【LEICA愛】 時を越えて
通常のボディには無い特殊な刻印が施され、コレクションの対象となっているライカが多く存在する。
軍用ライカを筆頭に、ライカ社内で使用されたボディ等々。
そのバリエーションは多岐に渡るが、
それらの刻印は、ライカ社において正式に打刻が為された物が殆ど。
だが、上述のような機械工作による刻印ではなく、
前所有者のイニシャルや、今となっては何を意味しているか判らない数字や文字の羅列等、
手書きで乱雑に彫られているようなライカを、一度は目にした事が無いだろうか?
例えば、アメリカで長年使用されていたような個体には、
個人のSocial Security Number・・・社会保障番号が平然と彫られていたりするのを良く見かける。
カメラが一生モノとして扱われていた証でもあるが、
同時にそれらは、落書きとみなされ、中古カメラとしての価値を下げてしまう。
しかし、見方を変えると、その個体が過ごしてきた時代を垣間見ることが出来る、貴重な手がかりとも言える。
今日ご紹介するのは、私が愛してやまない、そんなライカから一台。
一見して判るほどに使い込まれた状態のLeica M3。
貼り革は所々剥がれ落ち、歴戦の証ともいえるキズも多数。
出会いは、とある中古カメラ店のショーウィンドウだった。
84万台、1956年生まれのダブルストローク。
状態の悪さから、相場より遥かに低い価格が提示されていた。
目に留まったのは、トップカバー上部に小さく丁寧に彫刻されていた、
“Dagens Nyheter”という文字。
使い込まれたその外見から、
「もしかすると、誰か名の通った写真家の所有していたライカかもしれない」という好奇心が働いた。
店を出た後、刻印されていた文字の意味を調べてみると・・・
それはなんと、北欧はスウェーデンにある、新聞社の社名。
すぐに戻り、勢いに任せて購入してしまったのは言うまでもない。
“Dagens Nyheter”
読みはダーゲンス・ニュヘテル。
スウェーデン語で 「一日の知らせ」 という意味を持つ、
1864年より現在も続く、歴史あるスウェーデン最大の新聞社。
インターネットを駆使して調べをすすめるうち、
同様の書体で刻印が施された別のLeica M3や、
LeicaM2 & Leicavit MPを見つけることに成功。
そのどちらにも、上述の新聞社の所有物であった旨が記してあった。
私の手元にあるこのLeica M3も、新聞記者が使っていた可能性が高そうだ。
擦り切れて真鍮が覗くシャッターボタン周り。
すっかり広がってしまったストラップアイレットは、
長年に渡って数々の現場を記者と共に駆け回った事を想像させる。
巻き上げレバーもクロームメッキが落ち、ニッケルメッキが光り輝く。
シャッターダイヤルの根元に付いた傷跡で、
どのシャッタースピードを多用していたのかある程度想像できるのが面白い。
時代を捉えてきた眼。
写し撮られてきた“時”は、もしかすると、
地元のお祭りかもしれないし、遠く国外の紛争かもしれない。
スウェーデンから遠く離れた日本で私が巡り合ったM3は、
ライカというカメラが報道の第一線で活躍していた頃の、物言わぬ証人であった。
・・・
皆さんがお持ちのライカにも、不思議な手書きの刻印は無いだろうか?
(文責/写真:R.Hirokawa)
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