【Micro four Thirds】Temptation C-MOUNT LENSES
・「Temptation」—誘惑
我々の住まうこの世界には誘惑するモノが数多ありますが、
とりわけカメラやレンズといった類のものは、時として非常に強い魅力を持って深淵へといざないます。
それは例えば限定モデルであったり、生産本数の少ないモノであったりするのですが、
主観的には、「ヒトの持っているのとは、違うモノ」というのも、誘惑ポイントの一つだと考えています。
そして今回は、なかなか街中でヒトと被らない機材の提案をさせていただければと思います。
その名も、「Temptation C-MOUNT LENSES」。
・Cマウントレンズとは?
Cマウントレンズとは、主として16mmフィルムカメラなどに採用された汎用マウントです。
16mmフィルムカメラ以外にも、防犯用CCDカメラや、顕微鏡レンズ等対物レンズとしても使用されています。
16mmフィルムカメラとは、20世紀初頭、今やフィルムとして一般的な35mmフィルムの登場以降、
よりコンパクトな筐体を求める動きの中の中で生まれたフィルムです。
1920年頃より様々な機種が世に生み出されましたが、21世紀を前に、一般向けシネマ用途の機種はほとんどその姿を消しました。
今でも一般的な35mmフィルムと同様、いまなお16mmフィルムで作品を撮影をする方もいらっしゃいますが、
その需要は最盛期に比べるべくもなく、16mmフィルムカメラ用の交換レンズであるCマウントレンズもまた、
古い中古カメラ店の奥でひっそりと朽ち果てるのを待つばかりでした。
・21世紀の転機到来
2008年、パナソニックとオリンパスにより策定されたマイクロフォーサーズシステムが発表されました。
開発の進むフルサイズ(35mmフィルムの撮影範囲36mm×24mmをデジタルイメージセンサーで実現したサイズ)に対して、
小ささと軽さで大きなアドバンテージである本フォーマットは、市場に受け入れられ、今日まで最新機種が発表され続けるに至っております。
マイクロフォーサーズ規格は、当時先駆けて「ミラーレス一眼カメラ」という形態を示し、
従来のミラーボックスやプリズムを有する一眼レフカメラに比べ、造形の自由度が高いこともまた特徴でした。
従って、発表されたマイクロフォーサーズ機種は、既存のデジタル一眼レフカメラボデイに比べ、より嗜好を凝らしたデザインの機種が多く存在しています。
また、フランジバック(レンズ装着を行うマウント面から撮影を行うセンサー・フィルム面までの距離)が、ミラーボックスを有する一眼レフと比較し短いことで、
それまでのデジタル一眼カメラには装着が難しかった、フランジバックの短いライカなどレンジファインダーカメラの交換レンズを、社外品のマウントアダプターを介して使用可能でした。
これらの理由により、過去送り出された様々な銘オールドレンズたちが、マウントアダプターとともにマイクロフォーサーズボディへ装着されることとなりました。
しかしこれには一つ欠点があります。約17.3mm×13.0mmという35mmフルサイズセンサーと比較し小さい撮像面を採用するマイクロフォーサーズ規格は、
フルサイズ対応レンズを装着した場合、撮影画像がフルサイズと比べ大きく写ってしまいます。(換算約2倍。たとえば、焦点距離50mmのレンズを装着した場合、約100mm相当となります)
その中で再び脚光を浴びたのが、Cマウントレンズです。
元来、Cマウントレンズを使用する16mmフィルムカメラの撮影範囲は10.26×7.49mm。
マイクロフォーサーズのイメージセンサーほうが一回り大きくはなりますが、発売されている焦点距離も比較的マイクロフォーサーズのものに近いことと、
オールドレンズ的な趣のある外観、クラシックな写りなども手伝って、一時期はマイクロフォーサーズで遊ぶオールドレンズの筆頭として数えられていました。
いまではその勢いも落ち着きを取り戻しつつありますが、それまで二束三文で売られていた、フランス アンジェニュー製レンズや、
日本 帝国光学製ズノー といったCマウントシネレンズは、瞬く間に価格が高騰したのでした。
・実写編
さて、前置きはこのくらいで、実際に撮影した写真をご覧ください。
今回は、過去所持していた日本光学(現ニコン)製Cマウントシネレンズ、Cine Nikkor 25mm F1.4および50mm F1.8で撮影したものをご用意いたしました。
使用したデジタルカメラボディはオリンパス PEN E-P5と、パナソニック DMC-GX7です。
日本光学 Cine Nikkor 25mm F1.4 + OLYMPUS PEN E-P5
(SS:1/400 F1.4 ISO400)
車の助手席から撮影したカット。アートフィルターなどは特に使用せずの撮影でしたが、映画のワンシーンのような色合いがお気に入りの一枚です。
アウトフォーカス部に着目すると、ボケがなだらかで非常に美しいことがわかります。
写真の発色はオリンパスの色づくりに依るところが大きいですが、適度なコントラストが魅力的に映ります。
Cine Nikkorシリーズそのものも発色の良さには定評があるとのことです。
日本光学 Cine Nikkor 25mm F1.4 + OLYMPUS PEN E-P5
(SS:1/8000 F1.4 ISO250)
こちらのカットでは、ボケの輪郭が浮き出ているため、少々ボケの主張が大きくなっています。
日本光学 Cine Nikkor 25mm F1.4 + OLYMPUS PEN E-P5
(SS:1/40 F1.4 ISO3200)
Cマウントシネレンズといえば、当時の技術などからゴーストやフレアーが盛大に出るものもあり、ある意味その部分も魅力のひとつといえます。
本レンズもご覧のように盛大に現れますが、独特すぎて使いどころが難しいのが玉に瑕。
日本光学 Cine Nikkor 25mm F1.4 + OLYMPUS PEN E-P5
(SS:1/400 F8 ISO400)
ところで、既にお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、Cine Nikkor 25mm F1.4は、画面の四隅が黒く落ち込みます。
これはケラレと呼ばれる現象ですが、広角レンズにフィルターを付けた際のケラレや、周辺減光とは少し違います。
いかなるレンズにもイメージサークルというものが存在しており、これは撮影できる絶対領域のようなものです。
通常、撮影レンズのイメージサークルはフィルムやイメージセンサーの撮像範囲よりも大きく作られているため、画像のように顕在化することはありませんが、
本来想定している撮像範囲に対して作られたレンズのイメージサークルよりも、大きな撮像範囲のカメラを組み合わせた場合、画像のようにケラレが発生することがあります。
イメージサークルは個々のレンズによって異なりますが、望遠レンズよりも広角レンズのほうが、イメージサークルは小さい傾向にあります。
25mmよりも広角なCine Nikkor 13mm F1.8 などは、画像が完全に丸くケラレてしまいます。
そのため、購入時に同じCマウントレンズでも50mm以上の望遠レンズを選択すれば、ケラレる可能性を減らせます。
とはいえ、イメージサークルは絶対的に光学設計に依存するので、たとえば25mmだったとしても、よりイメージサークルの大きなレンズなども存在します。
私は所持していませんでしたが、同じ25mmのCine Nikkor 25mm F1.2はその大きなイメージサークルからケラレは発生しないとか。
希少価値が高く、ついに最後まで入手することができませんでしたが…。
ちなみに、このようなイメージサークル領域外が写り込む場合は、絞りが開放であるほどケラレ部分の輪郭がなだらかになり、
絞り込んで被写界深度が深くなるほど、よりハッキリとした形を示します。
日本光学 Cine Nikkor 50mm F1.8 + Panasonic DMC-GX7
(SS:1/800 F5.6 ISO200 トリミング)
レンズは打って変わって、Cine Nikkor 50mm F1.8です。
本レンズは25mmに比べ望遠の為、ケラレ自体は発生しません。
しかし、よく画像を確認してみると、中央から外周に行くにつれ、描写性能が流れるように悪化していることがわかります。
これはイメージサークル限界付近になるにつれて描写性能が悪化しているからです。
日本光学 Cine Nikkor 50mm F1.8 + Panasonic DMC-GX7
(SS:1/2500 F1.8 ISO200)
開放で近接撮影を行えば、このように顕著な所謂「ぐるぐるボケ」を楽しむことも可能です。
ボケが渦巻くように見えるのは、従来の撮影範囲内はよく補正されている非点収差が、撮影範囲外で増大となり同心円状に発生しているものだと思います。
右下が白っぽくなっているのは斜光の内面反射が原因でしょうか。
日本光学 Cine Nikkor 50mm F1.8 + Panasonic DMC-GX7
(SS:1/125 F11 ISO200)
とはいえ、先述のような諸収差も絞り込めば大きく改善されます。画面の四隅に限り、若干の色ズレが見えますが、
ご覧の画像のように非常にシャープで、パンフォーカスな画像を得ることができます。
日本光学 Cine Nikkor 50mm F1.8 + Panasonic DMC-GX7
(SS:1/3200 F1.8 ISO200)
また、このレンズの魅力は、ぐるぐるボケのような面白さだけではありません。
Cine Nikkor 25mm F1.4と同様、なだらかながらもメリハリのあるコントラスト。そして、絶妙な立体感です。
マイクロフォーサーズボディとの組み合わせでは先述した描写特性の関係で被写体をあまり外周に配置することはできませんが、
構図が決まるとなんとも気持ちのいいレンズです。
・魅力的な、Cマウントレンズの誘惑
先日、PanasonicからDC-G100が発売されました。
DC-G100はVLOGerをターゲットにしたマイクロフォーサーズ規格デジタルカメラです。
動画撮影のハードルは、ひと昔前に比べ格段に下がっていると感じます。
Cマウントレンズはもともとシネマ撮影―すなわち動画撮影に適したレンズがそろっています。
絞り羽根枚数が多く、どの位置でも滑らかなボケを発揮できるレンズも多く存在しています。
スチルに特化するカメラとしても、OLYMPUS OM-D E-M1 Mark IIIは大変好評をいただいているイチオシカメラの筆頭です。
まだまだ楽しめるマイクロフォーサーズ規格のボディとともに、Cマウントレンズという選択肢をお楽しみされるのはいかがでしょうか。