【Nikon】58年目の58mm
Nippon Kogaku Japan Nikkor-S Auto 5.8cm F1.4
レンジファインダー式のカメラから一眼レフへ、カメラの有様が大きく変わった頃、レンジファインダー用のレンズで
達成できていた標準画角でのF1.4。
Nikkor-S Auto 5.8cm F1.4は、カメラメーカーとして譲れない標準域でのF1.4を目指して開発された一眼レフ用のNikonのレンズです。
標準から8mm長い58mmという設計になったのは、当時の技術ではF1.4を達成する為に、焦点距離を8㎜伸ばすことで
必要なバックフォーカスを確保せざるを得なかったからです。
後に発売されたNikkor-S Auto 50mm F1.4で50mmでのF1.4を達成するのですが、
Nikonはそれまでにさらに2年の歳月を必要としました。
50mmという焦点距離を諦めてまで設計されたF1.4、開発側からすれば、いわば苦渋の決断を迫られたレンズであったと思います。
そして、レンズの味を求める側からすれば、それはきっと楽しいレンズに違いありません。
今ある様々な特徴を持った硝子が使えなかった時代に、収差のバランスをどこに置くかで、開発側の意図が見え隠れしやすいからです。
今回はSonyのα7RIIにアダプターを介して装着し、撮影してきました。
思いのほか、絞り開放でも解像度やコントラストはしっかりと出ています。
加えてやや長い画角が、より一歩被写体に踏み込んだようで面白い画角です。
それでも、やはり古いダブルガウス形のレンズに多く見られる薄いベールのようなものをまとっている、そんな描写です。
やや遠景になると解像の甘さが見られるようになってきます。この固体では遠景側でのハロが近距離よりも感じられます。
前ボケの丸みはなかなかのもの。現代でも十分に綺麗といえるボケと感じます。
このレンズで感じた不思議な事は、絞るとやや色が濁るという独特の癖でした。
下の写真は同じ場所から絞りをF1.4とF5.6での撮影結果。絞りリングを動かしただけの写真です。
F1.4で撮影。
こちらはF5.6で撮影。解像力は上がるものの周辺光量落ちが無くなるためか、
絞り解放時の色合いとずいぶん違います。α7RIIとの相性なのかはわかりませんでしたが、不思議な癖です。
現像時に彩度や露出など調整することで、解放時の色合いに近づける事はできます。
色の濁りもモノクロにするとわかりません。かつコントラストが画面全域でやや眠くなるため、落ち着いた絵が撮れるようになります。
写真はF2。絞り解放からF2.8あたりまで、絞りの形は正六角形とはならず、絞り羽根の形状にヒゲが見られます。
そのため、点光源のボケは独特の形となります。特に周辺部では口径食と相まってこんな形になってしまいました。
画面中心の解像力はF2.8の段階でかなり高く、α7RIIの4000万画素に対して、いまでも十分に答えてくれます。
F8では中間部までもα7RIIの4000万画素に対しても応えてくれました。これにはやや驚きました。
思わず「さすがニコン!」と思わせてくれる描写です。周辺部は像面湾曲の影響か、やはり解像力は低下します。
絞り開放と、絞り込んだときのシャープさ。その二面性がより濃く反映されやすく使っていてとても楽しいレンズです。
色収差も年代を考えれば良好に補正されていたのが意外に感じました。
撮影前は、盛大な収差で開放はさぞかし楽しいだろうと踏んでおりましたが、この落ち着いた描写に苦渋の8mmの深さを
垣間見た気がします。この8mmがニコンにとってどれほど苦渋の決断だったかは、
わずか2年後の1962年にNikkor-S Auto 50mm F1.4を販売したことからも感じることができます。
開放からうまく収めた収差は、ポートレートの撮影距離で大きく暴れることの無いボケ味と相まって優しい描写をします。
1960年に生産が開始され、1962年に生産が終了されました。初代の58mm F1.4は生産期間わずか2年という短命のレンズでした。
そのため、生産本数が約30,000本程度であることが悔やまれます。けして少ない数ではありませんが、多いわけでもありません。
当店でも、たまに入荷するレンズですので、見つけたら是非購入して遊んでみて下さい。
また、α7RIIも古いレンズの描写を味わうのにとても便利なカメラです。
マウントアダプターで最新のレンズから古いレンズまで一貫して楽しめる高解像度のボディというはとても貴重です。
やや値は張りますが、α7RIIIよりは安価です。こちらも是非。
|
|
|
|