【極私的カメラうんちく】第3回:ユニバーサルマウント
ユニバーサルマウントという言葉をご存知だろうか。
直訳すると「世界マウント」。カメラの話でマウントと言えばカメラボディと交換レンズを取り付けるしくみのことである。つまりユニバーサルマウント(以下UM)とは世界中で共通使用が可能なカメラマウントの意味である。もし本当にこれが実現すればどこのメーカーが作ったレンズであっても全て自分のカメラボディに装着/使用が可能になるというのが発想の原点だが、実際はカメラボディ側にフォーマットの違いや測距方式の違いが存在することを考慮すると「完全統一」の実現性が低いことから、少なくとも複数のメーカー間でレンズとボディの相互互換性があればそれらを便宜上UMと呼ぶことが多い。
しかし真の意味でUMが目指すのはやはり全世界のカメラマウントの統一/統合であり、そしてある時代においてはそれが今考える程には夢物語ではなかったことも確かである。
代表的なレンズ交換式カメラとしてライカを例にとると、戦前と戦後間もなくライカは高過ぎる値段とその絶大な知名度がゆえにヨーロッパ中にコピー品が出回っていた。また戦後の日本製も同じ理由からレンズマウントの規格を当事のライカからコピーして製品化した。そのため当時日本の距離計連動カメラはニコンを除いてことごとくライカLマウントを採用するに至り、結果としてコピーライカとライカ、あるいは日本製距離計連動カメラとライカの間ではあらゆる相互乗り入れが可能な環境が出来上がった。それはライカ自らが望んだ結果ではなかったとしても、ライカLマウントはその絶版以降もUMの代表例として名高い。
ライカの事例とは異なり、逆に自社製カメラボディの拡販のために自社のマウント規格を公開し、一種の「囲い込み」のために他メーカーの参入を呼びかけることもある。ペンタックスが35mm判レンズ交換式一眼レフ用として規格を公開し、リコーとシグマ、コシナ、チノンが参入したKマウントがその代表例である。現在のシグマ製一眼レフはSAマウントという独自規格に変わっているが、シグマレンズのリアキャップを見るとSA用とペンタックスK用が今も共用なのはかつての名残である。
他にも主だったところを挙げれば低価格一眼レフ用としてポピュラーなプラクチカマウント(PマウントあるいはM42などと呼ばれる。初期の35mm判ペンタックス一眼レフや最近ではベッサフレックスにも採用された)が有名である。
また今となっては汎用性が低いがエキザクタマウント(エキザクタ⇔トプコン他)、デッケルマウント(フォクトレンダー⇔コダック、アグファ他)などが過去には存在した。
こうして振り返って見るとUMは一時的に成功する場合があるにせよ、例外なくその後マウント自体が絶版あるいは改変されて終焉する運命にある。戦後のカメラは急激な技術革新により、当初は想定できなかった高度で複雑なインターフェースを次々と必要としたため、その度に各メーカーで独自規格が乱立してきたことが主な理由である。旧くは自動絞りの連動機構、その後は内臓露出計との連動方式を統一出来ずに多くのUMが姿を消した。前述のKマウントも高度/複雑化するカメラボディと交換レンズの露出連動に対応するため、ペンタックス自らがレンズマウントに新たに電気的な通信を追加するに至りUM構想に終止符を打った。また取り付け方式がネジからバヨネットに変更されたこともUMにとっては大きな衝撃だった。しかし言うなればこれらの変更はまさにカメラの改良の歴史そのものである。そしてUMはその度に荒波に飲み込まれてきたといえる。
また近年のライカMマウントやベッサフレックスシリーズの「UM現象」はきわめて異例と言えるが、これらが営業戦略的には非常にセンセーショナルであっても、機械技術的には露出計やAFとの連動機構を持たない比較的原始的なマウントであるが故に可能であったと言える。
そんな中2002年9月に発表されたフォーサーズシステムはデジタル一眼レフ専用のフォーマットとマウント規格をオリンパスとコダックが提唱し、当初よりUMを標榜して外部の参入を呼びかけた。同時にオリンパスのレンズ交換式デジタル一眼レフメーカーとしての沈黙も破ったこの発表は大きな波紋を呼んだが、極めて高度な通信システムを備えた現代のAFカメラシステムがどこまでUMとして維持できるかについては様々な議論がある。しかし一方ではレンズ交換式デジタル一眼レフのラインナップを持たないメーカーにとって、市場への参入障壁を大幅に減らす上で大きな意味を持つ。そして2003年10月、初のフォーサーズマウント機としてデジタル専用設計システム一眼レフ「E-1」が誕生する。
現在フォーサーズには純正OMズイコー用以外にも、ボディの普及率から考えるとあり得ない種類のマウントアダプターが用品メーカーから発売されている。マウントアダプターが故の使用制限は当然あるが、従来補正レンズ無しには製作不可能だったものが大口径マウントと短いフランジバックのおかげで補正レンズが不要になるなど、各種マウントアダプターの製作にとって有利な条件が揃っているためである。よもやフォーサーズマウントを設計した担当者がこれほどの種類のマウントアダプターが他社から発売されることをUM構想の一部として予見していたかどうかは想像の範囲を出ないが、これも事実上フォーサーズが現時点で持つひとつのUM的側面といえるのは間違いない。
フォーサーズは現在オリンパス製カメラボディ2機種が存在するのみでありUMを標榜するからには他メーカーの参入が是非とも待ち遠しいところである。また理論上ありうる展開として、ライカ製フォーサーズレンズや薄型単焦点レンズ、また手ぶれ補正技術などが今後どのように商品化されてゆくのか興味深い点は数多い。そして何よりも今後登場する「新技術」という荒波をどう乗り越えてゆくのか。それらを見守りながら、フォーサーズが一切のアダプターを介さずとも世界とつながる、本当の意味での「世界マウント」へ成長することを是非とも期待したい。