【Rollei】Rolleiflexにうってつけの日
じりじりと地面を焦がす夏。
私にとって夏とは、はつらつとしたものではなく、
大きな入道雲に押しつぶされ、高く青い空から俯瞰されているような鬱屈さを感じさせます。
暑さそのものも、得意ではありあせん。
ずっと昔には、この季節が待ち遠しかったはずだったのが、いつから苦手になってしまったのでしょうか。
夏が苦手な私は、影のように涼しい場所を探してさまよっているわけです。
こんな日の始まりには、写真撮影も少しテイストを変えてみます。
持ち出すカメラは、普段使いのデジタルカメラではなく、趣味性の高いフィルムカメラを使うのにうってつけです。
…
今回、暑さから逃げ込んだ先は水族館。
伴ったカメラは、Rolleiflex 2.8Fです。
Rolleiflexといえば、ちょうど100年ほどの歴史を持つドイツの老舗 Rolleiの看板商品で、
所謂二眼レフカメラの代名詞的存在にもなっている銘機です。
Rollei自体は様々な種類のカメラを発売したメーカーではありますが、二眼レフにおいては、1929年にオリジナルが発売されて以降改良が重ねられ続け、
Rolleiflex 2.8F自体は、今から60年ほど前に発売されました。
レンズはカールツァイス製 プラナーあるいはシュナイダークロイツナッハ製のクセノタールが誇らしく備えつけられており、
フィルムは6x6cmの120サイズ(後期からは220サイズに対応)を装填し撮影することができます。
と、知識で語ったものの実際のところ私自身はRolleiflexの二眼レフを使用した経験は無い為、
同じフォーマットをベースにしてHasselblad Vシステム等から比較していました。
今回組み合わせるフィルムは冷蔵庫に眠っていたPortra 400 をチョイス。
ところで余談ですが、実際にフィルムを装填するところから、まず一つ目の驚きが。
それは「オートマット」という機能で、フィルムをセットして裏蓋を閉め、巻き上げるだけで撮影可能になるというもの。
135フィルムをメインで使用される方からすると、「何がスゴいの?」と思われるかもしれませんが、
一般的な中判フィルムカメラでフィルムを装填する際は、フィルムに印字された開始線とカメラ側の開始線をピッタリ併せて裏蓋を閉めるという工程が入る為、
このひと手間がないだけでも随分煩わしさの感覚が減ります。(とはいえ、そういったアナログ的な作業も醍醐味のひとつですが。)
オートマットの機能を有するカメラはRollei以外のメーカーからも何種類かありますが、いずれも当時のフラッグシップクラスのみが有する、上位機能だったようです。
撮影を始めてみると、当然ですが、様々なところが一眼レフタイプの中判カメラとは異なっていることに気が付きます。
巻き上げやレリーズの動作は極めて静粛性に優れており、モジュールとして洗練されたHasselbladとはまた違った雰囲気を感じます。
たとえるならば、Hasselbladはメカニカルの駆動などが各パーツで連動して行われる愉しさがある「動的なカメラ」であるのに対し、
Rolleiflex 2.8Fはすべての動作を静かに、そして上品に完結できる「静的なカメラ」であると感じました。
そして何より、特筆すべきはRolleiflexの優美な外観でしょう。
大衆の中で想像される二眼レフというものに対するイメージが、おおよそこのカメラに帰結するのは、
それだけこのカメラのデザインが広い人々によって受け止められ、愛されているということではないでしょうか。
水族館といえば露出環境がシビアですが、感度400のカラーネガとF2.8のプラナーのおかげでなんとかなりました。
描写性能は、現代的なシャープネスな写りというような傾向ではなく、開放では少しソフトがかっていて、しかし芯は残っているような印象です。
すべて開放での撮影ですので、年代を鑑みれば必要十分な情報量だと思います。
最後はピンボケの猫で。
ところで、次のような言葉があります。「Less is More」—ドイツ人の建築家の言葉で、「少ないことは、豊かである」という意味合いのもの。
デジタルカメラの多彩な機能・高性能さに気おされて、たまにふと写真撮影につかれてしまうことがありました。
新しい機種は次々と発表され、お気に入りの一台も過去のものとなってしまう、それがさみしくも感じました。
その点、フィルムカメラは過去のものであるということはわかりきっていて、既に市場における評価もおおむね出尽くしている状態です。
機能こそいまのデジタルカメラに及ばない点もありますが、撮影の方式が限られる状態こそ、自分なりの趣向を凝らし、工夫をして臨むかもしれません。
お気に入りの一台で撮影に臨み、ままならない自由の中で撮れる瞬間、上がってきた素晴らしい原版は、デジタルカメラに勝るとも劣りません。
「どちらがよい」という話ではありませんが、一つ思うのは、Rolleiflexのようなフィルムカメラは、車で言うならMTのクラシックカーを運転する感覚と似ている、ということ。
機械と向き合って、自分で操作する感覚。そして、洗練され、クラシックさを醸し出す見た目。所有欲を満たす、そのすべて。
Rolleiflexにうってつけの日は、所有してから、その毎日となることでしょう。