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【極私的カメラうんちく】第29回:現代の「不変マウント」伝説

「不変のマウント」といえば、ニコンFマウントを筆頭に挙げる人が多い。

本当にそうなのだろうか。

ニコンFマウント「不変」の伝説は、1960年代に外部露出計(ニコンメーターF)との連動用としてレンズについていた連動ピンである「蟹爪」の存在によって、ボディ側の連動機構に工夫を施すことにより、当時の最新技術だった「TTL開放測光」に「ほぼ」完全対応できたことに由来する。つまりレンズ側の構造を一切変えることなく、比較的「原始的」な外部露出計方式から(絞り込み測光の段階すら経ずに)一足飛びに当時の最新技術だったTTL開放測光方式に移行できた「奇跡」が、伝説となって今に生き残っているのである。
TTL開放測光とは、レンズを通った光の量を測り(Through The (taking) Lens)、かつ明るいファインダーのままで露出計と連動した絞り環を自由に操作できる内蔵露出計関連の性能のことだが、現代の一眼レフなら当たり前以前の性能である。しかし当時はカメラに露出計を内蔵していることすら珍しく、またレンズを通った光を測るTTL方式は、レンズ交換を前提とした一眼レフシステムにとっては悲願の性能だった。
また当時大抵のカメラメーカーは、TTL開放測光方式という新たなボディとレンズのインターフェース機能の導入に際して、新規に増設した連動ピンや、マウントそのものを作り変えることによってようやく対応していた状況であり、言ってみれば時代背景はまさに「マウントの改変止むなし」の風潮だったのである。そんな中レンズ側のマウントを一切変えずにTTL開放測光を実現したニコンの対応は、まさに「離れ業」と呼ぶに相応しい偉業だったといえる。

しかし残念なことに、その後ニコンFマウントにも「改変」の波が押し寄せる。
蟹爪連動は「マウントを変えない」という意味では非常に画期的な方式だったが、レンズを装着するたびに絞り環の往復運動(通称ガチャガチャ)が必要だった。TTL開放測光が当たり前の時代になってみると、レンズ交換の度に絞り環の往復運動が必要なニコンFマウントは、ひねってパチンと簡単に装着できる他社製のシステムに比べて明らかに見劣りしたのである。そしてついに、1970年代に始まったAi連動化によって、レンズとボディの両方に新たな連動ピンが増設され、その時点で「ニコンを救った」とまで言われた「蟹爪」はもはや過去の遺物となってしまった。それどころか、そのAi連動化によってその後発売されたAi連動のカメラボディには(一部のプロ用機を除いて)、Ai化以前の「ニッコールオートレンズ」は「装着」すらできなくなってしまったのである。Ai化以前のボディにAiレンズを装着することは可能だが、その逆は、ボディ側の「Aiピン」が邪魔になるため、レンズマウント側に改めて「Ai改造」を施さなければならなかったのだ。そしてその後も今日に至るまで、新規追加された性能の実現のたびに新しい規格のレンズが作られ、その度に旧いカメラボディとの間にはいくつもの「使用制限」が作られてきた。これらの歴史を振り返るとき、Fマウントを安易に「不変」と呼ぶのが適当ではないことは、容易に理解できるだろう。

そして時代は流れて、一眼レフの主流はデジタルカメラとなった。
今年の春に、小型で超低価格を特長として発売されたニコンの意欲作D40が、大半の現行AFレンズをオートフォーカスで使用できないことは、またしても新たな「使用制限」が追加されたかのように見える。
しかし驚くべきことは、そのD40の内蔵フラッシュのせりだし部分には、「蟹爪」付レンズのためにぎりぎりのクリアランスが残してあり、さらに普及機であるが故にAi連動ピンを省略し、「最小絞り検知レバー」も簡略化したおかげで、Ai以前の「ニッコールオート」レンズの装着までもが可能になっていることである。言い換えれば、普及機種がゆえに旧い連動規格の簡略化を突き詰めた結果、図らずも「装着可能」と言う意味では、かつてどんなプロ用機も成し得なかった互換性を得るに至り、そしてその一方で、ほとんど誰にも気付かれない配慮がそのボディ形状にも織り込まれていたことになる。
またデジタルカメラでは、内蔵露出計の機能的優先順位がフィルムカメラに比べて大幅に後退していることは、以前にもこのコラムで指摘したとおりである。D40にMF専用レンズ(Ai-Pレンズを除く)を装着した場合、露出はマニュアルモードに限られるが、背面液晶による撮影画像の確認が随時可能なため、「露出計非連動」による実用上の大きな障害はない。しかもMFによるピント合わせの手助けとなるフォーカスエイド機能も、ほとんどのMFレンズで可能である。

Ai連動ピンはおろか現行AFレンズとの連動用カップリングすら持たないD40が、半世紀近く前の旧規格レンズに対しても高い実用性を持ち合わせていたことは、ニコンの不変マウント伝説の一面として捉えてよいだろう。しかし、D40が全てのレンズ機能を発揮出来るのは「AF-S/AF-I およびAi-Pレンズ」だけなのもまた事実であり、現代の「不変マウント」伝説には、どうしても新たな価値観と、より深い理解が必要な事は確かなようである。

[ Category:etc. | 掲載日時:07年05月20日 00時00分 ]

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