演技を
しっかりと魅せてくれる…実は私の一番好きなライカレンズがこのズミルックスM50mm F1.4初期型だったりします。

反面この貴婦人が最も不得意とするのはこのような遠景の撮影です。
これはズミルックスに限った事ではなく、少し前までの大口径レンズ全てに言えることで近年のレンズは大幅に改善されました。
もはやここまで来ると何が映っているのかよく分からず「雰囲気を力押しした写真」と言えます。
絵画的と捉える事も勿論できますが、なかなかこの性格を上手く使用するのは熟練が必要とも言えるでしょう。
貴婦人の機嫌を損ねないように、長い付き合いと共に挑戦していく必要が感じられます。

「レンズの持つ性質を考えた上で撮影する」50mmレンズの奥深さというのはまさに上記の一言が全てです。
標準レンズという存在はカメラレンズの中でも恐らく最も多い焦点距離なのではないでしょうか(違っていたらごめんなさい)。
その点、レンズの個性も非常に様々でどれが自分に合う50mmレンズなのか?という悩みもやはり尽きないものです。
その代わり個性を使い分ける事で同じ焦点距離でも様々な表情に出会うことができるのも50mmが持つ魔性の部分。

その中でもこのズミルックスM50mm F1.4初期型である貴婦人は、上品さと少し茶目っ気を持った往年の俳優のような存在です。
オールドレンズの中でも極端さは少し控え目でバランスを持った入門レンズとしても最適な選択肢になってくれます。
あなたも是非、貴婦人と共に写真のワルツを楽しんでみましょう。使いこなせれば写真の考え方も大きく変えてくれます。



[ Category:Leica | 掲載日時:25年03月23日 19時30分 ]

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