【Leica】Leicaのある日常 #13
2022年も4分の1が過ぎ去りました。時の流れは早い、本当に。戻りつつある日常、突如不条理に失われる日常、これほどまでに『日常』の脆さを思い知らされるとは思いもしませんでした。写真を撮っていていいのだろうか、他に何かやるべきことがあるのではないか、そんな風に思い悩みながらも今目の前にある平和な『日常』を撮影することに決めました。ライカを手に、春の木漏れ日の中幸せを分けてもらいに公園へ。
・・・
公園へ向かう道すがら、入学式の準備が進む母校の正門前。紅白の垂れ幕、体育館のなかから聞こえるパイプ椅子を並べる音、そして散り始めた桜の花びら。今回撮影に使用したのは「Leica M9-P」と「Voigtlander Apo-Lanthar 50mm F2 Aspherical VM」です。コダック社製フルサイズCCDセンサーを搭載した「M9-P」は悩みに悩んで購入した筆者にとって初めてのM型ライカです。これまで計12回、様々なライカを使って本連載を執筆してきましたが購入したのは一度も触れたことのない「M9-P」。現行機種と比較するとかなり控え目な画素数、お世辞にも綺麗とは言えない液晶モニター、なにかあると直すことのできないCCDセンサー。それでも買いました、導かれるように。後押しとなった当社先輩社員の記事のリンクは下記の通り。是非一度ご覧ください。
既に11年前の機種となった「M9-P」ですが、妥協のないアポクロマート設計で各種収差を抑えた「Apo-Lanthar 50mm F2 Aspherical VM」との組み合わせは安定感抜群。1800万画素とは思えない精密な描写と独特の色でテンポ良く撮影は進みます。個人的にM10シリーズのあっさりとした現代的な色味は編集向き、コクのあるCCDセンサーの色味は撮って出し向きのように感じます。CMOSセンサーの豊かな階調とは趣が変わり白は白、黒は黒としっかり描き分ける印象。勿論本連載は全てJPEG撮って出しですのでご心配なく。
この日は「Leica ビューファインダーマグニファイヤーM 1.25x」装着しての撮影。元々のファインダー倍率が0.68である「M9-P」はこれで倍率0.85に。咄嗟に構えることが多いM型ライカはいかに早く正確に二重像を一致させるかがポイントになってくるわけですが、マグニファイヤーのおかげでこの日はピンボケがほとんどありませんでした。アクセサリーを使って自分だけの一台を作ることができるという点もM型ライカの大きな魅力です。このカットは公園に到着して1枚目、様々な色を余すことなく描くことができていると思います。周辺まで美しく、ボケも自然で非常に使い易い印象を受けた「Apo-Lanthar 50mm F2 Aspherical VM」、35mmも気になるところです。
相当厳しいシチュエーションで撮影していますがこれだけ写すことができています。拡大していただくとわかるように桜に集まる羽虫まで。本記事の写真は全て開放で撮影したものですが、開放でここまで写るのであれば文句のつけようがありません。ライカといえばアポズミクロンという究極のレンズが存在しますが、約10分の1の価格で購入することのできるアポランター、フォクトレンダーの技術の粋を集めた恐ろしいレンズです。
水鳥を写したなんでもない一枚ですが筆者がこの日最も興奮した一枚。「Kodak Ektachrome E100」を愛してやまない筆者にとって、この碧の深さと透明度は「M9-P」を選んだ理由そのもの。波紋の描き方や生い茂る水草の質感はレンズの力あってこそです。フィルムの価格高騰が続く中、強い味方を手に入れることができました。
このカットではありませんが、池の様子を撮影していたらボートに乗っていた女性二人がピースをしてくれました。これまで国内メーカーの大きな一眼レフを使っていた時にはなかった経験。威圧感がなくどこか親近感すら覚えるM型ライカのデザインは、ファインダーの中で人と人とを繋ぐ力があるのかもしれません。
・・・
今回はここまで。CCD礼賛のようになってしまいましたがこの撮れ高は間違いなくアポランターあってこそ。冒頭の話に少し戻りますが、毎日ニュースで流れてくる悲惨な映像や音声、暗く重い気持ちになっているのは筆者だけではないはずです。ベンチで談笑する人、ボートに乗って池を巡る人、一人で歩みを進める人。その一人ひとりにかけがえのない日常があり大切な人がいます。それは他人が奪っていいものではなく、まして理不尽に暴力によって壊していいものでは決してありません。何気ない会話や笑顔、かけがえのないものほど些細なものであると切に感じた一日、その一つ一つを丁寧に写していこうと思います。
バックナンバーはこちら。
・・・
M型ライカ最初の50mmに迷ったらコレ。間違いありません、良いですよ。
専用フードで描写性能だけでなく外観にもこだわってみませんか。
50mmを付けっぱなしという筆者には大変有難い存在、35mmのブライトフレームはファインダー一杯に広がります。
これぞコダック、やっぱりポジフィルムは最高です。いつ見てもあの時に戻ることができるのです。