週刊カメラーズ・ハイ!第16回『戦前ツァイスの技術力とプライド Contax I 型』
戦前、そのCarl Zeiss財団の子会社であるZeiss Ikon社が作りあげた初めての35mm判レンジファインダーカメラが『Contax I 型』です。
1932年に発売となった『Contax I 型』は当時のZeiss Ikon社が持つ最高の技術により造られたカメラでした。
(※写真のContax I型は筆者所有のVer.2と呼ばれる個体。1932年夏〜1933春まで発売していたモデルで、Ver.2でも様々な仕様が存在する。)
ボディには当時の新素材であるジルミン系アルミ合金ダイカストという金属を採用しました。
その事によりボディの剛性力が向上し、フィルム交換時にカメラボディから裏蓋を完全に脱着できる構造を実現しています。
シャッター速度は当初最高速1/1000秒。後に改良が加えられ1/1250秒まで向上します。
そのシャッタースピードと精度を出す為に、写真史上初めて縦走り金属製フォーカルプレーン式シャッターを採用しました。
金属製シャッターは強い光線が焦点を結んでも焼けて穴が開く心配がなく、
作動を短時間で完了させることで移動している被写体の変形を少なくするというメリットがある為です。
当時この複雑なシャッター機構はZeiss Ikonだからこそ設計と完成ができたと言われています。
(※写真のVer.2のシャッター幕はジュラルミン製。のちに真鍮製へ変更となる)
次にレンジファインダーの目である距離計は 101.7mmという長大な基線長の設計になってます。
そのため8.5cm、13.5cmの望遠レンズを付けたときでも非常に高精度なピント合わせが可能になっています。
(※距離計窓の横にはコブ状の隆起が1つある。これは距離計駆動の機構改良の為に付いたもので、
同じVer.2でも隆起の無い物、隆起が2つ付いているものなどがある。)
そして専用レンズにはCarl Zeissの技術の結晶である高性能レンズがラインナップされました。
その中でもルートヴィッヒ・ベルテレ博士が設計をしたゾナー 5cm F1.5は当時世界最速のハイスピードレンズとして知られ
ライバルであるライツ社が同スペックのレンズを出したのは約10年後の事になります。
(※写真は筆者所有の戦後Zeiss Opton社製ゾナー5cm F1.5。銘はZeiss OptonではなくCarl Zeiss。
コーティングが当たり前となりフロントリングにあったTの刻印は無いモデル)
ずらずらっと機械的な説明になってしまいましたが『Contax I 型』は機械美といいますか、
ライカとはまた違った美しさと魅力のあるカメラです。
今このカメラを手に取ってみると、質量のあるずっしりとした重みを感じます。
この重さは完全主義とも言えるくらい複雑に組み込まれた部品の他に、
カメラに込められた当時の技術者達のプライドが詰まっているからかもしれません。