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【極私的カメラうんちく】第10回:最後のスプリングカメラ

スプリングカメラというジャンルをご存じだろうか。

 スプリングカメラはレンズの出っ張り部分をワンタッチで折りたたんで収納出来るカメラである。35mm判にも存在するが、多くは中判に属するフォーマットでブローニーフィルムを使用するカメラが最も多い。基本的な構造はシャッターを内蔵したレンズ部分とカメラボディがタスキと呼ばれる金属製のパンタグラフのような構造によって連結されており、レンズ後端からフィルムまでの間は大抵蛇腹で繋がっている。また単に折りたたんで薄くなるばかりではなく、レンズを収納したときはその上から自然にカバーが被さり完璧なアウターシェルが完成する。名前の由来はそのカバーを開けて、収納されたレンズを引っ張り出す時に途中までバネの力で飛び出すモデルが多かったために付いたと考えられる。

 この携帯時の安全性と小型化を同時に実現した合理的な構造に魅せられた愛好家は数多い。

 優れた構造を持つスプリングカメラだが、優秀な携帯性を持つ一方でボディとレンズの連動機構が作りにくい性質を持っている。つまり収納時にレンズ側のユニットが大きく移動することから、フィルム巻上げとシャッターチャージを一度に行うセルフコッキングや、レンズの繰り出しに連動する距離計を同時にボディに内蔵することが非常に難しいのである。これらは今時の一眼レフやレンジファインダーでは当たり前の性能だが、スプリングカメラに組み込むには多くの障害を乗り越える必要があった。スプリングカメラが最も盛んに作られたのは1950年代だが、結局その後は35mm判の台頭によって衰退してしまう。

 ところが衰退から久しい1980年代に入ってスプリングカメラの新製品が発売される。フジカ(現フジフィルム)のGS645である。

 GS645は6×4.5cm判スプリングカメラである。レンズシャッターは機械制御式だが、内蔵露出計はもちろん、ボディ側のレバー式巻き上げによるセルフコッキング機構、採光式ブライトフレームおよび二重像合致式の連動距離計ファインダーを搭載し、黒いプラスチックの外装も手伝って往年のスプリングカメラとは全く別物の印象である。それでいてスプリングカメラの最大の特長である携帯性は全く失われておらず、折りたたんだ時の体積はレンジファインダー機であることを差し引いても、現存する中判カメラの常識をも大きく超えている。さらに往時のスプリングカメラでは前玉回転式が普通だったレンズの繰り出しを全群の繰り出し式とし、近接撮影時の画質の劣化が無いように最大限の配慮がなされている。

 1980年代はAE(自動露出)などの普及により使い勝手の向上した中判カメラの人気が向上し、35mm判を陵駕するプリント画質によって中判カメラは再評価の時代を迎えていた。そして一眼レフによって人気を得た645判フォーマットはそのサブシステムとして小型軽量のレンジファインダー機の需要を生み出し、究極の携帯性を追求した結果がスプリングカメラに行き着いてしまったと言える。しかし便利なカメラに慣れたユーザーにとって不便な使い勝手は到底受け入れられない。そこで従来のスプリングカメラの弱点をことごとく克服して製品化されたのがGS645である。

 GS645はその後のNewマミヤ6やGAシリーズへと続く新世代の中判レンジファインダー機の先鞭といえるだろう。

 しかしその後はスプリング式を採用した中判カメラは発売されていない。
 当のGSシリーズも、その後広角レンズを搭載しレンズ固定式としたGS645SとGS65Wの2機種が加わったが、なぜか唯一スプリング式のGS645だけが早々と生産を終了してしまった。一説ではスプリング式で可動部分が多いことの弊害が強度面や精度面に出たためとも言われているが、詳細は不明である。

 いずれにせよ並外れた特長をもつ製品だけがはなつ存在感は、発売から20年以上を経過した現在でも全く薄れてはいないのは確かである。事実登山を趣味とする人たちや、山岳写真家にはいまだに実用品としての愛好者が多いと聞く。グラム単位で荷物の重さを気にかける人たちにとって、GS645はこの上ないパートナーといえるだろう。あいにく筆者に登山の趣味はないが、それでもGS645が多くのひとが復刻を夢みるカメラの一台であるのは間違いないと信じている。

[ Category:etc. | 掲載日時:05年10月20日 00時00分 ]

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