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【極私的カメラうんちく】第18回:宇宙を見つめる補正技術

このところ手振れ補正技術の多様化と一般化が急速に進んでいる。

新型コンパクトデジタルカメラは手振れ補正機能が当たり前になっており、またかつてはキヤノンの独壇場と呼ばれた一眼レフの手振れ補正技術にも、次々と後発メーカーが現れている。そこで念のためだが、手振れ補正技術には3種類が存在するのをご存知だろうか。

1. 光学系シフト方式・・・レンズ光学系の一部を光軸に対して平行移動させることで、結像位置を移動し、ブレを相殺し軽減するもの。一眼レフでは最も早く実用化された。手振れ補正機能内蔵レンズを使用しないと機能しない。そのためユーザー側には買い替え負担が発生するが、開発力のあるメーカーならば新製品拡販のための重要なポイントとなる。現在キヤノン(IS)、ニコン(VR)、シグマ(OS)が採用。キヤノンが一部EVFデジタルカメラにも採用している。

2. CCDシフト方式・・・撮像素子をブレに応じて水平、垂直方向に動かすことでブレを相殺し軽減するもの。交換レンズを選ばない特性のため、一眼レフでは光学系シフト方式に比べてユーザー側の交換レンズ買い替え負担が少ない。一眼レフではコニカミノルタ(AS)とソニー、PENTAX(SR)が採用。ちなみにソニーのα100はCCDの高速運動機能を応用し、撮像素子を高速で振動させることによって、ローパスフィルターに付着した微細なゴミを除去することも可能とされている。

3. バリアングルプリズム方式・・・レンズ光学系内に液体などを封入した蛇腹状の屈折光学系を内蔵し、それを変形させることで結像面を移動し、ブレを相殺し軽減するもの。フィルムコンパクトカメラで初めて実用化されたが、カメラに採用されたのは少数の実験的な製品だけにとどまった。現在は主に双眼鏡に採用されている。

これらに共通するカメラの手振れ補正の原理は、レンズやボディに内蔵された角速度センサーがカメラの動きを数値化し、それをもとに最も効果的にブレを軽減できるように光学系の一部や撮像素子を動かしている。カメラがどの程度動くと、映像がどのくらいの速さでどの程度の距離を移動するかは、レンズの焦点距離や撮影時の倍率、またレンズの全長などによっても異なるため、正確な演算には多くの情報が必要である。光学系シフト方式はレンズが全て専用の新設計のため、比較的多くの情報量から光学系の動きを割り出すことができると云われている。それに対しCCDシフト方式はレンズ側に手振れ補正に関する特別のしくみを持たないため、光学系シフト方式に比べると比較的少ない情報量で撮像素子の動きを割り出す必要がある。CCDシフト方式が専用のレンズを必要としないメリットに比べれば些細なことかも知れないが、補正機能の絶対値という点では光学系シフト方式にやや分があるように見える。

また手振れ補正機能はご存知の通り被写体ブレには効果が無く、全てのブレに効果があるわけではない。そのため手振れ補正機能に加えて、撮像素子のISO感度を従来の2~4倍に上げることでさらなるブレ防止効果を謳っているものもある。

ところで高性能の天体望遠鏡には「回折限界」と呼ばれる分解能の理論的限界値が存在するが、地上の天体望遠鏡はその誕生以来、どんなに性能の良いものでも大気の揺らぎの影響によって著しくその性能が損なわれてきた。ところが現在の天体観測技術には補償光学装置という大気の揺らぎをリアルタイムで補正する技術が存在する。元は地上から人工衛星を監視するための軍事技術だったが、現在は宇宙誕生の謎を解くために利用されている。大気の影響を受けないハッブル宇宙望遠鏡の映像を初めて見た時はその美しさに驚愕したが、今やそれよりも遥かに巨大な地上望遠鏡が、揺らぎ補正技術によって回折限界に達する解像度で観測することを可能にしているのである。

映像記録装置の誕生以来、人類はより精緻な映像を常に追い求め、あらゆる装置の改良を行ってきた。補償光学装置とスチルカメラの手振れ補正技術は、単に映像装置の改良技術として共通しているだけではなく、周囲の環境が及ぼす映像への影響を内蔵装置によって軽減し、そして実用限界に達しつつある光学系の性能を、理論性能に近づけるべく誕生した点でも一致している。

星のまたたきをも止める補正技術は、いつか被写体の動きすら止めてしまうのかもしれない。

[ Category:etc. | 掲載日時:06年06月20日 00時00分 ]

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